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著作権パブコメ ドラフト(1)私的録音録画補償金制度について

2005年10月03日 | 科学技術・システム・知財など
9/8 に「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 審議の経過」 に対する意見(パブリックコメント)が求められてから、早いもので1ヶ月が経過し、今週末の 10/7 がパブコメの締めきりになっています。当ブログでも3回に渡りパブコメに向けた議論をしてきました。今回のブログではこれまでの議論をまとめたパブコメのドラフトを提示しますので、読者の皆様のご意見をいただければ幸いです。

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2.私的録音録画補償金の見直しについて
(5) その他(私的録音録画補償金制度の課題について)

要旨:

私的録音録画補償金制度(以下本制度という)はDATなどの出現によりデジタルで品質劣化することなく複製が可能になったため、私的複製による著作者の権利侵害を補償する目的で平成4年の著作権法改正で盛り込まれた制度である。

デジタルコピーができるようになれば、それまでCDなどのパッケージメディアを買ってくれた人が買わなくなってしまう恐れがあるため、このような補償金の必要性について概念的には理解できる。しかし実際の補償方法を議論するためには(1)損失額の定量評価、(2)損失補償方法の妥当性 について議論し国民に対し説明されてしかるべきであるが、そのような説明はこれまでなされたことがなく、「デジタルコピーがはびこると著作者の創作意欲がそがれ、良質なコンテンツが創造されなくなる。」云々の概念的な説明に終始しているのが現状である。

従って、本コメントでは、本制度の見直しを含めた議論をするにあたり、どの程度の損失が発生しうるか、その補償方法は妥当かどうかと言う点について、デジタルコピーツールの利用形態のうち代表的な下記に示す4つのケースについて考察した。その結果、いずれのケースについても私的録音録画補償金制度によって補償する方法が妥当であると思える利用形態は存在しなかった。よって、本制度は制度的に破綻しており、即座に廃止に向けた議論を開始すべきである。(なお、ここでは音楽に特化してケースを挙げているが、本質的には映像に関しても同様である。)

 ケース1: 購入したCDをコピーし家庭内で利用する
 ケース2: 購入したCDを別媒体にコピーして利用する
 ケース3: レンタルCDショップで借りたCDをコピーして利用する
 ケース4: エアチェック(放送の録音・録画)を行い家庭内で利用する


考察:

(1)ケース1 購入したCDをコピーし家庭内で利用する

【想定される状況】
家庭内で兄がCDを持っていて弟もそのCDを聞きたい、という状況を想定する。CDを複製する機材があれば、弟はいちいち兄の了解を得るのは面倒なので、兄のCDを複製して自分の好きな時間に利用すると思われる。

【デジタルコピー機材が存在しない場合の状況】
デジタルコピー機材がなければ、兄の了解を得るのは煩わしいが限られた小遣いの中で同じCDを購入しようとは考えず、カセットテープにダビングするか高品質で聞きたければ手間をいとわず兄の了解を得てCDを借りるだけである。機材がない場合でもよほど裕福でない限り弟は兄と同じCDを買おうと思わない。

【デジタルコピー機材が存在することによる権利者の損害はあるか?】
上記のとおりデジタルコピー機材が存在しないからといって、新たに同じCDを購入する可能性はほとんどない。従って、ケース1においては権利者の損失は発生しないと考えるのが妥当である。

【本制度は本ケースにおいて適切か?】
損失が発生しないのであるから、本制度は不適切である。


(2)ケース2 購入したCDを別媒体にコピーして利用する

【想定される状況】
(a)CDを購入しそれを外で聞きたい場合
CDからMDにコピーする機材があれば外で扱いやすいMDを持ち出す。

(b)パソコンで音楽を聴きたい場合,ハードディスク型のデジタルプレイヤーで音楽を聴きたい場合
MP3に変換できる機材があればファイルとして扱いやすいMP3で聞く。さらにハードディスク型のデジタルプレイヤーがあればMP3をプレイヤーにコピーする。

【デジタルコピー機材が存在しない場合の状況】
(a)CDを購入しそれを外で聞きたい場合
デジタルコピー機材が存在しないならば、CDポータブルプレーヤーを購入してCDごと外に持ち出す。(MDがまだ一般的ではなかった90年代初頭はそのような使い方をしていた。)

