アメリカの嘘つき商品

2021-11-14 00:26:10 | 随筆
「これが Sサイズ? 嘘でしょ!」 私は婦人服売り場でシャツを手にし、憤慨していた。 

アメリカに来てから40年以上経つが、昔はこれほど酷くなかった。 「肥満国、アメリカ」という記事を以前書いたが、2021年現在、この国の成人36.5%は obese( 肥満)で、32.5%は overweight (太りすぎ)という統計が出ている。 であるから、アメリカ成人人口の2億5834万人の3分の2が太りすぎなのだ。 

日本語の「肥満」と「太りすぎ」という言葉の間に大した差はないように感じるが、英語の obese と overweight の間には、大きな違いがある。

overweight というと「一般的な肥満」を表し、こんなにおなかが出てきてしまった、少しダイエットしなければ...程度のものである。

obese は「病的肥満」を表す。 糖尿病、心臓病などの問題を併発し、日常生活に支障をきたす。

この obese にさらに morbidly という言葉を付け足し、 morbidly obese というと、自力で動くことができなくなるほど太ってしまった状態のことを言う。 日本で overweight, obese の人たちを見ることはあろうが、さすがに「モービッドリー オビース」はいないだろう。 

1983年に41歳で亡くなったある男性は、体重が1,400パウンド(635キロ)あった。 morbidly obese の患者が亡くなると、自宅から葬儀社へ遺体を移動させる時、ドアを通過することができない。 であるから、壁を壊す。 ある人は、自分のサイズに合う服を見つけることが不可能になり、年がら年中全裸で過ごすことになった。 外出もままならず、自宅のベッドの上での生活を余儀なくされ、沐浴、排せつ時も人の手を借りねばならない。 またある女性は、体重が600パウンド(約272キロ)に達した時にようやく減量の決心をした。 その直接的なきっかけは、用足しの時に「便器をこわしてしまった。」ことであった。 腰かけた時に、陶器製の器が、ばりばりと音を立てて崩れたそうな。 

さてある日、私は家電製品の買い物をしたが、不良品であったので返品のため店へ戻った。 カスタマーサービスの窓口で、セールス担当者は誰であったかと聞かれたが、彼女の名前を憶えていなかったので、説明をしなければならなかった。

「えーとですね、白人女性で、年は40代、蒼い目で、髪はブルネット...」

このような容貌の人はたくさんいる。 私はどう言っていいかわからず、あーうーと口ごもった。 すると店員は、
「Was she chubby? (太った人ですか?)(チャビーと発音する。)」
と聞いてきた。 はいそうです、と答えた後、この女性のことを頭に思い出し描いた。 背はそれほど高くはなかったが、肥満体の彼女は広い店内を歩き回るのも辛そうだった。 後ほど、このような状況下で、どんな言葉を使えば失礼にならないのかと友人に聞いたら、

「そうねぇ、まさか fat とはいえないわよね。 plump はどうかな?」と言った。 プランプ、か。 なるほど。 

我が国、アメリカの肥満問題は由々しき事であり、少しも改善方向に向かっていない。 いろいろな原因はあるが、衣服製造業界にも責任があると私は信じる。 客たちの体系は、昔から少しも変わっていないどころか、ますます大きくなってゆく。 ここで彼らを安心させ、購買を促すために「嘘」をつき続けてきたのだ。 身長158.5、体重52キロの私はアメリカでは Sサイズだ。 久しぶりにシャツを買おうと一番小さいものを手に取ったが、それは日本であるならば、LLサイズとなるであろう大きさであった。 太り続ける客たちに向かって、

「大丈夫ですよ。 あなたは L サイズなどではありません。 小さな小さな、S ですよ。 安心してたくさん買ってね。」

と、ウソをついているのである。 日本にいる私の妹や姪などは小柄なので、アメリカで衣服を買おうと思ったら、子供服売り場へいかねばならない。


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