noribo2000のブログ

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消極的な品質管理と積極的な品質管理 ~宇宙開発の事例から考察~

2005年11月23日 | 科学技術・システム・知財など

NIKKEI BPのコラム 「希望を失った宇宙ステーション日本モジュール「きぼう」 第4回 古い信頼性基準が生む日本の宇宙開発の高コスト構造」の中で、宇宙開発に用いられる部品が40年前に制定された品質基準に従って30年前に設計された部品が未だに使われており、宇宙開発の高コスト体制の元凶となっていたり、技術の進歩が装置に反映されず却ってミッションの失敗の原因となっていることが指摘されています。

確かに品質管理の考え方の一つとして、未検証である新しいテクノロジを闇雲に利用するよりも、過去の実績のある方法を採用する方がベターと判断するのはよくあることです。特に宇宙開発など失敗すると何百億円という巨額な費用が水の泡になるようなミッションではそのような傾向が強いのだと思います。

しかしながら、このような品質管理手法を導入する問題点の一つは、時が経つにつれ古い設計の技術は調達が難しくなり、オーダーメイド化しコストが上昇することです。もう一つは、新技術の導入ができないため性能は部品設計当時の性能のままとなってしまい、現在のレベルからすれば著しく性能が劣るものとなってしまうことです。結果として高度なミッションを計画しようとすると、途方も無く費用がかかり、事業そのもの(今回の例では宇宙開発事業そのもの)が停滞してしまいます。いってみれば消極的な品質管理手法といえるでしょう。

ところが、この消極的な品質管理手法は何かと言い訳しやすい特徴を持っています。例えば開発予算を要求する際「新しい方式を採用しても"絶対に"失敗しないと言えるのか?」などと詰問されてしまったら「絶対大丈夫です」と回答することは難しいでしょう。逆に「過去に成功事例があるやり方だから調達コストが多少かかっても従来方式を採用します」と説明する方が楽なのです。コスト意識の希薄な役所相手であればなおさらです。失敗した場合でも「従来方式で問題が起こったが、新しい技術を使ったら"絶対"今よりも大きな問題が発生しないと言えるのか?」などと居直ることも可能でしょう。

一方、部品、素材、設計技術、加工技術、開発マネージメント技術、などの技術の進歩を果敢に取り入れながら品質を確保することを、積極的な品質管理手法と呼ぶことにします。この積極的な品質管理にはミッションの失敗というリスクが必ず伴います。しかしこのようなリスクをとることで飛躍的な性能向上と低コスト化が実現でき、事業の持続的な発展が可能となるのです。

積極的な品質管理の特徴は、新技術の導入とリスクマネージメントを併用し、それによってコストと品質のバランスをとる点にあります。インターネットなどで簡単にパッチファイルが配布できるようなPC向けのソフトウェアであれば、完全無欠な試験を実施することなく発売することで開発コストを抑えることができるでしょう。一方宇宙開発など失敗が許されないミッションにおいては、想定されるリスクを可能な限り網羅的に抽出し、それをいかに解消・低減するか、という点を民生品よりも慎重に実施すれば良いのです。

このような積極的な品質管理を実施した技術を用いても、なおミッションが失敗した場合は――それは極めて有益な失敗といえるのではないでしょうか。旧技術をひたすら利用しているだけでは知りえなかった新たな科学技術上の知見が得られたわけですから。今の日本の宇宙開発に求められる品質管理手法は、ここで述べたような積極的な品質管理手法の導入ではないかと考えます。


なお、ここまで積極的な品質管理手法について肯定的ともとれる記述を繰り返してきましたが、最後に誤解の無いように言及しておきたいことがあります。それは闇雲に積極的な品質管理手法を導入することだけが、必ずしも正しい品質管理手法ではないということです。積極的な品質管理手法の肝は新技術の導入とリスクマネージメントを併用することにあります。リスクの洗い出しが不十分な場合は、消極的な品質管理手法に対する優位性を十分に説明することはできません。またリスクの洗い出しの結果、従来技術の採用の方が低コストで高い品質が実現可能であることが確認されるのであれば従来技術の採用もアリなのです。

積極的な品質管理手法、消極的な品質管理手法、どちらを採用するかは、どのようなミッション(事業)を実現するのか、というところの検討を経て決定する必要があります。新技術に固執しても過去の実績に固執してもいけないのです。


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