これまで著作権問題に関するパブリックコメントでは「私的録音録画補償金」の問題点について言及してきましたが、ちょっと毛色を変えて今回は「機器利用時・通信過程における一時的固定」、いわゆるPC内部のバッファにおけるデータのキャッシュ、キャッシュサーバによるWebコンテンツのキャッシュについて、著作権上の「複製」に当たるかどうか、という議論について私見を書きます。
【問題の内容】
文化審議会著作権分科会法制問題小委員会デジタル対応ワーキングチームの作成した「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会デジタル対応ワーキングチーム検討結果報告」資料の第二章に「機器利用時・通信過程における一時的固定」に関するワーキンググループの検討結果が記載されています。
この報告資料を読む限り、一時的にRAMにキャッシュされるデータは瞬間的な蓄積のため「複製」ではない、とされています。またキャッシュサーバに保存されるデータについては「一時的固定(複製)」であり現状のままでは著作権上の「複製」とみなされる可能性もあります。
しかし一時的固定については以下の3要件すべてに該当する場合は権利を及ぼすべきではないとされており、キャッシュサーバに保存されるデータはこれらの要件を満たすため、権利を及ぼすべきでないと結論付けられています。
1. 著作物の使用又は利用に係る技術的過程において生じる(複製であること)
2. 付随的又は不可避的(な複製であること)(著作物の本来の使用・利用に伴うもので、行為主体の意思に基づかない)
3. 合理的な時間の範囲内 (で実施される複製であること)
ここまでは、まあ妥当な検討結果であろうと思われます。
しかしながら検討結果資料では、一時的固定(複製)でも上記3要件から外れるものについては、権利が及ぶ可能性があることを指摘しています。
ミラーサーバの場合:コンテンツのミラーリングは付随的または不可避的ではない(ネットワーク事業者が計画的にコンテンツを蓄積させる)こと、および長時間にわたる蓄積の可能性があることから、上記2、3の要件を満たせない可能性が高い。
ディザスターバックアップの場合:バックアップなので、著作物の使用または利用にかかる技術的課程ではない(著作物は基本的に利用しない)。またバックアップは付随的・不可避的ではなく、バックアップしようとする主体がバックアップを計画する。さらにバックアップなので、期限はきわめて長いのが普通である。従ってこれは1~3すべての要件に反する。
これらについては、社会的な要請として権利を及ぼすべきでない、とするワーキンググループの見解が述べられています。どのような形でこれらの権利の除外を法制化するか、慎重に検討し、2年後の2007年に結論を得たい、ということでした。
【提案】
私はこのような著作物の円滑な運用をサポートする装置に対しては、権利を及ぼすべきではないと考えます。 問題はどのように法制化するかです。一時的固定をすべてOKとしてしまうと、それこそ複製はやり放題になってしまう。「いずれ消す」ことを明言するだけで、インターネット上にCDをmp3化したコンテンツをアップロードし放題になったり、CD-Rは一時固定ではないのでだめだけど消去可能なCD-RWは一時固定なので、コピーし放題になってしまい、まったく権利の行使ができない状態になってしまいます。かといって、「ミラーリング」「バックアップ」のみ可、などと技術を限定して権利が及ぶか及ばないかを規定するのは、新技術が現れるたびに法改正が必要があり、混乱を招く可能性が高くなってしまいます。
そこで、パブコメでは下記のような条件を定義する提案をしようと思います。
1) 一時的固定であって、1~3の要件に該当するものは、著作権者の権利が制限される。
2) 一時的固定であって、1~3の要件に該当しないものについては、以下の要件をいずれかを満たすことを条件に、著作権者の権利が制限される。
(a) 一時固定リソース(サーバなど)に対し、著作権者は自由にアクセスでき、必要があれば一時固定コンテンツを削除できる。
(b) 一時固定リソースの管理者に一時固定コンテンツの削除を強制することを可能とする。
3) 上記以外の一時的固定は、通常の複製の場合と同様に扱う。(通常であれば権利が及ぶが私的複製に相当する場合などは権利が及ばない、等)
1) については、ワーキンググループでの議論のとおりです。 2) が重要です。最初は損失が発生しないと思っても、しかる後に損失が発生する場合も考えられます。その場合でも、著作権者がいつでも消せるという状態にしておけば著作権者の損失を最小限に食い止めることが可能となります。