よろず放談

日頃見聞きする種々の事柄に対しての独断と偏見による辛口批評

松平千秋氏逝去さる

2006-06-30 11:04:24 | Weblog
古典ギリシア語学者で、イリアス、オデユッセイア、ヘロドトスの歴史、
アナバシスなど数多くのギリシア文学の名作の翻訳で知られる松平千秋氏
が逝去されていることを新聞で知った。
数年前、毎日新聞の日曜の書評欄で丸谷才一氏が、イリアスとオデユッセイア
(岩波文庫)の翻訳を激賞されているのを読み、始めて松平氏の存在を知った。
実際に読んでみると、古典文学の翻訳にありがちな晦渋は全く無く、
その流麗な訳文は読者を魅了せずには措かない。オデユッセイアの最後
の、イタカの屋敷で、ペネローペへの求婚者達を皆殺しにする件は、まるで
映画を見るような迫真感に満ちていた。
 最近、NHK名古屋文化センターで、古典ギリシア語の講座が設定された
ので、聴講することにしたが、その教科書は、田中美知太郎、松平千秋
共著の[ギリシア語入門]である。その教材の配列、簡にして要を得る
説明など初学者への気配りに満ちていて、字が小さくてアクセント記号が
見にくい点を除けば、まことに理想的な教科書といっても過言ではない。
面識は全然無いけれども、見ず知らずの他人のような気がしない。
ここに氏の逝去を悼み、冥福を祈る。