不登校問題を考える・子ども応援センターTomorrow 

不登校問題への提言・問題提起/不登校の親の会「こぶしの会」/不登校・ひきこもりの人たちの居場所「水曜塾」の活動紹介

不登校の真実その6 第4章「不登校問題解決への道すじ」

2024-01-11 14:54:34 | 考察

第4章 不登校問題解決への道すじ

 

1.調査資料から分かる子どもたちの思い

見て来たように、施策と無縁の子どもたちが多くいます。しかし、調査資料からは、次のような子どもたちの様子や思いが伝わってきます。それは、不登校問題を解決していくための参考になるのではないでしょうか。

 一つは、不登校になりかけた時、困った時、子どもたちは身近な人に相談しています。それは、家族、親であり、友だちであり、先生です。(しかし、先生の存在が他の人たちより薄いのが気に懸かりますが)

 二つは、身近な人の声かけや働き掛けが子どもたちにとっては大きな支えや励ましになっているということ。

 三つは、子どもたちは、勉強がしたい、勉強が分かりたいという思いを持っていること。

 四つは、子どもたちは、友だちと一緒に楽しく活動したいという気持を持っているということ。

 五つは、子どもたちは、学校に行けなくなるまで、我慢し、自分を追い詰めているということ。

 六つは、子どもたちは、自らの状況(不登校)を受け入れざるを得ず、また、どのような施策も当てにできない状況に置かれているということ。

 そして、七つは、不登校を経験した子どもたちは、いつまでも同じ状況に留まっていないということ。

 

2.自らの道を切り開く子どもたち

 次の資料は、2022年の問題行動等調査の中の「不登校児童生徒への指導結果状況」状況です。

 

 

小学生

中学生

不登校児童生徒数

81.498人

163.442人

244.940人

指導の結果登校する又はできるようになった児童生徒

 

22.119人

 

45.925人

 

68.044人

指導中の児童生徒

59.379人

117.517人

176.896人

 

 

 不登校の子どもたちが、小・中学生の時に学校に戻ることや再登校することができるのは、三割にも満ちません。多くの子どもが不登校のまま義務教育を終えているようです。

 しかし、その後の就学・就業状況を見ると、子どもたちの多くが進学したり働いていたりすることが分かります。次のページの資料「不登校生徒の進学・就学・就業状況について」を見てください。

資料(実態調査、2011年)

  ■平成18年度不登校生徒の進学・就学・就業状況について※( )内は前回調査

 

①中学3年生時の高校進学率

 

今回調査

全国平均

高校進学率

85.1% (65.3%)

98.0%

高校中退率

14.0% (37.9%)

1.9%

※高校進学率の全国平均は、平成19年度学校基本調査、中退率の全国平均は、平成19年~21年度問題行動調査による。

 

  • 20歳現在の就学・就業の状況

 

今回調査

全国平均

就学している

47.4% (23.5%)

59.0%

就業している

54.1% (63.0%)

44.7%

 

(参考)就学・就業の詳細

        |   就学している       |    就学していない    |

 

今回調査

全国

今回調査

全国

就学している

19.6% (9.3%)

16.4%

34.5% (53.7%

28.3%

就業している

27.8% (14.2%)

42.6%

18.1% (22.8%)

8.6%

※全国平均は、2010年国勢調査による。

 

  • 20歳現在の就学状況

 

今回調査

全国平均

高等学校

9.0% (6.5%)

1.3%

専門学校・各種学校等 

大学、短大、高専 

37.7% (*16.5%)

 

58.8%

【今回調査の内、専門学校・各種学校等は14.9% (8.0%)、大学・短大・高専は22.8% (*8.5%)】

※全国平均は、2010年国勢調査による。*前回調査は、高専を含まず。

 

  • 20歳現在の就業の状況

 

今回調査

正社員

9.3% (22.5%)

パート・アルバイト

32.2% (30.7%)

 

小学校や中学校の時期に学校に行っていなくても、働いたり勉強したりしているのです。

学校に行っていなくても、自らの進路を開いているって、すごいことです。それを、不登校の子どもたちはやっているのです。先生からは「無気力」だと思われていた子どもたちが、そんな力を持っているのです。不登校の中でも、子どもは育ち、成長しているのです。それが子どもたちの持っている力であり、可能性なのです。

 それなのに、そんな子どもたちが行けなくなる学校っていったい何なのでしょう。子どもたちの声を聞いて、しっかりと受け止めて、誰もがいそいそと通え、大いに自分の力を伸ばせる学校を子どもたちは望んでいます。学校って、本来、そういうところのはずです。

