「とりあえず皆も助けないと」
小頭はそういって周囲を見回す。とりあえずこの濃霧の中を気ままに、手をつないだまま歩いた。。周囲をちょっとグルグルとしてみただけでもそれだけでもわかる。ここには「何もない」――のだと。本当におじいちゃんの家なら……そのダイニングなら、食事を置いて、そして家族が囲めるだけの大きな食卓があるはずだ。けどない……でもそれなら……だ。でもそれなら……
「ねえ、どうやって私を連れ戻したの? 夢の中に二人ともいたんだよ? そうなると、私とあんたはちょっとは離れてたことにならない? そして離れちゃったらこの通り、その場にはいなくなって、干渉だって出来ない」
小頭は冷静に分析する。なんかいつもよりもちょっと頭がいいように思える。でも小頭が言うのはその通りだ。小頭が分析したとおりに、二人は幸福な『夢』を見てたのは事実で、そしてそれは夢に入ってた証。
つまりは本当なら他の家族と同じように、分断されてておかしくないのだ。でも……二人はこうやってまた一緒にいることが出来てる。これはある意味で、夢に入った人とも目覚めさせることが出来たら、ちゃんと合流できる……という事の現れ。いや証明だ。
けどそれを確信に変えるためにも、ちゃんとした状況証拠が小頭はほしいと思ってるみたい。二人のその時の状況を知ることによって、次につなげようとしてる。
「正直、いつ敵の術中に入ったか、それはわからない。気づいたら自然に……だったからな」
「そっか……私も違和感なんて最初は持たなかったしね」
それはつまりは夢の中に入ったとしても、当の本人がそれに……夢だと気づくことももしかしたらない……ということ。さらにいうと……
(私みたいなパターンだってあるよね)
小頭は夢を選択した側だ。恥ずかしながら、小頭はそれをやってしまった。
(けどあれは……そういう選択だって普通にある……でしょ?)
うんうん、自分の中で自分の選択の言い訳をする小頭である。そしてちらっと手をつないでる鬼男の方を見た。鬼男は確かにそこにいる。その距離はほんの一メートルくらいだろう。けどここの濃霧はそれでも少し彼の顔を見づらくしてる。
「そう言えばそっちはどんなゆ……ううん、なんでもない」
薄く、見えづらくなってる鬼男を見て、ふと小頭は聞こうとしてしまった。それは彼が、鬼男が見たであろう夢。小頭と同じなら、鬼男も幸福で、そしてもう手に入らない夢を見たはずだ。でも小頭は最後までそれを聞くことはしなかった。
だって、鬼男は現実を自分で選んで、そして小頭を助けてくれたから……そしてこの場所が見せる幸福な夢は……絶対に現実ではかなうこともない――のだと小頭はおもってる。
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