先日、海外留学から帰ってきた元部下が、「帰国しました」と報告がてら挨拶にやってきた。
「もう終わった? ついこのあいだ行ったばかりなのに」
「しばらく会わないうちに、ちょっとたくましくなったぁ」
と、しばらくぶりの部下の元気な姿に会話がはずんだ。
弊社には、会社から海外に留学できる制度が2つ用意されている。海外トレーニー制度とMBA(経営学修士)取得制度である。
海外トレーニーは、今の職場を離れて他の企業の海外の現地法人や支店で、約1年間仕事をする制度である。他企業の職場で、しかも海外の職場を経験することで、今の仕事に対するより高い視点、グローバルな視点を養おうという趣旨がある。
MBA取得は、主にアメリカのビジネススクールでMBA(Master of Business Administration)を2年間で取得するコースである。講義も提出レポートも全て英語なので、もともと科目自体のレベルが高い上に、相当の英語力が要求される。弊社の経営に携わる人材の育成と英語力の養成が目的である。最近では日本国内でもMBAは取得できるので、わざわざ海外で取得を目指すのは、他の学生や先生との交流というのも大事な目的の一つかもしれない。
どちらのコースも、本人の希望と職場の推薦を受けて、人事部が選考する。応募理由のレポート提出に始まり、面談を経て人選が進むがかなりの激戦である。特にMBAについては、何度も面談とレポート提出を繰り返して、いわゆる「優秀」な社員を厳選して送り出す。
ところがアメリカではできる学生は大企業を目指さない。自分自身が力をつけてベンチャーとして起業することを目指す。そのため、MBAもベンチャー養成、起業家育成の側面が強まった。そうなると、2年間MBAコースでみっちりしごかれた社員は、「優秀」な分、ベンチャー志向を見事に吸収して帰国することになる。しかしこれは、元々会社が将来の経営層の育成を意図したのとは正反対の成果である。
そのため、帰国した彼ら(もともと自分の意見をしっかり主張する連中なので)と会社との間で往々にして意見の対立が起きる。大企業の実情に失望して退職する。訴訟問題に発展する(会社は、帰国後すぐに退職してもらっては困るので、”帰国後何年間は会社のために働きます”という念書を書かせているが、それが職業選択の基本的人権に違反する)。など、いろいろ問題を生みつつある。もっとも、私なんかリーマンショックに始まった世界金融の混乱をみていると、アメリカ式の経営思想がもはや時代遅れのようにも思えるが・・・。
この制度、大企業の人事制度という最も機敏さに欠ける制度なので、急には変更にはならないであろう。
が、私としては、そもそも「自分自身のスキルのアップは、自分の意思で、自分のお金を使ってやる」が基本だと思っている。