 

3.【提言】不登校問題を解決ために

 文科省は10年ごとに「不登校に関する調査研究協力者会議」を設置し不登校対策を検討してきました。今回(2022年)の「協力者会議」で露呈したように、不登校の子どもたちの思いとはかけ離れた不登校対策が行われています。不登校問題の本質を見ようともせず、いつまでも、不登校を子や親の責任、課題とした対策をとってきた結果、学校に行けない子どもの数は二五万人まで膨れ上がってしまいました。(2022年には30万人になりました。)それでも、なお、同じ対策を繰り返そうとしています。

これでは、不登校をなくすことも、不登校問題を解決することもできないでしょう。学校に行けない子どもたちをなくすためには、子どもたちが学校に行けない要因を取り除くことだと、誰でも考えるのではないでしょうか。子どもたちが挙げている不登校の主な要因は、①「勉強が分からない」 ②「いじめ」 ③「先生との関係」 の3点です。まずは、これらを取り除くことからはじめたらどうでしょう。そして、子どもたち一人ひとりが、いそいそと通える学校を作ることではないでしょうか。

 

提言1 まず、不登校に対する認識を改めよう 

  • 不登校は、子どもたちの「無気力・不安」から起こっているのではなく、この国の貧困な教育政策から生み出されているということ。
  • 不登校は、子どもたちの成長・発達する権利、学習権の侵害です。
  • 不登校の子どもたちは、支援や援助を受ける憐れまれる存在ではありません。
  • 不登校の子どもたちは、困難な中でも自らの進路を切り開いている、成長・発達、学習、生活の主体者であり、主権者として尊重されるべき存在です。

 

提言2 子ども(当事者)の視点に立って考えよう

  • 不登校問題がなぜ起こっているのかを、子どもの視点に立って明らかにしよう。
  • 不登校の子どもたちの学びや発達に対する要求を尊重しよう。
  • 不登校を乗り越えた子どもたちから学ぼう。

 

提言3 今日の学校教育、制度を改めましょう(教育課程・学習指導要領の見直し)

  • 子どもたちの学びたい分かりたいという思いを大切にしよう。
  • どの子にも確かな学力を保障しよう。
  • 子どもたちの主体性を大切にしよう。
  • 子どもの全面発達を保障しよう。
  • 先生が教育に専念できる環境を保障しよう。
  • 子どもと先生が触れ合える時間を保障しよう。

 

提言4 子どもを権利の主体とした新しい子ども観・教育論を確立しよう

  • 子どもを権利の主体として尊重しよう。
  • 子どもを権利の主体とした教育活動、教育実践を家庭、地域で展開しよう。
  • 子どもが学校、地域、家庭で伸び伸びと生活し、活動できる環境を作ろう。

 

 しかし、これらが今すぐ実現するとは、到底望めません。今のような状況がこれからも続くことでしょう。では、私たちは、今をどのように生きていけばいいのでしょうか。今、できることを、気が付いた人から、はじめていきましょう。 一人ひとりが主体者として、主権者として!

 

提言5 誰にでもすぐに実行できること

〈子どもが学校へ行くのをいやがったら、学校へ行かなくなったら〉

  • 学校へ行くか休むか、子どもの気持ちを尊重しましょう。
  • 学校は休んでもいいんです。
  • 家庭を子どもの居心地のいい居場所にしよう。
  • 子どもことは子どもに任せましょう。
  • 子どもの主体性を大切にしましょう。
  • 家庭は、子どもが学び、成長できるところです。
  • 家事はみんなでしましょう。子どもに頼りましょう。
  • 親子で、散歩をしたり、食事をつくったり、楽しい取り組みをしましょう。
  • 一緒に食事をしたり、散歩をしたり、楽しい取り組みをしましょう。
  • 親の会に参加しましょう。なければ、親の会を作りましょう。
  • みんなで手を取り合い、学び合いましょう。

 

不登校の子どもたちは哲学者だと言った人がいます。ダラダラすることは人間の権利だと言った人もいます。何もしていない時って、実は、次は何をしようかなと考えている時なんですよ。学校に行かないと1日24時間を自分で考え工夫して過ごさなければなりません。何日も何日も。これって、すごいことですよ。安心して学校を休めると、子どもはいろんなことを始めますよ。学校へ行かなくても子どもは成長していきます。そんな子どもをたくさん見てきました。せっかく不登校になったんだから、不登校を楽しんでください。きっと子どものすばらしさを発見できますから。    2023年11月23日 野中博善

