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喉元過ぎれば熱さ忘れる

東日本大震災から一年が過ぎました。
記憶が曖昧になる前に、あのとき、私が見た事を記しておこうと思います。

3月12日(土曜日)3

2012年04月24日 | 東日本大震災
 来客者が帰って姿見にうつった自分を見ると、酷かった。
顔は青白く、髪の毛はボーボー。
しかし水道をはじめライフラインは全てダメだったので、顔を洗う事も出来ない。
外では徐々に人が動き始める気配がしていた。
とりあえず何かしようと思い玄関を出たが、ドロドロで歩くのもままならない。
何処かの家の残骸だろうか、板の切れ端が結構落ちていたのでそれを広い集め、
泥の上に敷いて家の前から道を作った。
 
 私の家の周りは、水の引くのが遅かったせいか、結構泥があって歩きにくかった。
家から右手の私の車がある方向に丸太が一本あり、それが道を塞いでいる。
その前の家では、玄関と雨避け屋根の支柱の間に車が斜めに挟まっている。
そして私の家の左手の道路上には、お墓の方から流れて来た塔婆が散乱し、
何処かの家の仏壇らしきものもあった。
私は見ていないが、泥に埋まった猫の死体もあったらしい。
塀の上に前輪を乗せて斜めになった自動車、ひっくり返ってガソリンが漏れている軽自動車、
どこからか流れて来た自動販売機…
人力ではどうしようもない状況だ。
 
 とりあえず手を付けられるのは玄関しかなかったので、
風呂の残り湯をバケツにくんで、それで玄関の泥を流した。
水道がまともだったらホースで勢い良く流せばいいだけの作業だったが、結構時間がかかる。
その作業を終えてから、犬達にごはんをあげなきゃと思い、神社に水を汲みに行く準備をした。
 玄関先にあったおにぎりを持って、リュックに空のペットボトルを入れて神社へ向かう。
歩きながらおにぎり(おにぎりと言っても二口ぐらいの大きさ)を口に入れた。
いつ作ったのかわからない、何度か凍ったり解けたりを繰り返したような、
口の中の水分が一気に吸い取られる不快な代物だった。
おまけに泥だらけ。
食い物がない状況で非常に申し訳ないと思ったが、全部泥の上に吐き出した。
後味が非常に不快だったが、一緒に入っていたたくあんが、もの凄くうまくて助かった。

 線路の上を見ると、生活道路の上に迷彩服を着た集団がいるのに気付いた。
自衛隊だった。救助が来た。
太陽に照らされた迷彩色は凄く輝いて見える。非常に元気づけられる光景だった。
 思った以上に早い救助隊だ。これでとにかく一息つけると思った。
生活道路に行くと、遠くの方にも迷彩色の集団が見える。
7~8人の集団ごとに固まって指示待ちというか、被害状況を俯瞰しているようだった。
 
 自衛隊の方に近づいてその中の一人に、
「昨日は寒くて薪がなくて困った。土に埋まっている枕木を掘ったが、
凍っていて少ししか掘り出せない。
今夜も寒いだろうから、今のうちに掘り出したいので手伝ってくれないだろうか」
というような事を言った。
するとその自衛隊員は自分に話しかけているのか?という具合で私を見た。
目が合うとまだ子供で、何がなんだかわからないという感じが滲み出ている。
(恐らく高卒一年目の隊員だったと思う。)
その隊員が無線機を担いだ、ちょっと年上ぐらいの隊員に助けを求めるよう視線を向けたので、
その人にもう一度用件を伝えた。
すると、「私たちは遺体捜索の為に派遣されたので、それ以外では動けません」と言われた。

…遺体捜索? 遺体なんてこの辺にあるのか? みんな逃げる時間はあったし、逃げたはずだ。
死んだ人なんているわけがない。
正直面食らったが、彼らも一番近い駐屯地からわけがわからず、とりあえず出発したのだろう。
みんな装備も持たず無線機以外はほぼ手ぶらで、何の情報もなく
とにかく駆けつけてくれたという感じだった。
(自衛隊員はその場を動く事はなく、道路へ降りるという事はなかった。今にして思えば
津波警報はずっと出ていて、むやみな浸水地域の立ち入りを制限されていたかもしれない。
もう津波後の感覚の私とはズレていた。)
 とりあえず津波後初めて外部から来た人を見た。しかも自衛隊。
忘れられていないことがわかっただけで、大変心強かった。

 神社へ行くとスーツの兄ちゃんが薪を切っていた。
「長野でもおっきな地震があったぁね」と声をかけると、「昨日はうらやましがったのにね。」
と笑っていた。
「まぁだ、木切ってんの?昨日は大変だった?」と聞いたら、
「大変でした。もっと木を切っておかなければ、今晩もっと大変ですよ、
もう燃やすものがない。」と言ったので、
「もう下に自衛隊も来てっから大丈夫だ。
なぁに、燃やすものは下に濡れた材木があるし、あとは残った人間がどうにかするんだ。
もういいよ、逃げられる人は早ぐ脱出した方がいい。
俺は逃げっとこがねぇがらいるしかねぇども。」と言って脱出を促した。
申し訳なさそうな顔をしていたが、それっきり見なかったのでいつの間にか脱出したのだろう。
(スーツの兄ちゃん達、色々お世話になりました。ありがとう。)

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