松下啓一 自治・政策・まちづくり

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○空き家の行政代執行は突っ込みどころ満載である

2016-05-04 | 空き家問題

 行政代執行で空き家問題を解決しようというのは、できない相談である。

 行政代執行で解体工事に着手する前にヘルメットをかぶった役所の人が、代執行宣言文を読み上げる。私は、26年間横浜市にいたが、これを読み上げたことがない。万年課長で、執行責任者まで出世できなかったためであるが、そもそも代執行自体がまれだからである。

 空き家法成立以前に行政代執行を行うには、行政代執行法第2条の3つの 要件を充足する必要があった。
 ①義務が履行されないこと。
 ②他の手段によって義務の履行を確保することが困難であること。
 ③義務の不履行を放置することが著しく公益に反すること。 特に、この③の判断が難しいとされた。
 ところが、空き家法では、「特定空家等」について、命令に従わない場合は、行政代執行を行うことが可能となった。空き家を放置することが、著しく公益に反するとみなされたからである。

 それでも、行政代執行が簡単に行われない理由の一つが、代執行費用をほとんど回収できないからである。特に所有者が不明である場合は、まず回収できない。
 回収見込みできないものに、税金を投入するのは、おかしいと思った住民から、住民監査請求、住民訴訟を起こされる
可能性もある。それどころではなく、所有者等から損害賠償請求の訴訟を提起される可能性もある。
 かといって、特定空家等の倒壊で誰かが損害を受けた場合、危険な状態を把握していながら、代執行を行使しなかったといって、国家賠償法による賠償責任を問われる可能性もある。
 行くも地獄、去るも地獄は大げさであるが、こうした位置づけにあるのが、行政である。

 費用回収の困難性とそのリスクの問題も大きいが、ここでは、事前手続きの厄介さに注目してみよう。

  いよいよ手を付けなければいけないという「危険度判定」は、客観性、妥当性とともに、公平性、納得性といった社会的な判定基準に合致することが求められる。これを行政だけで行うのはリスクがありすぎるので、空き家等審議会等の外部の専門家等に意見を聞くことになる。審議会はしょっちゅう開かれているわけではないので、この開催まで最低、1,2か月はかかってしまう。

 代執行の検討では、なぜ、この物件を代執行にかけるのか、きちんと説明できるように(どこから突っ込まれても説明できるように)、詰めが求められる。すでに述べた各種訴訟に巻き込まれるないようにしなければならないからである。

 この代執行を一つやるのに、庁内組織体制を整えることになる。全庁的な部局のトップを集めた庁内対策委員会を設置するとともに関係課長による部会、担当者によるワーキンググループを設置する。事務局は、日程調整も厄介である。

 ここで、 具体的に検討するが、主なものだけでも、代執行計画の作成(執行責任者の選定、組織体制と役割分担、連絡体制、スケジ ュール等)、予算措置、契約方法、設計・工事の方法、動産調査、議会・ 報道機関対策、代執行費用の徴収等の内容、方針等の検討がある。

 関係者への説明もかかせない。地元の町内会長や関係者のほか、議会、報道機関、国、県、 関係機関、除却対象建築物等に抵当権を持つ金融機関等が考えられる。代執行を行う方向性が組織決定された段階から、節目節目に何度か説明することになるだろう。

 解体設計も必要である。ただやみくもに壊せばいいというものではない。委託仕様書を作成の上、設計金額、工期を設定し、執行伺の決裁・発注・契約を行う。委託仕様書には、図面、設計書以外に、動産調査、仮設計画書、解体工事の工程表等が考えられる。そのうえで、解体業者に見積依頼、設計書を作成する。

 解体工事着手前に、いよいよやりますと地元関係者等に対して工事概要、工程表等を説明する。解体工事前に建築基準法や建設工事に係る資源の再資源化等に関する法律による各種届出手続きも忘れてはならない。そして、いよいよ、 解体工事着手前に代執行宣言文となるのである。

 これだけの手続きがあるから、平均して200万円前後の費用が掛かる(大仙市178万5千円、桜井市250万円など)。多くの場合、取りはぐれて、みんなの税金で払うことになる。200万円は、直接経費である。人件費等の経費も含めたら、それこそ膨大な金額になるだろう。

 繰り返しになるが、行政代執行で空き家問題を解決しようというのは、できない相談である。

 

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