松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆オルソン問題を考える(1)

2021-12-12 | 自治会・町内会、オルソン問題を考える
 マイブームはオルソン問題である。本来、取り組むべきものもあるが、こちらに走っている。

 自治会町内会の研修会で、「オルソン問題」というと、参加者は、一様に、怪訝な顔をする。「おる、損」と聞こえるのだろうか。私は、慌てて、オルソンの説明を始めることになる。

 オルソンは、人の名前で、マンサー・オルソン(Mancur Olson)という。アメリカの経済学者で、みんなで集まって行う公共活動(集合行為)には、それにただ乗りする「フリーライダー」は、避けては通れないと指摘した人である。

 朝、通勤を急ぐ、駅までの歩道に、昨日の風によって落ち葉が散らばっている。それを黙々と片付けている人がいる。どういう人なのだろうか、気になるところであるが、でも、ありがたいと思う。ただ、自分は、急いで会社に行かなければならない。「ごくろうさま」と声をかけて、通り過ぎていった。

 夜、遅く帰ってくると、懐中電灯を持った集団がぞろぞろ歩いてくる。地元有志による夜の見回りのようだ。人のよさそうなおじさん、おばさんたちなので、戦闘力はさほど高そうに見えないが、どろぼうの気持ちになってみると、こうした自衛意識の高いまちは、何か「やばそうな」感じがする。このまちで仕事をするのはやめて、別のまちでやろうと思う。

 以上は、清掃・美化、防犯であるが、それ以外でも、まちの人が支えている例はたくさんある。ゴミ処理、防災、消防、高齢者支援、交通安全、リサイクル、青少年育成、祭りやイベント、伝統芸能、トラブル仲裁、自然保護、公害・騒音、子育て支援など、きりがない。これらを総称して、「まちづくり」というが、まちは多くの人によって支えられている。逆に言うと、人任せにしているものは、山ほどあるということである。

 集合行為については、これまで、人は充足水準と欲求水準との乖離が生じたとき、つまり、自分の希望や期待通りにならずに、不平、不満が講じてきたときに、集合行動に結びつくと考えられてきた。相対的剥奪論である。

 それに対して、オルソンは、市民が集まり、行動することによって世の中をよくしようという集合的行為については、自分は参加せずに、他人に任せて、その成果だけを亨受するのが、理に適った「合理的な選択」であるとしている。

 たしかに、地域活動によって、実現しようとすること(公共利益)は、公共財である。公共財には、非排除性という性質がある。つまり、商品(私的財)ならば、お金を払わないともらえないが(排除できるが)、公共財では、それを供給し、維持するための費用を負担しなかった者でも、その利益を得ることができる(排除できない)。つまり、歩道を清掃しなかったと言って、「落ち葉のない、歩きやすいきれいな歩道を使ってはいけない」とは言えないのである。

 そこからただ乗り(フリーライダー)が生まれてくる。落ち葉のない、歩きやすいきれいな歩道の清掃は、他の人に任せておいて、その結果、きれいになった歩道を気持ちよく散歩しようという人が生まれてくるのである。

 しかし、そういう人ばかりになったら、どうなるか。これまで、まちのためにと思って活動していた人が、「馬鹿らしく」なって、活動を辞めるということにもなるかもしれない。その結果、歩道を清掃する人がいなくなる。

 暮らしやすいまちを支えている人がいなくなるということは、結局、歩道はゴミだらけ、まちが荒れれば、人の気持ちも荒れることになる。まちの荒廃は、不動産の価値も下がり、ここには住みたくないという人も増えてくる。自分の「合理的行動」ばかりになると、結局、みんな損をすることになる。損をしないように、オルソン問題を乗り越えるヒントを考えるのが、私たちの役割である。

 オルソンは、合理的選択というが、それにもかかわらず、まちづくりに参加する人がいる。南区では、そんな人たちと区民会議をやったし、研修会に集まってくる庁内会長さんは、こうした人たちである。では、なぜ彼らは、「合理的選択」に反して、まちづくりに参加するのか。それを解明できれば、オルソン問題を乗りこれるヒントが見つかる。
 
 ヒントは見えるので、その答えづくりである。今のところ思案中であるが、(1)ちょっとした自信、(2)ちょっとした強制(後押し)、(3)ちょっとしたうれしさ、(4)ちょっとした小規模、(5)ちょっとした改革、が、方向性なのかと思っている。

 がんばるぞ!ではなくて、本筋を忘れずに、時々、がんばろう。


 

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