(b)パソコンで音楽を聴きたい場合
デジタルコピー機材が存在しないならば、ステレオやCDポータブルプレーヤーを使ってパソコンをやりながら聴く、CD-ROMドライブにCDを挿入して聴く、といった代替手段がある。

【デジタルコピー機材が存在することによる権利者の損害はあるか?】
上記で示したとおり、外でCDを聴く、パソコンをやりながら音楽を聴く、という行為についてはデジタルコピー機材が存在しない場合においても代替手段がある。従って、デジタルコピー機材があっても無くても、上記の目的のために新たにCDや持っているCDと同じ音楽の別メディア版を購入する可能性は低い。従って、ケース2においては権利者の損失は発生しないと考えるのが妥当である。

【本制度は本ケースにおいて適切か?】
損失が発生しないのであるから、本制度は不適切である。


(3)ケース3 レンタルCDショップで借りたCDをコピーして利用する

【想定される状況】
レンタルCDショップでレンタルしたCDをデジタルコピー機材でCD-ROM等にコピーしCDを返却する。

【デジタルコピー機材が存在しない場合の状況】
レンタルCDショップでレンタルしたCDをダビングなどの手段でカセットテープなどに録音しCDを返却する。

【デジタルコピー機材が存在することによる権利者の損害はあるか?】
デジタルコピー機材のあるなしに関わらずレンタルしたCDについて私的複製が行われる可能性は高く、その結果新たにそのCDを購入する可能性が低くなる。従って、CDレンタル業界が存在することで何らかの損害が発生することは間違えないと考えてよい。

【本制度は本ケースにおいて適切か?】
(a) CDレンタルによる既存の損失補填手段
CDのレンタルについては、1985年に著作権法が改正され、CDリリース後1年間のレンタルの許諾・禁止を決定できる「貸与権」とその後著作権が消滅するまでの49年間にレンタルすることによる報酬を取得できる「報酬請求権」とがレコード製作者に認められ、それと引き換えにレンタルCD事業が合法とされた。

『貸与権』については日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合(CDV-JAPAN)が管理しており、1レンタルあたりアルバムであれば50円、シングルなら15円をCDレンタル事業者から徴収し、権利者に支払われる仕組みになっている。

『報酬請求権』については日本レコード協会(RIAJ)が管理しており、1枚のCDアルバムあたり使用料として330円をCDレンタル事業者から徴収し、権利者に支払われる仕組みになっている。

(b) 損失補填額の妥当性
CDアルバム1枚の営業利益を売り上げの3%と仮定(大手レコード会社の実績値より類推)すると、3000円のレコード1枚あたりの利益は90円程度となる。CDリリース1年未満であれば1レンタル毎に50円が補填される。これはCDレンタルという業態が存在しないならば、レンタルされたCDの2枚に1枚は購入されていたであろうとも解釈しうる額である。レンタルされたCDの中には、必ずしも購入の代替手段としてレンタルされたものだけではなく、レンタルされているからこそ試しに聴いてみるがレンタルされていなければ手に取ることもないものも相当程度存在することが予想される。そのような状況の中で2枚に1枚の割合で営業利益が補填されるこの制度はそれ自体で十分権利者のことを配慮していると考えられる。
一方CDリリース後1年以上経過したものについてはCDレンタル5~6回分に相当する額が補填される。これについて、リリース1年後のCDの貸し出し回数が不明なため、多いか少ないかは議論できないが、仮にこの額が不足なのであればこの額を改定すればよい。

(c) 本制度の導入の妥当性
上記(a)に示したとおり、CDレンタル業の存在によるレコード会社の損失については、すでに補填する仕組みが存在する。また(b)に示すとおり、特にCDリリース後1年未満のレンタルについては、十分手厚い損失補填がなされている実態がある。リリース後1年以上経過したCDのレンタルについては、損失補填額が妥当かどうか不明だが、もし不十分であるならばどの程度の損失が発生しているか国民に開示した上で補填額を改定すれば良い。いずれにしても既存の枠組みの中で損失の補填は可能であるから、本制度によって損失の補填を行うことは権利の二重行使になり不適切である。


