「うつ病の血液診断」の光と陰
会社の健康診断に「うつ病」の項目が入ったら
- 日経ビジネス編集部 日野 なおみ
血液検査を受けるだけで、うつ病の診断ができる――。
7月18日号の日経ビジネス「技術&トレンド」では、現在研究が進む血液検査によるうつ病の診断技術を紹介した。
これは、慶応義塾大学発のベンチャー企業、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(HMT、山形県鶴岡市)と「外苑メンタルクリニック」の川村則行院長が共同研究し、5月に発表したもの。
うつ病患者と健康な人の血漿(けっしょう)に含まれる代謝物質を検査したところ、うつ病患者は健康な人に比べて、血漿中のEAP(エタノールアミンリン酸)の濃度が低いことが分かった。EAPがうつ病のバイオマーカーとして使える可能性があるのだ。
現在は研究の精度を高めながら、血液からEAPの濃度だけを測定する簡単な検査キットの開発を進めている。今後研究が進めば、簡単な血液検査を受けるだけで、うつ病を診断できるになるだろう。
この記事を掲載した後にも、ほかの研究成果が発表された。今年8月末には、広島大学大学院医歯薬学総合研究科の山脇成人教授らの研究グループが、「うつ病診断の有力バイオマーカー候補を発見」とリリースした。
山脇教授らが着目したのは、神経細胞の発達などで必要となる「BDNF(脳由来神経栄養因子)」という遺伝子だ。うつ病と診断されたが薬物治療を受けていない患者と、健康な人の血液を採取し、この遺伝子内で起こる「メチル化」という化学反応を比べたところ、うつ病患者だけに特有の変化パターンが見つかったのだという。
こちらの研究でも、今後はデータ数を増やしながら、うつ病の早期発見や投薬治療の効果測定などに役立てる予定だ。今回の手法が実用化されれば、1万5000円程度で検査を受けられ、2日間で結果が出るという。
両研究とも現在はまだ研究発表の段階だが、今後は血液検査を受けるだけで、客観的なデータからうつ病を診断できるようになりそうだ。
そもそも、うつ病などの精神疾患は今のところ、医師の問診だけを頼りに診断が下されている。そのため担当する医師の経験や力量、また医師と患者の信頼関係などによっては、必ずしも正確な診断や治療が行えるわけではなかった。
また短時間のカウンセリングだけでは見極めるのが難しい精神疾患もある。
うつ症状があったとしても、それが本当にうつ病なのか、それとも「双極性障害(いわゆる、躁うつ病)」のうつ状態なのか。高齢者の場合にはうつ病と認知症の初期症状の見極めも難しいという。
取材をした医師も「丁寧なカウンセリングや長時間の経過観察なくしては、正しい診断が下せないケースも多い」と説明する。こうした場合に、客観的なデータがあれば、医師の診断精度を高めたり、適切な治療を受けたりする助けになるだろう。
私自身も、かつて身近な人間が精神疾患を患って、その難しさを実感した経験がある。
まず患者本人に治療を受けてもらうことが難しい。精神科や心療内科は敷居が高く、通院を勧めても、なかなか病院を訪れてくれないのだ。
病院を訪れたとしても、医師の診断を容易に認めないこともあった。「少し話しただけで一体、何がわかるというのか。今は単に調子が悪いだけなんだ」と。
また通院を続けて症状が改善してきた時にも、投薬治療を終えるタイミングを巡って不安な思いに駆られる。もしそのとき、精神科や心療内科だけでなく、内科や耳鼻科でも血液検査でうつ症状の簡易診断ができていれば、病気の早期発見や早期治療に繋がっただろう。
客観的なデータを基にうつ病だと診断されれば、患者本人も、早く納得できて、治療に向けた心構えを整えられたはずだ。投薬を止めるタイミングや社会復帰のタイミングも、いちいち迷わずに済んだだろう。
目には見えない心の病を、より客観的に診断できれば――。医師・患者ともにそう願う気持ちは強い。血液検査によるうつ病診断は、その助けになるはずだ。
しかし、話はそう単純でもない。
「使われ方次第では、“うつ病差別”が深刻化しかねない」――。ある医師は、警鐘を鳴らす。
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