わしには,センス・オブ・ワンダーがないのか?

翻訳もののSF短編を主に,あらすじや感想など、気ままにぼちぼちと書き連ねています。

ハリスン・バージロン~カート・ヴォネガット・Jr①

2006-07-12 00:57:26 | 海外SF短編
 2081年,人びとはとうとう平等になった。神と法のまえだけの平等ではない。ありとあらゆる意味で平等になったのだ。人より利口な者はいない。人より見ばえのする者はいない。人より力の強い者も,すばしこい者もいない。

 ハリスン・バージロンは,ジョージとヘイズル・バージロン夫妻の14歳になる息子。
 政府は,夫妻のもとからハリスンを連れ去ったのであるが,夫妻はこの件をあまり深く考えることはできなかった。

 なぜなら,ヘイズルの頭脳は人並みで短時間しか考えを集中できないし,一方,ジョージは人並みすぐれた頭脳を有しているため,耳に思考ハンディキャップ・ラジオを着けていたというか着けさせられていたからである。

 このラジオは,ジョージが何か考えを集中しようとすると,強烈な雑音により,その思考を吹き飛ばすのである。

 そればかりか,ハンディキャップ袋という名の,散弾の詰まった袋を首にぶら下げていたのだ。家でくつろぐときさえ。

 「もし,わたしがとろうとしたら,ほかの人もまねする。そしたら,たちまち暗黒時代に逆戻りだ。だれもがおたがいに競争するような世の中にね。そんなのはいやだろう?」

 ハリスンは,優秀に育ち,それを弱化するためのハンディキャップの付加も並大抵のものではなかった。
 ところが,ハリスンは,それをものともせず,ついに,こんな体制に反旗を翻し,単身TV番組への乱入を実行したのである。

 
 つらつらと筋を書いてしまいましたが,完全な平等を保障するため,監視組織を末端にまで張り巡らしている中央集権的な統治の世を,ペシミスティックなざわつくユーモアでもって描いている作品です。

 一読すると,エリスンの,「悔い改めよ!ハーレクィンと…」と似ているが,本作の方が,夢も希望もない物悲しい終わり方となってしまっている。

 最後まで,荒々しくドライなタッチで描かれているが,結末の実につらい部分と,意外にうまく中和して,突き放しているようで,そうでもないような,不思議な余韻を残している。

 ハヤカワ文庫SF「モンキー・ハウスへようこそ①」収録

 この作品,あちらのオールタイムベストに上位に入ってくる定番の作品であるが,さてどんなものでしょうか。

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