Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

奥田英朗「我が家の問題」

2015-03-11 23:57:01 | 読書感想文(小説)


みなさんこんばんは。
今日3月11日は、私の双子の姪の誕生日です。生まれてきてくれてありがとう。
そして横綱白鵬の誕生日でもあります。白鵬関、この日に生まれてくれてありがとう。

奥田英朗の家族をテーマにした短編集「我が家の問題」を読みました。以前、同じテーマの「家日和」という短編集を読んだことがあるので、この「我が家の問題」も同じような感じかな~と思っていたのですが、今作は「家日和」に比べると内容がマイルドになっていました。

収録されている6篇のうち、最後の「妻とマラソン」以外はどれもサラリーマン家庭の話でした。夫がリストラされるかもとか、職場の人間関係のストレスでパンク寸前だったりと不安要素があっても、どの話にも暗い雰囲気はありません。新聞やネットのニュースで不景気で不穏な話題ばかり目に耳に入る昨今、時代とかみ合ってない気もしましたが、こういうほのぼのした話を読んで癒される人もいるのかなと思ったりもして。まあ、読んだ後冷静に振り返ったら、そう楽観視できない状態の家庭もありましたが。ライフゴーズオン、ファミリーゴーズオン、どんな状況になっても逃げられない、ずっと続いていく、それが家族…ってそういう時代でもなくなってる気もしますけどね。家庭だろうと職場だろうと、逃げたい人は逃げられるような世の中でないと。

以下は各話の感想。ネタバレもありますのでご注意を。




「甘い生活?」
妻が手料理を用意して待っていてくれる新婚家庭に帰りたくない夫の話。大学進学からずっと一人暮らしをしていた夫が、結婚して久しぶりに他人(=妻)が家にいる状況に馴染めずにいる、というのはよくわかります。調子狂っちゃいそうだから。でも妻は妻で専業主婦でずっと家にいるから、すべてのベクトルが夫に向かっちゃうのも仕方ないですね。最後は2人で本音をぶつけ合って価値観をすり合わせる、ということに落ち着きましたが、結婚前にそういうすり合わせをしなくてよかったのか?と疑問も残りました。私は結婚したことないからわからないけど、そういう夫婦は多いんですかね。
あと、料理とかお菓子とかなんでもかんでも手作りしてる妻の姿に、彼女の「退屈」ぶりが伝わってきてちょっと怖かった…。

「ハズバンド」
名のある大学を出て名のある会社に勤めている夫が、会社では「仕事できない人」として扱われていることを知った妻の話。今回の妻も専業主婦です。そして身重。
共働きの夫婦の話も入れてほしいところですが、奥田さんの周りにモデルに適した夫婦がいないのかもしれませんね。
夫が後輩社員にまでからかわれるほど、会社での立場が低いことを知った妻。もしやリストラ対象になるかも、もうすぐ子供も生まれるのに、と不安が止まりません。繰り返しますが私は結婚したことがないからわからないけど、もし自分の夫が仕事ができない人だと知ったら、そりゃ不安にもなるでしょうね。仕事の能力に関係なく好きになって結婚したのならともかく、結婚相手を選んだ理由に学歴と勤め先が多少はあったのだとしたら。
妻は、会社に自分の居場所がないのに行かなくてはならない夫のために、お弁当作りに精を出すことに決めました。それで何かが変わるのかなぁとも思いますが。なんか、2人の関係は夫と妻というより、息子と母親のような感じに思えました。夫婦ってそういうものなのかもしれないけど。
問題が片付かないまま、「明日はどんなお弁当にしようか」と考えをめぐらせる妻は、このまま無事に子供を産んで、夫とともに幸せな家庭を築けるんでしょうか。すっきりしないまま終わってしまうのが、ある意味リアルでした。人生ってそういうものなのよね、きっと。

「絵里のエイプリル」
祖母の電話から、両親が離婚するかもしれないと知った女子高生の絵里が、離婚について友人や教師や弟に相談して、子供なりに乗り越えようとする話。
冒頭に出てくる祖母の電話の内容があいまいで、絵里の両親に離婚しそうな気配がまったくなかったので、もしや勘違いオチでは?と疑いましたがそうではありませでした。両親の離婚について相談しているときの、絵里と友人たちの会話のノリが軽かったですが、友人や周りの大人から話を聞くことで、離婚問題に向き合おうとしている絵里の姿がいじらしくも思えました。絵里が最後に相談した弟もまた、両親の不和に気づいていて、彼も子供なりにいろいろ考えていたというのがわかったときは、私も絵里同様に鼻の奥がつーんとなりました。たとえ離婚したとしても、こんな風に子供たちが優しい子に育っているのだから、絵里の両親は夫婦としてはともかく親としてはうまくいっていたのでしょう。そういうパターンもあるのかもしれませんね。