 


不登校の真実その5 第3章「不登校対策を問う」

2024-01-10 10:12:16 | 考察

第3章 不登校対策を問う

 

第2章で、文科省の不登校対策の基になっている「問題行動等調査」が不登校の子どもたちの思いと大きくかけ離れていることを指摘しました。第3章「不登校施策を問う」では、文科省の行ってきた不登校対策の有効性、妥当性について考えます。

  • 文科省が行ってきた不登校対策

まず、文科省が行っている不登校対策を見てみましょう。次の資料を見てください。

資料1【文科省による不登校児童生徒への支援、施策】(調査研究協力者会議への提出資料から)

〇教育支援センター(適応指導教室)の設置の推進

 ・不登校児童生徒の社会的自立に向けた指導・支援を担う「教育支援センター(適応指導教室)の設置の推進            (令和元年度:1,527施設⦅H30:1449施設⦆) 

〇不登校児童生徒を対象とした学校の設置に係る教育課程の弾力化(不登校特例校)

 ・不登校児童生徒を対象として、その実態に配慮した特別の教育課程を編成する必要があると認められる場合、指定を受けた特定の学校において教育課程の基準によらずに特別の教育課程を編成      【特区措置を平成17年7月6日付け初等中等教育局長通知により全国化】

〇教育相談体制の充実

 ・不登校を含め様々な課題を抱える児童生徒への相談体制の強化に向け、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置やSNS等を活用した相談体制の構築を推進

〇指導要録上の出席扱いについての措置等

 ・小・中・高等学校の不登校児童生徒が教育支援センター(適応指導教室)や民間施設など学校外の機関で指導等を受ける場合や、自宅においてICT等を活用して行った学習活動について、一定の要件を満たすときは指導要録上「出席扱い」にできる

【令和元年10月25日付け初等中等教育局長通知(義務教育)】

【平成21年3月12日付け初等中等教育局長通知(高等学校)】

資料2 【文科省通知  令和4年6月10日】

「不登校に関する調査研究協力者会議報告書~今後の不登校児童生徒への学習機会と支援の在り方について~」について(通知)

「令和3年9月より、文部科学省において「不登校に関する調査研究協力者会議」を設置し、今後重点的に実施すべき施策に関する検討を行い、今般、その報告書が取りまとめられました。」

〇教育機会確保法及び基本指針の学校現場への周知・浸透

〇心の健康保持に関する教育の実施及び一人一台端末を活用した早期発見

〇不登校傾向にある児童生徒の早期発見及び支援ニーズの適切な把握のための、スクリ

ーニング及び「児童生徒理解・支援ノート」を活用したアセスメントの有機的な実施

〇不登校特例校設置の推進

〇学校内の居場所づくり(校内の別室を活用した支援策)

〇フリースクール等民間団体との連携

〇ICT等を活用した学習支援等を含めた教育支援センターの機能強化

〇教育相談の充実(オンラインカウンセリングを含む)

〇家庭教育の充実

〇その他

    *学校外における学習活動や自宅におけるICTを活用した学習活動について、一定の要件の下、指導要録上の出席扱いとなる制度について、校長を含め教職員への理解が進むよう、研修等において周知徹底を図っていただくよう、お願いします。

 

 資料1「文科省の不登校施策」と資料2「文科省通知(令和4年6月10日)」から分かるように、文科省の不登校支援は不登校の子どもたちへの相談支援(相談体制の整備)と学習支援(学習の場の確保)の整備が大きな柱になっています

 教育支援センター(適応指導教室)、不登校特例校、ICTを使った学習活動、フリースクール等の民間団体との連携などは学習の場の確保・保障の為です。スクールカウンセラーやソーシャルワーカーの配置は、教育相談を行うためです。こうした対策が、ずっと続けられてきました。

 

2023年8月26日の京都新聞に次のような記事が載っていました。(最新の不登校対策)

文部科学省は、空き教室を活用して学校内で不登校児童生徒をサポートする「校内教育支援センター」を拡充するため、新たに設置する自治体に必要経費を補助することを決めた。クラスの中に入れない子どもにも学校内の居場所や学習環境を確保するのが狙い。来年度予算案の概算要求に5億円を計上する。

 

