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On The Road

小説『On The Road』と、作者と、読者のページです。はじめての方は、「小説の先頭へGO!」からどうぞ。

第7話-23

2011-01-19 20:23:00 | OnTheRoadSSS
 ザイトの情報課員斉藤は、1週間の缶詰から解放されて、久しぶりに自宅で遅い朝食を食べていた。今日は朝から他の社員が必勝法を引っ提げて、パチンコ店に行っている。明日、会社に行ったら情報戦略部情報課は情報部に返り咲いているはずだと、課長が言っていた。
 先日の14万円は会社に取り上げられたが、功労者の斉藤には500円の図書カードが1枚支給された。今回の作戦が成功して、必勝法が高い金で売れれば、更に5万円は特別手当がつくはずだとも、課長は言った。

 食事の後に、一儲けしにパチンコに行くことに決めて、斉藤は携帯で禁煙のパチンコ店を探した。この間の店ではもう出ないと思えと課長に言われたからだ。
 会社から支給されている定期券で行ける駅の近くのパチンコ店に行くことに決めて、斉藤は景気付けに師匠からの祝福メールを見た。

 「免許皆伝だ。おめでとう」
 何度読んでも励ましになるメールだ。
 でも、その更に下には別のメッセージがあったのは、読み返して初めて気付いた。

 「パチンコ必勝法の極意は勝ち逃げることに尽きる。
 それが分かるまでは、楽しく遊ぶのに使える以上の金はかけるな。
 幸運を祈る!」

 先日、斉藤が勝ち逃げることができたのは、ひとえに高槻課長が迎えにきてくれたおかげだ。斉藤は携帯を閉じて、部屋に戻った。

第7話-22

2011-01-19 20:22:00 | OnTheRoadSSS
 おばさんの儲けは元手の3000円を差し引いても、およそ5万円だった。端数でもらったチョコレートを黄と青山に渡して、「駅前にできたフランス料理店でも行ってみようか」とおばさんが言った。
 おばさんの大当たりとスーツの男達の不調を目の当たりにしたパチンコ店の店長は、「警戒したけど、大事なお客様だったんだ」と呟いて事務所に引き上げた。

 おばさんの去った後にはすぐに他の客が座ったが、スーツの男達は時々カードを買いにいくだけで動かない。おばさんのいた台は、その後も玉を吐き出し続けた。

 「おばちゃん、あと30分やれば、寮の晩ご飯を寿司にできたかも」
 青山が残念そうに呟いたが、「当たっているところで終わりにしないと、痛い思いをするんだよ」とおばさんにたしなめられた。

 「ザイトの奴等、いつもの連中とは違うみたいだけど、引き際の悪さは同じみたいネ。きっと痛い思いするネ」
黄が小声で言った。

 最後のカードが切れた時、ザイトの経理課長は決断した。本日の経費として預かってきた8万円は尽きた。「作戦終了だ。撤退するぞ」
 「俺、自分で5000円出します」
 愛社精神あふれる社員が言った。「俺も」「私も」あっと言うに45000円が集まった。
 経理課長もポケットマネーから5000円を出した。

第7話-21

2011-01-19 20:21:00 | OnTheRoadSSS
 「ブルーを見捨てないでくださいよ」
 青山はしばらくおばさんの台を見つめていたが、見ていられなくなって言った。
 「ごめんね。でも、パープルがザイトボスを倒せば、みんな復活するから」
 画面の中ではブルーが身を張ってイエローを守っている。イエローが逃げ切ったのを見届けて、ブルーが倒れた。
 「ありがとネ」
 黄が青山の肩を叩いた。
 「なんか、面白くないっすね」
 青山の台の最後の玉が呑まれて、カードが切れた。
 「俺、ジーンズ見てこようかな」
 ふてくされたように青山が言った。

 「もうちょっと待ってなよ。あと3人のキャラが出てくるまで。あ、あと2人だ」
 おばさんは店員を呼んで、玉を運ばせた。画面の中でグリーンが倒れた。

 「パチンコはね、勝ち逃げが大原則だから、おばちゃんは2時間以上やらないよ。よし、あと1人」
 しばらくザイトを遮っていたレッドが、倒されるのを見ておばさんが言った。「インディゴブルーは女の子だから、いじめたくないんだけどね」

 インディゴブルーが果敢にも敵と闘っていると、大柄なパープルが登場した。
 「みんな出てきたし、この辺で切り上げよう」
 おばさんが玉をドル箱に移した。
 「お昼は豪華に食べようか」
 おばさんが言うと、黄は「やったネ」と笑って、青山は「まだ復活してませんよ」と不平を言った。

第7話-20

2011-01-19 20:20:00 | OnTheRoadSSS
 スーツの男達は、シックスレンジャーズの台が置かれている一番奥から10台を占領していた。青山は手前の台の前に座り、つまらなそうに玉を弾いている。時々、店員がコーヒーを持って台を回る。男達はただ黙って打ち続ける。

 おばさんは台の上に出ている数字を見て、「この台だね」と座った。手にはカードを握り締めている。自分の斜め後ろの席に座った黄に、「まだ呼んでないよ」と青山が声を掛けた。

 「ワタシ達はデートの最中だから、放っておいて」と黄は笑った。
 おばちゃんがカードを入れて、玉を打ちはじめた。すぐにジャラジャラと玉が落ちる。

 台の中で、小柄なイエローが「いらっしゃいませー」と笑った。
 「かわいー!さすがイエロー」
 青山の声にスーツの男が振り返った。「伝説のイエロースマイルか。俺はまだ見たことがないぞ」

 ザイトが振るったナイフがイエローのユニフォームをかすめた。「いやーん、エッチー」イエローが色っぽく悲鳴をあげる。
「おばちゃん、ワタシをいじめないで!」
 黄が笑いながら抗議した。おばちゃんの台は次々と玉を吐き出した。

 イエローのピンチにブルーが駆け付ける。「悪いね、あんたは見殺し」おばちゃんが言い放った。

第7話-19

2011-01-19 20:19:00 | OnTheRoadSSS
 おばさんが駐輪場で待っていると、ジャケットとヘルメットを2つずつ持って黄が出てきた。
 「ワタシ、車も運転できるのに。バイクって思ったより寒いヨ。村崎さんのを勝手に借りてきたネ」
 おばさんはニコニコしてジャケットを羽織ってヘルメットを被った。村崎の大きいジャケットは、長さ以外おばさんにちょうどよかった。
 「娘時代は不良扱いされるからできなかったけど、一度でいいからバイクの後ろに乗ってみたかったんだよ」
 おばさんがジャケットのファスナーを閉めた。「用意はいいよ。汗をかいちゃうから、さっさと走り出して」
 細い黄の後におばさんが乗り込んだ。

 「行くヨ。しっかりつかまって」
 黄がスロットルを絞る。腕と足に感じる車体の重みに、おばさんは緑川と同じぐらいの体重と黄は判断した。バイクを操れない重さではない。
 おばさんは風に髪をなびかせて、「すごいねえ。男の子達が夢中になってたのが分かる気がするよ」と声を上げた。
 「せっかくだけどマンカイならすぐネ。食事はどうするの?」
 黄が怒鳴り返す。

 「そんなのはパチンコをやってみないと分からないよ。高級料理になるか、ハンバーガーになるか。
 おばちゃんみたいないい女を乗せられるんだから、文句を言わないの」

 男らしさも誰の目からどう見えるかなんて関係ないんだ。ほんの5分のツーリングで喜んでくれるおばさんの体を背中に感じて、黄は思った。