「夫とUFO」
ある日突然、夫が「仕事から帰る途中にUFOと交信している」と言い出したら、その時妻は…!夫に真顔で「UFOを見た、宇宙人と交信した」なんて言われたら、そりゃ普通の奥様は卒倒しちゃうでしょう。某元首相の奥様ならともかく。本を買い込んだり怪しい集会に参加したり、夫のUFOへの執着ぶりがすごいので、こりゃいよいよどシリアス展開かなと予想していたのですが、意外とコメディタッチでほのぼのして終わりました。
夫がUFOを見るようになったのは、職場で人間関係に振り回されて仕事を押し付けられたからですが、元同僚で今は専業主婦の妻はそれに気付いてませんでした。私は結婚したことが(中略)よくわかりませんが、世の奥様方はそういうものなんでしょうか。夫の仕事のこととか会社のこととか聞かないんでしょうか。聞こうとしても話してくれない、っていうのならわかりますが。
最後、川べりの遊歩道で夫婦と通りかかった巡査のやりとりで、それまで張りつめていた空気がやわらいでほっとしました。巡査にしてみれば前に職質した時に「UFOが見える」なんて言われた相手と再会するのは嫌だったでしょうけど。この場面、コントみたいで笑えました。

「里帰り」
実家が北海道にある夫と、名古屋にある妻が、結婚して初めてのお盆休みに、それぞれの実家に顔を出す話。育ってきた環境が違うから、すれ違いは否めない~って歌っていたのは山崎まさよしですが、この夫婦の場合はその環境の違いが互いに新鮮でよく思えたみたいです。発言小町にこの話を投稿したら、「ありえない!奥様は自分を殺して我慢されています!」「旦那さんの実家はサバサバしてるんじゃなくて、単に嫁のあなたを他人と思っているだけでは?」なんて夫と妻の双方を非難するコメントがつきそうですけど。(そしてコメントの最後には必ず『私の夫の年収は一千万』とある)
というか、この夫婦のお盆の里帰り話がゆるくて甘めなのは、若い夫婦をこういう小姑根性丸出しの世間の風から守って、「君たちには君たちのやり方でやればいいんだよ」と励ますためなのかも。私は結婚したことないから「独身だなんて」「子供がいないなんて」「安定した仕事についてないなんて(私は非正規雇用)」などなど日々言われ放題ですが、考えてみれば結婚してる人たちだってあれやこれやと難癖をつけられることはあるんですよね。そういう人たちに「ありのままでいいんだよ」と言うために、奥田さんはこの話を書いたのかなぁ~と、ちょっと思いました。

「妻とマラソン」
そこそこ売れてる小説家の妻が、走ることに目覚めてフルマラソンに参加する話。「家日和」でも小説家とその妻の話がありましたが、奥田さんは自分たち夫婦をモデルに書いてるんでしょうか。いや、そんなこと奥さんが許しませんよね。でも、さほど起伏のない展開とか、小説家が投資に失敗したことに罪悪感を感じている妻の心情を思いやったりとか、内容がマイルドすぎるので、ひょっとしたら奥さんの監修が入ってるんじゃないかという気もします。
でも、夫が売れっ子になったことで、仲良くしていた奥様方とうまく付き合えなくなったことから、自分一人で黙々とやれるジョギングにハマり、フルマラソンに挑戦することになるというのは、奥さん当人にとってはシャレにならない過酷な状況かもしれません。フルマラソンを完走したことで、小説家の妻が走ることにそれまでとは違う新しい意味を見出してたらいいのですが。


読んでて気がめいるほど陰鬱な話も書けば、こういうほのぼのした話も書ける奥田さんはすごい作家だなぁと思います。思うのですが長編作品に結末が尻切れトンボなものが多いので、そのへんは少し残念です。さて、次に読むのは長編にするか短編にするか…。




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