 「校内教育支援センター」は初めて聞く名前ですが、目新しいものではなく、これまでの保健室登校や別室登校などの呼び方を変えたものと言っていいでしょう。

「教育機会確保法」準備段階で考えられていたフリースクール等の学校外での学習の場の保障という構想が頓挫した揚句に出て来た学校内での居場所づくり「校内教育支援センター」が最新の不登校対策のようです。そのために、来年度、5億円かけて全国に広めていこうということです。(1校当たり2万円です)

記事は、各地の自治体が進めている支援についても紹介しています。一人一台配備されたデジタル端末などの情報通信技術(ICT)を活用したり、民間フリースクールのノウハウを取り入れたりして多様な学びの場を確保し、「誰も取り残されない教育」の実現を目指しているそうです。次に挙げるのは各地の「校内教育支援センター」の例です

 ○「ステップセンター」・・・福岡市

 ○「ぱれっとルーム」・・・・埼玉県戸田市

 ○端末ででの支援・・・・・さいたま市         などなど

 「校内教育支援センター」という新しい言葉を使って、新たな取り組み(対策)を装っていますが、従来の対策(別室登校・別室指導など)のコピー・延長です。

2.不登校対策への子どもたちの反応

では、不登校の子どもたちは、これらの相談支援・学習支援をどのように受け止め、どのように利用しているのでしょうか。次の資料を見てください。学校内外の施設や機関を利用した小中学生の人数です。

資料3「相談・指導を受けた学校内外の機関等」(文科省・「問題行動等調査」から抜粋)

相談・指導を受けた学校内外の機関等

小学校(人)

中学校(人)

合計(人)

教育支援センター(適応指導教室)

7283

17926

25209

教育委員会所管の機関

8516

9237

17753

児童相談所・福祉事務所

4443

6530

10973

保健所・精神保健福祉センター

592

744

1336

病院・診療所

12302

21981

34283

民間団体・民間施設

4021

5108

9129

上記以外の機関

1943

2810

4753

養護教諭

15051

28476

43527

スクールカウンセラー・相談員等

30716

54700

85416

相談・指導を受けていない

26943

61997

88940

 

次の資料4は、不登校の子どもたちが、不登校になり始めた頃に誰に相談したかを尋ねたものです。文科省が不登校当事者を対象に実施した「実態調査」を基に作成しました。

資料4 不登校になり始めた時に相談した相手」

相談した相手

小学生%

中学生%

学校の先生

13.3

15.0

保健室の先生

7.7

6.9

学校にいるカウンセラー

8

7.4

友達

7.6

10.6

家族

53.4

45.0

電話相談やSNS相談の相談員

0.4

1.4

その他

3.2

3.2

誰にも相談しなかった

35.9

41.7

無回答

2.7

3.6

 

 

 

 

 

 

 相談・指導施設や機関には、医療機関をはじめ保健室の先生、スクールカウンセラーなど様々な施設や機関が列挙されていますが、ここでは、主に学習支援をしている「教育支援センター(適応指導教室)」やフリースクールや塾などの「民間団体・民間施設」と相談活動を主な内容としている「相談施設・機関」とを分けて考えることにします。

○相談施設・機関の利用

 子どもたちが、もっとも多く利用しているのはスクールカウンセラーです。その次に多いのは養護教諭です。スクールカウンセラーは子どもや親の心理的ケア―のために配置されていて相談しやすいのでしょう。また、保健室は教室に居づらい子どもたちの避難場所でもあり、養護教諭は体や心の悩みを話しやすいのだろうと思われます。

 次に多いのは、「病院・診療所」です。子どもが学校に行きにくくなった時、子どもたちの多くは朝、起きられないこととか、身体の不調を訴えることがあります。そんな時、親は、子どもの体を心配し病院へ行き、診察してもらうのは自然な成り行きです。相談機関の利用状況からは、子どもの心身の状況を心配し病院を受診する親の様子がよく分かります。また、養護教諭やス相談クールカウンセラーが子どもたちの身近な相談相手として活躍しているのが伝わってきます。

 児童相談所や保健所、福祉事務所あるいは教育委員会・教育センター所管の機関等は、通常、学校のすすめがあって相談を申し込むので、自ずと利用者数は限られてくるのでしょう。

 ○支援施設・機関の利用

 文科省が不登校対策として力を入れている「教育支援センター(適応指導教室)」は、相談機関というよりも学びの場あるいは居場所としての支援機関と言えるでしょう。その利用状況は、小学生7283人(8.9%)、中学生17926人(10.1%)です。