(4)ケース4 エアチェック(放送の録音・録画)を行い家庭内で利用する

【想定される状況】
放送番組をデジタルコピー機材によってCD-R等にコピーし、放送時間帯以外の時間帯に視聴する。

【デジタルコピー機材が存在しない場合の状況】
放送番組をダビング等によってカセットテープ、ビデオカセット等にコピーし、放送時間帯以外の時間帯に視聴する。

【デジタルコピー機材が存在することによる権利者の損害はあるか?】
(a) 権利者は誰か?
放送の権利者は放送事業者であり、放送で使われるレコードの権利者は放送事業者に対し権利を行使できるが、放送の視聴者に対し権利を行使できない。

放送事業者はその中で流される音楽などについては事前にJASRACに使用料を支払っている。(放送事業者の年間収入の1.5%と決められている)従って放送事業者と音楽の権利者との間では、権利処理が双方合意のもと済んでおり、以降の議論では音楽の権利者のことは切り離して議論することとする。

(b) 放送事業者の権利とは?
放送事業者の権利は下記のとおり。

  放送の複製権(著作権法第98条)
  放送の再放送権・有線放送権(同第99条)
  送信可能化権(同第99条の2)等

(c) デジタルコピー機材の存在によって、権利者の損害がどのように発生するか?

・放送の複製権
放送番組を後にパッケージ化して販売することが放送の複製権行使の具体的な例として挙げられる。放送の私的録音が存在することによって、録音をした視聴者に対しパッケージメディアを売ることができないため、ビジネス機会の損失となる可能性がある。しかし、放送番組を権利を行使するか(パッケージ販売するかしないか)は放送時点(=私的録音を行った時点)で決定していないことが多いため、私的録音しただけで損失があるかどうかを判断できない。

むしろ放送番組のパッケージ販売を行う時は、放送の特性上、以下の条件が不可避であると認識した上でビジネス戦略を組み立てるのが適当であろうと考えられる。

前提条件1.既に内容は放送され、多くの一般大衆に知れ渡っていること
前提条件2.放送内容は私的に複製されている可能性があること

例えば未放送部分の特典映像をつける、豪華ポスターをつける等によって、私的複製と差別化を図る、などの戦略をとる必要がある。

・放送の再放送権・有線放送権
再放送することで再度スポンサーから広告収入を得るという放送事業者のビジネスにおいて、私的複製の存在によって視聴率が低下し思うように広告収入が得られない、という形の損失が考えられる。

しかしこの件についても、「放送の複製権」で述べたのと同じ論理が適用できる。すなわちビジネス上の前提条件として、上記の1.2.を想定して広告枠の販売戦略を考えるのが筋であると考える。例えば平日ゴールデンタイムに流した番組を休日の昼に再放送することで、異なる視聴者層に対して見せるなどの戦略をとるべきである。

・送信可能化権
この権利についても上記2つの権利に対する考え方と同様であり、パッケージメディアや再放送がインターネット上でのオンデマンドサービス等に変わっただけである。これもどの放送番組を送信可能にするかを決定するのは放送終了後であり、また放送番組の特性上、上記の1.2.を前提条件として考えなければならない。

【本制度は本ケースにおいて適切か?】
以上述べてきたように、放送事業者が有するいずれの権利についても、私的複製実施時には損失の有無が判断できない。また上記の前提条件1,2はビジネス上の前提条件として認識すべき性質のものであり、その中の一つである前提条件2(放送の私的録音)の存在によってビジネス機会が損失したとまではいえないと考える。
このようなエアチェックの私的録音に対し、本制度によって損失を補填しようとする考え方は不適切であると考える。(ビジネスとして実施しない分まで「補填」することになりかねない。)


まとめ:
以上考察(1)~(4)で述べてきたとおり、ここに挙げたすべてのケースにおいて、本制度で損失を補填すべきケースは見当たらなかった。上記の(1)~(4)はデジタルコピーの利用形態の主なものを取り上げており、その中で本制度で損失を補填すべきケースが存在しないことから、本制度は制度的に破綻していると考えざるを得ない。本制度については、即座に廃止に向けた議論を開始すべきである。


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