Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

森絵都「風に舞いあがるビニールシート」

2011-07-05 20:35:33 | 読書感想文(小説)


6月半ばごろに読みました。NHKでドラマになってたよな~、程度の認識で読んだのですが…


この本は、

自分だけの価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きる人々を描いた6編
(裏表紙のあらすじより)

から成っているのですが、なるほど確かに6編それぞれの主人公(とその周辺の人々)は独自の
価値観を持ち、迷ったり悩んだりしながらそれぞれの道を歩んでいます。ひたすらに。

なので、ここのところ迷ったりけつまづいたり蹴散らしたりしてばっかりだった私にとって、
この本の主人公たちには眩しくて眩しくてもう何も言えなくて…夏と言いたくなるくらい
圧倒されました。ホントに。

ただ、それは単に主人公たちの独特な生き方に共感したからというのではなく、中には
「どうしてこんな生き方ができるの?」
と頭を抱えたくなるものもありました。でも、そんな主人公でも、何が一番大切なのかはっきり
見据えて生きる姿は潔くて美しく、ブレブレでダルダルな自分の生活を振り返り、反省する
きっかけになりました。いやぁマジで。

やっぱり、ブレたらあかんのでしょうねぇ。自分が何をどうしたいのか、はっきり見極めないと。
ものわかりのいいふりして自分を隠しても、いずれはボロが出るだけだから。


ここからは各6編についての感想です。話によって長さにバラツキがありますが、そこはご了承ください。


●器を探して
天才パティシエの気まぐれに翻弄される、女性マネージャー・弥生の話。
クリスマスイブの夜、恋人に「自分をとるか、仕事をとるか」と迫られた彼女は…。

読み終わった直後は「なんじゃこのオチは?」と首をひねり、弥生には共感できないと思いました。
でも後になって振り返ってみると、弥生の価値観は自分が「こうありたい」と願っているものと
同じかもしれないと気づき、それからもう一度ラストを読み返して、今度は
「こういうのもアリかもしれない」と考えを改めました。

桃のプリンをのせる器を手に入れるために主人公がとった行動は、普通の倫理観なら
「恋人のいる身なのに?」
と思われそうなものだけれど(少なくともテレビドラマでは無理)、彼女の中ではそれは間違ったこと
ではないのでしょう。私もそれくらい強くなれればいいけれど。

あと、天才パティシエの作ったショートケーキがものすごく美味しそうで、読みながら自分も
食べたくなりました。最近は自分が作ったのしか食べてないので、尚更。


●犬の散歩
犬のボランティアのために、水商売のアルバイトを始めた主婦の話。

主人公がボランティアをする理由が、「犬が好きだから」だけではなく、
自分自身の生き方をゆるぎのないものにするためでもあるという、主人公の偽善ではない
正直な姿が印象に残りました。ボランティアに対する世間の風当たりの強さや、義両親との
すれ違いに戸惑いつつも、それを受け入れつつ自分のやり方をつらぬく姿には潔さを感じましたし。
それと、酔客からもらった三万円を預かっている犬のえさ代にせずに、あぶく銭として使って
しまおうとするところはかっこよかったです。私だったら…無理かも。


●守護神
レポートを書く時間のない社会人学生が、大学の主と呼ばれる女性にレポートの代筆を頼む話。
他の生徒の依頼なら聞くのに、なぜか自分だけ拒否されることを不満に思った主人公は…。

最初は見えてこなかった学生の本質が、女性と話しているうちに徐々に明らかになる展開が
素晴らしい。主人公が古典文学を熱く語っているのを読んで、自分の学生時代を振り返って
少し恥ずかしくなりました。時間と体力がいっぱいあったあの頃、なぜ私はもっと勉強しなかったのか…。
主人公の「伊勢物語」や「徒然草」についての考察を読んで、久しぶりに古典作品を手にとって
みようかな、と思いました。


●鐘の音
仏像修復師の男が、仕事先で出会ったある仏像に魅入られる話。

仏像についての知識のない私にはやや難解な内容でしたが、親方や同僚とうまくコミュニケーションが
とれず、「この仏像を直せるのは自分だけだ」と思い詰め、自分自身の世界に閉じこもっている
主人公・潔の姿には自分と重なるところが多くて反省することしきりでした。
話が進むにつれ、潔が周囲から浮いてどんどん孤立していくので、一体最後はどうなるのかとハラハラ
しましたが、結末は意外と穏やかで温かいものでした。おかげで私も少しだけ自分に希望を持つことが
できたかな…と。まあ、それはこれからの自分次第なのですが。

●ジェネレーションX
オンボロ車でクレーマーの家に向かう、年齢も境遇も異なる2人のサラリーマンの話。

若い男が携帯でしきりと友人に電話をかけている理由がなかなかわからないので、ああでもない
こうでもないと想像するのが面白かったです。途中までは「駅伝に出るのかな?」と予想してた
のですが、そうじゃなくてちょっとがっかり。
結末は読者が期待しがちなパーフェクトなものではなく、「えっ?それでいいわけ?」と心配して
しまうようなものでしたが、それくらいがいいんでしょうね、きっと。

本編の内容とはあまり関係ありませんが、「マイケル・ジャクソンと猿のバブルス」のくだりに
ノスタルジーを感じました。バブルス…知らない人も多いだろうな、今は。

●風に舞いあがるビニールシート
難民を保護し支援する国連機関で働く男女の話。

NHKでドラマ化していたので、読んでる最中にドラマのキャストが頭をよぎりました。
主人公の里佳とその夫のエドを、ドラマキャストの吹石一恵とクリス・ペプラーで想像すると
少し違和感がありましたが、エドが称賛する里佳の「ふくらはぎ」だけは、吹石一恵で
異論なし!だと思います。まあ、吹石一恵は脚だけでなくおっぱいも完ぺ(以下自粛)

現地で難民たちと共に生きることを選んだ男と、男を安全な場所(=日本)に引き留めたい女。
同じ世界で生きられない2人は、お互いに相手を自分の世界に引き寄せようともがき、
結局は別れを選んでしまう。どちらの言い分も正しいと思うところがあるし、また
理解に苦しむところもある。最後に出かけた熱川での、切望的に噛み合わない2人の会話に、
互いに愛し合っていても、こうも遠くて深い隔たりができてしまうのかと愕然としました。

エドを喪った後に、里佳がやっとエドを理解し彼と同じ道を歩むことを決めたラストには
「大丈夫なのか?」と戸惑ったものの、悲しみに押しつぶされそうだった里佳がやっと
立ちあがったことに安心もしました。




私は里佳がうらやましい。
自分のそばで共に生きてほしい、自分を愛してほしい、自分の存在を認めてほしい―
代償は大きかったけれど、里佳はそんなわがままな欲望から抜け出せたから。

私にも、いつかできるだろうか。
惜しみなく愛を注いで、見返りを求めず、ただ相手の幸福のみを望むことが。


…まあ、まだまだ修行が必要だろうけど。



コメントを投稿