ひらつか日記

1999年に漫画家おかざき真里ホームページの連載コーナーとしてスタートした身辺雑記×音楽紹介日記です。

光苔

2007年12月07日 | クラシック
SIBELIUS: SYMPHONIES NOS. 4-7. TAPIOLA ETC.


どうも飛行機は苦手なのだが、札幌で講演を引き受けた手前、乗らないわけにはいかない。座席でじっと目をつぶって寝てしまえばいいのだが、眠りに落ちる前に離陸が始まった。ぐいっと重力がかかって宙に浮く。どうにも眠れないので持ってきた本に没頭する作戦に切り替えようと観念して目を開けたら、窓の外がものすごい眺め。カラッカラに晴れた日の夜で、雲ひとつなく、地上の様子がハッキリと見える。こんなの初めてだ。街の明かり、そして街と街をつなぐ道路の街灯、そこを走る車の一台一台のヘッドライト…若いねえちゃんなら、ワァきれいと嬌声のひとつもあがるんだろうが、飛行機嫌いの四十男が連想したのは、光苔だった。地球の表面にヘバリついてぼんやり発光している苔。この惑星には、こうした巨大な苔が音も無く生きているだけで、あとはただ深閑とした闇以外何もない…という変な想念に囚われる。北へ飛んでいる、という方角のせいなのかもしれない。北には人の気配のしない清潔なロマンがある。Sibelius: Symphony No.7 / Herbert von Karajan, Berlin Philharmonic Orchestra 。シベリウス(2000.3.20日記にも記述あり)の交響曲は、人類が書いた音楽の中で、極北に位置するものだ。北の最果て。中でも最後の交響曲となった第7番。この曲の満足できる演奏は、知る限りでは、1960年代のカラヤン/ベルリンフィルが唯一。他のどのレコードからも聴かれない冷気、ダイヤモンドダストが煌く凄みに陶然とする。千歳に降りてもまだ光苔がアタマを離れないので、札幌までヘッドホンでこれを聴きながらタクシーに乗ることにした。ホテルに着いたら熱いシャワーを浴びることにしよう。

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