隣人が飼っているムク犬のグゥフィーは、よほど私のことが嫌いなようで、こちらが畑仕事をしている間中吠えるのを止めない。 ある日、向こう隣りの旦那が耐え切れなくなったのだろう、デッキの上から大声で怒鳴ってきた。
「SHUT UP!!!」(黙れ!!!)
もちろん彼は、犬に向かって怒鳴ったのだが、なんだか私も責められているような気がした。 私がそこにいなければ、このアホ犬も静かなのだから。 だからと言って、畑仕事を放り出すわけにはいかない。
ところで春先、胡瓜の種をまく前、フェンスに蔓を絡ませてもよいかどうか、この家の家主に聞いてみた。 意地悪ばあさんから家を買った男性は、改築をし、賃貸住宅としてマーケットへ出したのだ。 フェンスは彼の地所に属していたので、一応許可をもらった。
「あぁ、もちろんかまいませんよ。 たくさん胡瓜が採れるといいですね。」
とこの人は笑った。 そうして、その実がぽちぽちとつき始めたころ、彼らがグゥフィーを連れて引っ越してきたのだ。
いやだな、雄犬か...。 私が危惧した通り、こいつは毎朝片足を挙げてシャーっとおしっこをした。 私の胡瓜に。 食べられるわけがない。 腹が立ったので、犬の飼い主に言った。
「たくさん実がつきましたから、お好きなだけどうぞ。」
彼女は私の下心を知ってか、あるいは遠慮をしたか知らぬが、一度もこの野菜を採らなかった。 それから私は、すぐに蔓を取り外し、全部捨ててしまった。
グゥフィーは裏庭のある特定の場所だけに脱糞した。 我が家との境界線にあるフェンスぎりぎりのところが彼のお気に入りのスポットだ。 大雨が降ると、犬の糞が薩摩芋の畝まで転がって来やしないかと、気になる。 飼い主の女性は糞の掃除をしない。 いつもそのまま。
ある蒸し暑い日、私は2歳の孫娘のサラをデッキの上で遊ばせていた。 おもちゃのプールの中ではしゃいでいる孫を眺めていると、突然風と共に強烈な臭気が鼻を突いた。 どのような匂いかというと、「不潔な公衆便所」と「車にはねられ、道路に転がっている野生動物の死臭」が合わさったような匂いである。 頭がくらくらするほどの湿気と暑さも手伝って、鼻が曲がりそうなほど臭い。 驚いたことにサラは全く平気なようで、一人で遊び続けている。
「な、なんだこの匂い?」
初めは、野菜くずや、枯れ葉を集めた堆肥の山が原因かと思ったが、どうやらそうでもないらしい。 犯人は、すっかり忘れていた雑草堆肥のコンテナであった。 まさか、こんな匂いがするとは...。慌てて様子を見に行ってみると、なんともおどろおどろした真っ黒などぶ水が出来上がっていた。 私は6歳まで山梨で育ったが、一年だけ通った小学校の周りはあたり一面畑であった。 今から60年近く昔の話だが、当時はまだ人糞を堆肥として使っていた。 学校からの帰り道よく道草をしたが、肥溜めはあちらこちらにあった。 男の子たちはズボンのポケットに爆竹を忍ばせ、放課後肥溜めの中に放り込んだりして悪さをしていた。
長年忘れていたが、あの匂いだ。 いや、もっとひどいかもしれない。 まさかこんな事になるとは...。 あまりにもたくさんの量を作ったので、いやはや、物凄い臭気だ。 慌てて裏庭に捨てても、これはちょっとやそっとで消えそうもない。 弱ったな...。 とりあえず、コンテナに蓋をすることにした。 それでも匂った。 少なくとも、中に入っているドロドロの雑草と真っ黒な水は見えなくなった。 しかし臭い。 もっと小さなバケツか何かで、最初にテストをするべきだったのだ。 ご近所さんたちからいつ苦情がくるかと、戦々恐々としていた時に「事件」が起きた。
実は私の肥溜めが匂い始めたころ、あることに気が付いた。 グゥフィーのトイレの場所が変わったのだ。 犬の嗅覚は人間の一億倍と言われる。 人間の私でも耐え切れないほどの臭さは、グゥフィーの鼻を激しく圧迫したに違いない。 それを少しでも避けるためか、この犬は向こう隣りのフェンスの近くに場所を移したのだ。 私がコンテナをどうしようかと、おたおたしている間に、犬の糞は毎日あちらの家との境に山積みとなっていった。 犬の糞と雑草堆肥が混ざった強烈な匂いにキレた「デッキの旦那」は、シェアハウスに怒鳴り込んだのだ。 私はちょうどその時、フロントヤードで花壇の手入れをしていた。
「あんたたちには、常識というものがないのかね! 毎日毎日あのアホ犬(dumb dog)をぎゃんぎゃん吠えさせて、糞は垂れ流しのまんまだ! いい加減にしろ! 保健所に通報するぞ!」
この後、グゥフィーのママは、汗をたらたら流しながら糞を拾った。
私も汗をたらたら流しながら深い穴を掘り、そこに肥しを埋めた。
もう二度とやらない。
「SHUT UP!!!」(黙れ!!!)
