僕らのステキ☆

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『魔王』(伊坂幸太郎) ★★★

2007-09-25 13:00:31 | 伊坂幸太郎
4062131463魔王
伊坂 幸太郎
講談社 2005-10-20


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 --------あらすじ--------

 政治家の映るテレビ画面の前で目を充血させ、必死に念を送る兄。山の中で一日中、呼吸だけを感じながら鳥の出現を待つ弟。人々の心をわし掴みにする若き政治家が、日本に選択を迫る時、長い考察の果てに、兄は答えを導き出し、弟の直観と呼応する。ひたひたと忍び寄る不穏と、青空を見上げる清々しさが共存する、圧倒的エンターテインメント。(「BOOK」データベースより)

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 おや、、伊坂さんぽくない感じ?


 というのが、本書を読んでの第一印象かな。
 伊坂作品って、


 寓意がありそうで、ない。
     (確か、どれかの作品の中でそう言っていた)

 巧妙な構成と、軽妙な台詞を楽しむもの。


 というイメージを持っていたんですけど、今回の作品は、かなり強いメッセージ性を感じました。伊坂さんの思想信条が垣間見えた気がします。もっとも伊坂さん自身はあとがきで、ファシズムや憲法は、飾りではないがテーマではない、と書いておられますが。(・・・でもそれがテーマじゃないなら、本書のテーマって何だろとも思いますが(笑))




 さて、『魔王』というタイトルですが、シューベルトの『魔王』からとられている模様です。学校の音楽の時間に聴いた覚えがあります。魔王の姿が子どもには見えているのに、他の人には見えていない。


 本書での「魔王」は何か。きっとムードなのかなぁ。世論といってもいい。
 そしてそれに浅慮に踊らされる私たちか。
 (※あくまで私がそう感じたってだけですよん)


 いや、もちろん世論の支持を得て政治をするのは当然なんですけど。
 「世論」って何だろかね?とたまーに思ったりするわけですよ。
 本当に私たちひとりひとりの考えが世論を形成しているのかなって。


 「世論はこれですよ」って提示されることで、自分の意見を形成してやしませんかね?


 報道の世論調査なんて、当たり前ですけど、全国民にインタビューしたわけじゃなく、統計学的に「これくらいサンプルとればいいんじゃね?」ってくらいでしょ。まだ意見を決めかねている人が「あーみんながそう思ってるならそれが正しいんだろう」って思って、自分の意見を決めちゃうことってあると思うんですよね。
 もしくは、みんなが「○泉ー!○泉ー!」って騒いでるムードにとりあえず乗っかっておこうとか。
 (※大泉洋ではない。)



 本書では、少数政党の党首・犬養が、わかりやすく端的なフレーズと、その毅然悠然とした態度で勢力を伸ばし、やがて首相にまでなっていく。
 彼は、


 世論の支持の受け方ではなく、

 世論の 作り方 をよーく心得ている。


 どういう発言をすれば、どういう態度を見せれば、自分を支持する世論を形成できるか、冷徹に計算している。
 例えば、「5年で景気が回復しなければ、私の首を刎ねろ」というフレーズ。「その意気や良し!」と思って支持する人もいるだろうが、それだけでなく、犬養は、政治に無関心な若者を動かすことを意図している。つまり「面白そー!犬養の首刎ねてやろうぜ!」と、若者たちが図らずも犬養を支持する格好になることまで計算しているわけです。
 そうして徐々に、犬養熱狂的支持者が増えていく。


 本書では他にもムードが出てくる。
 サッカーの試合で、日本人選手がアメリカ人に殺害されるという事件が起こり、日本国内では「アメリカ狩り」ともいえるムードが起こる。マクドナルドやケンタッキーの店舗、あるいは主人公の知り合いの、日本に帰化した元アメリカ人のアパートなどが放火される。
 しかしその放火も、ムードもない状況で、たったひとりだったら、犯人はアメリカに放火しなかっただろうと思う。
 やはりここでも魔王が登場する。ムード、群集心理。
 主人公は、この集団の力に、ファシズムを見る。ひとりの強烈な統率力によって、深く考えもしない群集が、ひとりでは決して行えなかったようなことも平気で行うようになる。
 そしてそういうムードに危機感を持ち、立ち向かっていくのが本書の主人公とその弟潤也くん(と、ぽやんとした印象の詩織ちゃん)。




 本書を読んで、私は、今まで書いたようなこと以外にもいろいろと考えることがあったわけですが、長くなるので割愛(汗)
 「小説の中の出来事は全部作者の想像」というわりに、ことごとく現実での問題がリンクしていて、「そんなこと言われてもねぇ・・・」という気もしますが(笑)、いろいろ考えさせられる良い本だと思います。


 ただ、、、主人公の戦いが空しい結末を迎えるし、弟潤也くんの戦いが描かれないので、なんとなく残念な気がする小説だなぁと思いました。


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