goo blog サービス終了のお知らせ 

On The Road

小説『On The Road』と、作者と、読者のページです。はじめての方は、「小説の先頭へGO!」からどうぞ。

1-12

2009-12-10 21:53:16 | OnTheRoad第1章
ライトバンが走り去るのを見届けて、僕は流しの食器を洗った。食器洗いに慣れていなかたから、けっこう時間が掛かった。
丸まったまま乾ききっていたタオルを洗って、薄くホコリが積もったテーブルを拭いた。台所が片付いてから、僕はレジのそばのテレビを消して店の掃除を始めた。どうしてかはわからない。お母さんが見たら「アリエナイ」と目を丸くするだろう。
店内を拭き終わったので、僕は「すはま」というピンク色の菓子と大福を食べてみた。サトウさんが作ったのにそれほど甘くなくて、意外においしくて、僕はペットボトル入りでないお茶を自分で入れて飲んだ。お茶の葉を入れすぎて苦かったけど、お茶って匂いがするんだ、と改めて知った。

1-11

2009-12-10 21:46:58 | OnTheRoad第1章
午後の診療が始まる時間までに店番の仕方を教えてもらうことにして、僕はサトウさんとサトウさんの手作りカレーを食べた。奥さんは何も食べなかった。2日目というだけあって、カレーの具にはよく味がしみていた。
食事をしてから、旧式のレジの使い方や和菓子の包み方を教わった。サトウさんは「ヒマな店だからテレビでも見ながらお茶を飲んでいていいよ。和菓子もつまんでいいし、タバコを吸うなら台所に灰皿があるから」と言いながらタバコに火をつけて深く吸い込んだ。台所の流しには、洗ってないお皿やコップがたくさんあった。

サトウさんと奥さんのアキエさんは、「和菓子のなでしこ」の文字が入った白いライトバンで出かけて行った。アキエさんは「寒いからマフラーをして」と言って、サトウさんに「ウルセーよ」と言われた。でも、サトウさんは茶色い手編みのマフラーを首に巻き付けるのを忘れなかった。

1-10

2009-12-09 20:21:48 | OnTheRoad第1章
その日は僕の定休日だったけど、和菓子屋を出ると僕はすぐにピザ店に行って、親戚の店で欠員が出て手伝わなければいけないから、できるだけ早くピザ店を辞めたいと言った。店長は「残念だけど親戚の店じゃ仕方ないな」と認めてくれた。
ナカムラ君とワタナベ君は三輪バイクに乗れる友達を紹介するように言われ、ピザ店のスタッフ募集のポスターには「デリバリー急募」の文字が貼られて、僕は今週いっぱいでピザ店を辞めることになった。

店長に「新しい人が入ったらすぐ戻ってこいよ」と言われて、僕は親戚の店とウソをついたことをすこし後悔した。

僕はそのまま和菓子屋に行って、「今のバイトは今週いっぱいで辞めるけど、いざとなったらいつでも戻れる。それから、今日は僕が店番をするから、奥さんを病院へ連れて行ってほしい」と言った。サトウさんはあきらめたようにうなずいた。

1-9

2009-12-09 20:20:25 | OnTheRoad第1章
「オレ、役に立てますかね」
白衣の男は驚いた顔で僕を見た。言った僕自身もびっくりした。デリバリーの仕事にも慣れてきたところだし、ときどき詩も書けている。こんな未来のなさそうな店に、どうして興味をもつんだろう。アリエナイ。

「給料だってそんなに出せないよ。アンタはまだ若いし、高校生の女の子でいい仕事だ」。
男は言ったけど、今の高校生はもっと割のいい仕事がいくらでもあることを知っている。「オレは一応だけど経済学科を出ているし、商売のことも少しはわかる。配達だってできる」僕はなぜか熱弁をふるった。

男はサトウと名乗って「和菓子屋にはピッタリの名前だろ」と笑った。
僕は和菓子にはぜんぜん関係ない自分の名前を言った。「タカハシコージです。よろしくお願いします」

サトウさんは「オレも考えてみるけど、タカハシ君もよく考え直してみてよ」と言った。「若い人の未来をつぶしたくないから」つぶされるような未来なんて僕にはない。

1-8

2009-12-08 20:34:59 | OnTheRoad第1章
でも、ケーキに載っているサンタとチョコのプレートはユリナちゃんにあげよう、と僕は思った。3歳のユリナちゃんが喜ぶかどうかはわからない。喜んでくれるかもしれない誰かにあげたいだけだ。アリエナイ??

ピザ店でずっと働くかどうするか思い始めた頃、ケーキ屋の隣りの和菓子屋で張り紙を見た。縦書きの筆文字で「店員さん募集」。何気にのぞいた和菓子屋はそんなに広くなくて、古い店だった。人を使ってもうけがでるのか不思議だったので、店に入ってみた。
「いらっしゃいませ」と言ったのは、白衣を着たウチのお父さんぐらいの歳の男だった。髪の薄さから考えると、お父さんより年上かもしれない。和菓子の種類は10、ショーケースには空間が目立った。
店の奥は住居になっているようで、和菓子には関係ないカレーの匂いがした。

「女房が寝込んでいてね、今はオレが1人でやってるんですよ」
あまり和菓子を見ないで店内を見回している僕に、店主らしい男がポツリとつぶやいた。奥から咳が聞こえて、コンビニのより小さい大福が目に入った。