もちろん彼は、犬に向かって怒鳴ったのだが、なんだか私も責められているような気がした。 私がそこにいなければ、このアホ犬も静かなのだから。 だからと言って、畑仕事を放り出すわけにはいかない。
ところで春先、胡瓜の種をまく前、フェンスに蔓を絡ませてもよいかどうか、この家の家主に聞いてみた。 意地悪ばあさんから家を買った男性は、改築をし、賃貸住宅としてマーケットへ出したのだ。 フェンスは彼の地所に属していたので、一応許可をもらった。
「あぁ、もちろんかまいませんよ。 たくさん胡瓜が採れるといいですね。」
とこの人は笑った。 そうして、その実がぽちぽちとつき始めたころ、彼らがグゥフィーを連れて引っ越してきたのだ。
いやだな、雄犬か...。 私が危惧した通り、こいつは毎朝片足を挙げてシャーっとおしっこをした。 私の胡瓜に。 食べられるわけがない。 腹が立ったので、犬の飼い主に言った。
「たくさん実がつきましたから、お好きなだけどうぞ。」
彼女は私の下心を知ってか、あるいは遠慮をしたか知らぬが、一度もこの野菜を採らなかった。 それから私は、すぐに蔓を取り外し、全部捨ててしまった。
グゥフィーは裏庭のある特定の場所だけに脱糞した。 我が家との境界線にあるフェンスぎりぎりのところが彼のお気に入りのスポットだ。 大雨が降ると、犬の糞が薩摩芋の畝まで転がって来やしないかと、気になる。 飼い主の女性は糞の掃除をしない。 いつもそのまま。
ある蒸し暑い日、私は2歳の孫娘のサラをデッキの上で遊ばせていた。 おもちゃのプールの中ではしゃいでいる孫を眺めていると、突然風と共に強烈な臭気が鼻を突いた。 どのような匂いかというと、「不潔な公衆便所」と「車にはねられ、道路に転がっている野生動物の死臭」が合わさったような匂いである。 頭がくらくらするほどの湿気と暑さも手伝って、鼻が曲がりそうなほど臭い。 驚いたことにサラは全く平気なようで、一人で遊び続けている。
「な、なんだこの匂い?」
初めは、野菜くずや、枯れ葉を集めた堆肥の山が原因かと思ったが、どうやらそうでもないらしい。 犯人は、すっかり忘れていた雑草堆肥のコンテナであった。 まさか、こんな匂いがするとは...。慌てて様子を見に行ってみると、なんともおどろおどろした真っ黒などぶ水が出来上がっていた。 私は6歳まで山梨で育ったが、一年だけ通った小学校の周りはあたり一面畑であった。 今から60年近く昔の話だが、当時はまだ人糞を堆肥として使っていた。 学校からの帰り道よく道草をしたが、肥溜めはあちらこちらにあった。 男の子たちはズボンのポケットに爆竹を忍ばせ、放課後肥溜めの中に放り込んだりして悪さをしていた。
長年忘れていたが、あの匂いだ。 いや、もっとひどいかもしれない。 まさかこんな事になるとは...。 あまりにもたくさんの量を作ったので、いやはや、物凄い臭気だ。 慌てて裏庭に捨てても、これはちょっとやそっとで消えそうもない。 弱ったな...。 とりあえず、コンテナに蓋をすることにした。 それでも匂った。 少なくとも、中に入っているドロドロの雑草と真っ黒な水は見えなくなった。 しかし臭い。 もっと小さなバケツか何かで、最初にテストをするべきだったのだ。 ご近所さんたちからいつ苦情がくるかと、戦々恐々としていた時に「事件」が起きた。
実は私の肥溜めが匂い始めたころ、あることに気が付いた。 グゥフィーのトイレの場所が変わったのだ。 犬の嗅覚は人間の一億倍と言われる。 人間の私でも耐え切れないほどの臭さは、グゥフィーの鼻を激しく圧迫したに違いない。 それを少しでも避けるためか、この犬は向こう隣りのフェンスの近くに場所を移したのだ。 私がコンテナをどうしようかと、おたおたしている間に、犬の糞は毎日あちらの家との境に山積みとなっていった。 犬の糞と雑草堆肥が混ざった強烈な匂いにキレた「デッキの旦那」は、シェアハウスに怒鳴り込んだのだ。 私はちょうどその時、フロントヤードで花壇の手入れをしていた。
「あんたたちには、常識というものがないのかね! 毎日毎日あのアホ犬(dumb dog)をぎゃんぎゃん吠えさせて、糞は垂れ流しのまんまだ! いい加減にしろ! 保健所に通報するぞ!」
この後、グゥフィーのママは、汗をたらたら流しながら糞を拾った。
私も汗をたらたら流しながら深い穴を掘り、そこに肥しを埋めた。
もう二度とやらない。