終末のフール 伊坂 幸太郎 集英社 2006-03 by G-Tools |
--------あらすじ--------
あと3年で世界が終わるなら、何をしますか。
2xxx年。「8年後に小惑星が落ちてきて地球が滅亡する」と発表されて5年後。犯罪がはびこり、秩序は崩壊した混乱の中、仙台市北部の団地に住む人々は、いかにそれぞれの人生を送るのか? 傑作連作短編集。(出版社 / 著者からの内容紹介)
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世界があと3年で滅亡すると言われたら、何をして暮らしますか?
とりあえず仕事をやめますか。
食料を買い漁りますか。
憎いアイツを殺しに行きますか。
滅亡する前に自殺を図りますか。
「そのとき」まで今までどおりに暮らしますか?
この小説は、「世界の寿命、あと8年!」と宣告されたてから5年後の、8組の家族(や人々)の生き方を描いた短編集です。
最初の5年間は、誰しも恐怖に駆られ、絶望し、社会は殺人あり強盗ありの大混乱に陥る。しかし徐々に小康状態になってくる。うん。小康状態って言葉ぴったりだと思います。運命を受け入れきったわけではない。どうにもならない諦めに近いのかもしれない。
そんな中で、この小説の登場人物たちは、サッカーをしたり、亡き父親の書斎にある本をすべて読破したり、マンションの屋上にに櫓をたてたり(笑)して暮らしている。社会の大混乱とは一線を画して、思い思いの人生を送っている。
しかし、、、「冬眠のガール」の主人公、田口美智の生き方は良い。書斎に篭って、父親の所蔵していた本、約3000冊を、一日2~3冊のペースで読み進めていく。
いいなぁ・・・(笑)
そうなったら、図書館とかに寝泊りしたて本を読みまくる、ってのも良いかも。なんて思いました。
テーマ的にはわりとポピュラーかもしれないし、伊坂作品にしては凝った構成なわけでもないけど、例によって軽妙でユーモアあふれる伊坂節のおかげで、全然そんなことは気になりませんでした。
また、重いテーマなわりに、やはり伊坂節のおかげで暗い雰囲気もなかったと思います。むしろ、すがすがしい!
どーんとこい! 隕石!
とか思ってしまうくらいです(笑)
さて、気に入った作品としては、、、どれも良かったかな。
特に、出てくる女性が格好よかった!
まず、表題作である「終末のフール」の静江さん。
馬鹿にされたりけなされたり、夫婦生活の中で色々と腹の立つこともあっただろうけど、なんだか飄々とした感じが好きです。特に、
「嘘ですよ」 と、
「わたしは怒ってますよ」
の言い方がものすごく良い!(いや、小説だから書いてあるんだけど、すでに静江さんの言い方や表情は、私の中で脳内映像化されています(笑))
いたずらをする子どものようで、でも全然嫌味な感じじゃなくって、とってもかわいらしいんですよね。「怒ってますよ」と言いながら、いつもより張り切っているあたり、特に。
もうひとり、「太陽のシール」の美咲さんも格好いい。
優柔不断で、選択肢があればあるほどどんどん決められなくなってしまうダンナを楽しんでいる。
ものすごく重要で、制限時間も決まっている事柄を、やはりなかなか決断できないダンナに対して、美咲さんはこう言うんですよ。
「良かった」
「だって、ここで即座に答えが出せるようだったら、それは、富士夫くんらしくない。偽富士夫だ」
なるほどー。優柔不断な人を、こういうスタンスで眺めていればイライラしなくていいんだね・・・って小説の話からズレてますが(笑)
でも、富士夫くんは一番大事な問題について、ついに自分で決断を下すわけです。普段ダンナの優柔不断さを楽しんでいる美咲さんだけど、決断を聞いて、感激して眼に涙を浮かべるあたり、すごくかわいいです。
んー良い小説だった!
読み終わって、日常生活に戻ってからも、ふと、
今この世界が、「あと3年でぇす」とか言われたら、私は・・・
などと考えてしまうくらい、心に残った、推薦ノベール。