グゥフィー と キヨちゃん

2021-09-03 00:31:51 | 随筆
うぅぅ、ワンギャン、ガウガウ!

「肥溜め」の記事に載せたが、お隣さんの犬はよく吠える。 雑種の雄犬で、名前はグゥフィーという。 

ちなみに英語で goof (グゥフ)というと、アホとかトンマな奴という意味である。 その名通りのグゥフィーは、毎日私が裏庭の畑に出ると、チェーンリンクのフェンスに飛びついてくる。 ドッグフードの食べかすがついた歯をむき出しにして、フェンスをがりがりかじる。 これはお隣の家主さんのフェンスなのでどうでもいいが、とにかくうるさい。 飼い主のマルガリータは、犬の糞をいつもほったらかしにするので、向こう隣りの「デッキの旦那」に苦情を言われた。(「肥溜め」その2 記事参照) その後しばらくの間は掃除をしていたが、また最近さぼっている。

黙っていれば結構かわいい顔をしているのに、うるさいことうるさいこと。 畑の胡瓜を台無しにされた恨みも手伝って、私もだんだんこの犬が嫌いになってきた。 朝、水やりのため、裏庭に立っていると、さっそくガウガウ始まる。

「アホ! おはようさん、と言わんかい!」

こちらも意地になって、ホースでさばーっと水をかけたりする。 それでも、なんのその。 ホースから勢いよく飛び出す水の流れに嚙みつこうとするのだ。 どうしたものか。 

そこでキヨちゃん(「乾物屋のキヨちゃん」の記事参照)に来てもらうことにした。

キヨちゃんは、孫娘の愛犬である。 8歳の雑種老犬で、誰にでもしっぽを振る。 根性悪のグゥフィーとは大違いだ。 彼女は性格の良い子だが、どういうわけか大の犬嫌いで、自分と同類の「犬」を見ると、物凄い勢いで怒り始める。 いつか息子夫婦の友人が旅行をするというので、彼らはペットを預かることにした。 このペットは兎だという。 

「そんなもの預かったら、キヨちゃんに食べられるんじゃないの。」

と私は心配したが、彼女は家の中を飛び回る動物を喜んで追い掛け回し、一緒に遊んでいた。 この犬嫌いのキヨちゃんを連れてきて、グゥフィーと喧嘩させようと思ったのだ。 もちろんフェンス越しに。 ただの「怒鳴りあい」になるわけだが、こちらにもおっかないのがいるゾ、ということをアホ犬に知らせてやろう。 

大好きなばあちゃんの家にやってきたキヨちゃんは、しっぽをちぎれんばかりに振ってお愛想を振りまいた。 見ると、右後ろ足を引きずっている。 

「これどうしたの?」と、嫁のダイアナに聞く。

「もう年だからねぇ。 神経痛みたいよ。」

そうか、可哀そうに。 お互い年は取りたくないね、とキヨちゃんの頭をなでた。 

さてダイアナには、今日の目的について説明をしてある。 彼女もどうなるか興味津々のようだ。 

「ママ、キミー(キヨちゃんの本名)は年を取ってからますます犬嫌いになってきたから、大騒ぎになるかもよ。」
「かまやしないよ。 ほんの数分だからね。」

ダイニングルームからお隣をちらちら眺め、茶を飲んでいたが、老犬はテーブルの下で居眠りを始めた。 すると数分後、頭の悪い犬がうろうろとガラージから出てくるのが見えた。 それ、キヨちゃん、おいで! 彼女はうれしそうに後ろ足を引きずりながら、私の後をついてきた。 地下室のガラス戸まで行くと、キヨちゃんはすでにヤクザ犬をお隣の庭に見つけ、ぴったりとそちらを凝視した。 戸を開けるや否や、ダッと飛び出す。 えぇっ、神経痛はどうした?! 

グゥフィーは、我が家の物置小屋のすぐ近くにいたが、急に現れた見知らぬ犬にびっくりして、一瞬動かなくなった。 日本では、これを最近のはやり言葉で「かたまる」、というらしい。 キヨちゃんはグゥフィーより足が長く、体が大きい。 日ごろのアホ犬に負けず劣らずの牙を剝きだして、彼女は食って掛かった。 痛いはずの後足で立ち、フェンスにべったりくっついたキヨちゃんは、地獄の底からたたき出したようなドスのきいた吠え声で喧嘩を売った。

当のムク犬は数歩後ずさりをして、それでも応戦する。

わんわん、ギャンギャン、ガウわう! キヨちゃんの剣幕に恐れをなした敵は後ずさりを始め、しばらくするとガラージの戸までじりじりと下がっていった。 グゥフィーはとうとう建物の中に隠れてしまい、それでもその中からわんわん叫んでいる。

ザマーミロ! キヨちゃんの勝ちー!

その晩、息子がラインを送ってきた。

「オフクロ、何かもう少しましなことしないの?」





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