Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

近藤史恵「リボン・シフォン・リボン」

2016-03-13 17:05:39 | 読書感想文(小説)


ロードレースの世界を舞台にした「サクリファイス」や、下町のビストロで起きる事件を描いた「タルトタタンの夢」などの作者、近藤史恵さんの「リボン・シフォン・リボン」を読みました。今度の舞台は地方都市のさびれた商店街にできた、ランジェリーショップです。さて、何が起きるやら。


地方都市のさびれた商店街で、閉店した本屋の後にできたのは、レースやリボンで彩られた華やかな下着を売るランジェリーショップだった。
ある事情で故郷に戻り、この店を開いたかなえのもとに、それぞれの屈託を抱えた客が訪れ、美しい下着に心をときほぐされていく―

文庫本の帯にある
「繊細で美しい下着は、人の気持ちを変える?弾ませる?」
という文章を読んで、さびれた商店街に、突如華やかなランジェリーショップができて、疲れた人の心を癒し、街を変えていく…なんて女性向けのドラマや漫画や小説にありがちなストーリーを想像しちゃいましたが、この「リボン・シフォン・リボン」はちょっと違いました。確かに、第1話の主人公の佐菜子は、美しい下着を身に着けることで自分に自信を持ち、佐菜子を支配し続けていた両親と立ち向かう勇気を持ちましたが、後に続く3つのお話はそこからさらにひねりが加わっていて、「美しいものを身に着ける」から「自分らしく生きる」にまで話が広がっていました。しかも、ランジェリーショップが舞台の話だから女性の視点で語られる話ばかりかと思いきや、第2話の主人公は還暦間近の男性でさらにびっくり。この男性の気持ちがかなえのランジェリーショップでどう変わるのかと思ったら、意外な、かつほろりとさせられる結末に胸が熱くなりました。

とはいえ、第1話も第2話も、けしてめでたしめでたしの大団円で終わる話ではありません。第1話の主人公にしても、第2話の主人公にしても、かなえの売る美しい下着がきっかけで人生が変わったけれど、これからどうなるのかわからないままで物語は終わります。だから、彼らのその後が読みたい気もするけど、それはもうこの「リボン・シフォン・リボン」で語られる話ではないだろうから、読めなくても仕方ないことでしょう。美しい下着を身に着けることで人の気持ちは変わるけれど、人は美しい下着を身に着けたり、美しいものを眺めることだけでは幸福になれないし、周りを幸福にもできないことが、第4話に出てくる老婦人のエピソードで語られているので。

順番が前後しますが、第3話のかなえがランジェリーショップを立ち上げるまでの話は、かなえの母親の毒親っぷりがすさまじくてドン引きでした。でもそんな母親から逃げずに寄り添おうとするかなえの姿は、お涙ちょうだいの感動モノでもなければ復讐劇でもなく、「こういう考え方もあるのかな」と、新鮮に感じました。毒親との関係に苦しんできた人のなかには、かなえの生き方を甘いとか生ぬるいとか糾弾する人もいるかもしれませんが、逆に救いになる人もいるんじゃないかなと思います。誰もが、しがらみを振り切って、自由に自分だけの人生を生きられるわけではないから。

ランジェリーショップが舞台なので、女性の自立や自由への希求がテーマなんだと思って読んでみたら、親子の葛藤を、親と子の両方の立場から描いた小説だったのは意外でしたが、その分、自分の身にあてはまることも多くて、いろいろ考えさせられました。今の自分の環境で、美しい下着を身に着けて自分を変えることは難しいけれど、何かのきっかけにはなりそうです。



…余談ですが、第1話に、佐菜子の父親が、佐菜子が2回お見合いを断られたことで嘆く場面がありましたが、ここを読んだ時「たった2回でぐだぐだ言ってんじゃねーよ!ボケが!!」と真剣に突っ込みたくなりました。32歳で!たった2回で!おっさんふざけんじゃねーよ!こちとら(これ以上書くと涙目でスクリーンが見えなくなるので省略)



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