松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆公務員の地域参画が問いかけるもの

2024-04-21 | 地方公務員法

 あらためて、公務員の地域参画が問いかけるものに気がついた。

 公務員の地域参画や副業に対して、抑制的であったり、許可制(許可とは原則禁止で、それを特別に許すもの)を採用するのは、公務員は全体の奉仕者であるからである。

 「すべて職員は、全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」(30条)と地方公務員法には書かれている。

 全体の奉仕者とは、国民全体の利益・幸福のために奉仕するものであることをい い、国民の中の一部の利益・幸福のために奉仕するものではないことをいう 。そこから派生して、「公務員が自己の利益・幸福のためのみに専念してはならないということも 当然に含まれる」(『憲法(上)〔新版〕』佐藤功 242-243 頁)ということになる。

 公務員の政治活動を規制する論拠としての「全体の奉仕者」は、すでに昭和40年代に乗り越えられているが、公務員の日常生活を規制する論拠としては、今日も続いている。

 全体の奉仕者論の強み、その抽象性だと思う。抽象的であるがゆえに、理念的、理想的なケースを想定できる。

 連れ合いは、以前は、「隣りのおじさん」の例をよく持ち出した。隣のおじさんは、まめで家事全般をやってくれている、隣りのおじさんは大工仕事が得意でなんでもあっという間に直してくれる…等々。ケースに応じて、あちこちから都合のよい隣のおじさんを出してくるから、こちらは、歯が立たない。全体の奉仕者もこうした抽象性を持っている。

 全体の奉仕者だから、低賃金で長時間働くのも当然である。全体の奉仕者だから市民のクレームはどこまで設けるべきである。仕事中は全力を挙げて専念しなければいけないから、今夜、どこへ飲みに行こうと考えてはいけない…等々。

 職務専念義務の規定は、地方公務員法の30条と35条に規定されている。規定では職務専念義務が要求されるのは、勤務時間中である。行政実例でも、昭和26年12月12日、地自公発第549号において、「地方自治法第35条の職務に専念する義務は、当該職員に割振られた(延長の場合を含む)勤務時間以外においてもあると解してもよいか。」との問いに対し、「設問の場合、ないと解する。」と回答されていることから、地方公務員の職務専念義務は、勤務時間中にのみ課せられる。

 しかし、全体の奉仕者と職務専念義務が抽象的に理解されて、公務員は勤務時間外であっても、いつでも職務を考え、職務の支障になるようなことはやっていはいけないという運用になる。

 ポイントは、「本務が疎かになる恐れ」である。自己実現のための活動も、結果として、①地域活動に力が入り、勤務時間をさくことになるのではないか、②地域活動のために著しい疲労のため、職務遂行上その能率に悪影響を与えるのではないか、③何かあったとき、公務員としての信用を傷つけ、または官職全体の不名誉となるおそれがあるのではない。そうした恐れはないわけではないだろうから、安全面から考えて、いくら自己実現のための活動であっても、止めといた方がいいという流れになっていく。

 これでは、今の若者は、公務員にはならない。志を持って公務員になった人も、希望を失い、転職してしまうだろう。その結果、公務員の質は落ち、巡り巡って、国民の不利益になる。

 公務員の地域参画は、ある種の危険性を持っている。これまでの全体の奉仕者論の延長として、公務員の地域参画を進めると、滅私奉公をさらに加速させることになる。

 そうではなく、憲法13条の個人の尊重から立論し、自己実現のひとつとして、公務員の地域参画を組み立てるというのが、私のアイディアである。その理論が、「公務員という仕事をしている市民の地域参画」なのではないか。

 このように考えて初めて、ワーク・ライフ・バランスの意味、働き方改革の意味が分かるのではないか。

 アイディアはいいが、これを論文にまとめることができるか。「隣のおじさん」なら、あっという間に書いてしまうだろう。


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