トム・ゴドウィン①としたが,②はないといえるほど,圧倒的な知名度を有するお馴染みの作品であります。
筋は大抵の人がご存知であろう。
惑星ウォードンからの要請を受け,熱病の血清を積み急行する緊急発進艇(EDS)。
目的を達するために厳密に航行を計算されたEDS内には,密航者の存在できる余地などない。
さっさと事務的に処理しようとしたパイロットの前に現れたのは,青い眼をしたうら若き娘。
呆然とするパイロットを前に,彼女は悪びれずに答える。
「兄に会いたかったからよ。政府の調査団に加わってウォードンに行って,もう10年も会っていないの。」
パイロットは,減速を調整し,管制と連絡し,少しでも彼女を遺棄するまでの時間を確保しようと努力する…が。
燃料の量hは,質量mプラスxのEDSを安全に目的地に運ぶ推力を与えることができない。彼や彼女の兄や両親にとっては,彼女は愛くるしい十代の娘である。しかし,自然の法則にとっては,彼女は,冷たい方程式の中の余分な因数に過ぎないのだ。
苛酷な宇宙空間では,方程式を満たすギリギリのラインでのシビアな行動が要求される。それを逸脱した者への配慮は許されない。それを許しながら目的を達成できるような余裕などありはしないのだ。
娘が,遺棄前のわずかな時間に,兄との最後の会話を交わすシーン。わかっちゃいても,何とかならないものかと思ってしまいますわなあ。
110ポンドの体重に匹敵するような,さほど重要でもない機器類すらないのかいな。
そもそも,厳重な警戒態勢を敷いているはずのEDSに,わけもわからぬ娘が見咎められずに,船内に密入することがなぜできたんだ?
ともかくも,理由など問わない,いわゆる悪意のない残酷さは,何回読んでも鮮烈です。
地球でのぬくぬくとした価値観など,生き抜くことが大変な辺境の植民地の住民にとっては,二の次,三の次に過ぎないのだ。
このEDSのパイロットの名前はバートン。しかし,作品中は,ほとんど「彼」と表記されている。任務を全うするために,あえて非人間的な行動を行う冷徹な主体という印象だ。バートンという名前を持つ人間としては,忍びないものがあるんだろうね。
「私は死ぬようなことはしていないわ。」
という娘の悲痛な叫びがいつまでも心に残る。これからしばらく孤独で航行するバートンの心のうちを思うとねえ…。彼も,娘の兄も,両親も,そのほかみんな誰も悪くないんですよね。それなのに,この何にもできないつらさといったら…。
さすがに名作SF短編の代表作の一つ。大変見事な作品であります。
筋は大抵の人がご存知であろう。
惑星ウォードンからの要請を受け,熱病の血清を積み急行する緊急発進艇(EDS)。
目的を達するために厳密に航行を計算されたEDS内には,密航者の存在できる余地などない。
さっさと事務的に処理しようとしたパイロットの前に現れたのは,青い眼をしたうら若き娘。
呆然とするパイロットを前に,彼女は悪びれずに答える。
「兄に会いたかったからよ。政府の調査団に加わってウォードンに行って,もう10年も会っていないの。」
パイロットは,減速を調整し,管制と連絡し,少しでも彼女を遺棄するまでの時間を確保しようと努力する…が。
燃料の量hは,質量mプラスxのEDSを安全に目的地に運ぶ推力を与えることができない。彼や彼女の兄や両親にとっては,彼女は愛くるしい十代の娘である。しかし,自然の法則にとっては,彼女は,冷たい方程式の中の余分な因数に過ぎないのだ。
苛酷な宇宙空間では,方程式を満たすギリギリのラインでのシビアな行動が要求される。それを逸脱した者への配慮は許されない。それを許しながら目的を達成できるような余裕などありはしないのだ。
娘が,遺棄前のわずかな時間に,兄との最後の会話を交わすシーン。わかっちゃいても,何とかならないものかと思ってしまいますわなあ。
110ポンドの体重に匹敵するような,さほど重要でもない機器類すらないのかいな。
そもそも,厳重な警戒態勢を敷いているはずのEDSに,わけもわからぬ娘が見咎められずに,船内に密入することがなぜできたんだ?
ともかくも,理由など問わない,いわゆる悪意のない残酷さは,何回読んでも鮮烈です。
地球でのぬくぬくとした価値観など,生き抜くことが大変な辺境の植民地の住民にとっては,二の次,三の次に過ぎないのだ。
このEDSのパイロットの名前はバートン。しかし,作品中は,ほとんど「彼」と表記されている。任務を全うするために,あえて非人間的な行動を行う冷徹な主体という印象だ。バートンという名前を持つ人間としては,忍びないものがあるんだろうね。
「私は死ぬようなことはしていないわ。」
という娘の悲痛な叫びがいつまでも心に残る。これからしばらく孤独で航行するバートンの心のうちを思うとねえ…。彼も,娘の兄も,両親も,そのほかみんな誰も悪くないんですよね。それなのに,この何にもできないつらさといったら…。
さすがに名作SF短編の代表作の一つ。大変見事な作品であります。
当時はそれを読んで、げてもの趣味だなあと思ったんですが、その後のいかりや長介の役者ぶりを見て、真意はともかく慧眼だったんだなあと思わされました。
そのおかげで、私の中ではこの船長はいかりや長介に置き換わったままです。
ただSF的なシチュエーションにする必然性は、あまりないような気がしないでもありません。この設定、倫理学でよく取り上げられるところの「救命艇問題」のヴァリエーションなんですよね。
極限状況において、自分の命を救うために、他人の命を犠牲にしても許されるのか?
そのテーマにロマンティックな衣をかぶせて「情」に訴えるところ大にしたのが、この作品の成功の要因でしょう。
ジャンル云々以前に名作小説であることは確かだと思います。
真面目で悩むタイプで,勝野洋なんかは,どうですかね。でも面白くないかもね。