 同じく民間の支援施設・機関としてフリースクール等がありますが、その利用状況は、小学生4021人(4.9%)、中学生5108人(3.1%)です。

 二つの施設・機関の利用者を合わせると、小学生11304人(13.8%)、中学生23034人(14.1%)、合計34338人(14.0%)です。

 しかし、支援機関の利用が、不登校の子どもたちの数に対してわずか14%で、「教育支援センター」だけでは一割程度に過ぎません。つまり、不登校の子どもたちのほとんど(86%)が、支援施設や機関を利用していない、または、利用できていないのです。このことは、文科省が特に重点を置いて進めてきた不登校対策が、不登校の子どもたちの為に、ほとんど役に立っていないことを物語っています。

さらに、不登校の子どもの三人に一人が、誰にも、何処にも、「相談・指導を受けていない」ことと併せて考えると、多くの不登校の子どもが支援の枠外に置かれていることが分かります。

不登校対策において、「誰も取り残されない教育」という文言が使われていますが、不登校の子どもたちのための不登校対策が子どもたちの手に届いていないことが「問題行動等調査」から分かります。

 

(2)「実態調査」から分かること

次に、「実態調査」を見てみましょう。「実態調査」には、不登校の子どもたちがどのような支援を望んでいるかを考える興味深い調査があります。それは、①不登校になり始めた時に「相談した相手」を尋ねているもの、さらに、②「どのようなことがあれば休まなかったと思うか」や ③どうすれば「学校に戻りやすいと思うか」などを尋ねたものです。

それらを見て、考えてみましょう。ただ、ここでも、「問題行動等調査」との乖離があります。そのことを念頭に調査結果を見る必要がありますが、不登校の当事者の行動や思いが反映されている点では、対策や支援を考える上で貴重な資料と言えるでしょう。

 

不登校になりかけた時、子どもたちが相談したのは「家族」です。小・中学生ともに半数が家族に相談しています。子どもの一番身近な存在で、一番かかわりの深い家族が一番の相談相手になることは至極当然なことでしょう。それに続くのは、「学校の先生」(小学生13.3%、中学生15.0%)です。先生は子どもにとって家族に次ぐ身近な存在であり、先生にとっては教え子であることからも、家族同様に身近な相談相手となるでしょう。「家族」も「学校の先生」も相談機関ではないから「問題行動等調査」には表れませんが、子どもにとって大切な相談相手であることが分かります。ただ、「学校の先生」の割合が親に比べても少なすぎるのは気がかりです。

次に子どもたちが相談したのは、「友達」、「学校にいるカウンセラー」、「保健室の先生」です。この三者には、それぞれ7~8%の子どもたちが相談をしています。

「実態調査」では、「学校にいるカウンセラー」や「保健室の先生」に相談した子どもの数は、「問題行動等調査」に表れた程には多くないようです。これは、子どもたちが保健室に行くのは、相談するというよりも、教室からの避難、休憩場所として行っているからではないかと推測できます。また、カウンセラーへの相談は、自分から進んでするというよりも先生や親から進められて相談に行くことが多いからではないかと思えます。

この調査からは、子どもにとって「家族」や「学校の先生」、そして、「友達」は、やはり、身近で、かかわりが深く、頼りにしている存在だということが分かります。

しかし、「実態調査」からも、小学生の35.9%、中学生の41.7%もの子どもたちが、誰にも、何処にも相談しないで、指導も受けていないことが分かります。これほどの子どもたちが、いわば、一人で問題を抱え、悩んでいるのです。調査結果に大きな乖離のある「問題行動等調査」と「実態調査」ですが、この点だけは一致しています。

 

ここでは、不登校になりかけた時、どのような働きかけや支援があったら学校に通えたかいうことを尋ねています。

 どのようなことあれば不登校にならなかったのだろうと期待を持って見たのですが、驚いたことに、「特になし」と答えた子どもが小学生55.7%、中学生56.8%もいたのです。半数以上の子どもたちが働き掛けや支援を望んでいないか、あるいは、期待していないのです。

「特になし」とは、たとえ、何らかの支援や働き掛けがあったとしても、不登校になっていただろうし、不登校になるのを防ぐ術や手立てはなかっただろうと言っているのでしょう。多くの子どもたちがこのような思いを持っていることを、強く受け止めなければなりません。

しかし、一方、少なくない子どもたちが、家族や友達、先生など、身近な人たちからの働きかけや、「個別に勉強を教えてもらえること」を期待し、拠り所としていることも分かります。ここに一縷の光を見る思いです。

資料5 「どのようなことがあれば休まなかったと思うか」

 

小学生%

中学生%

学校の先生からの声かけ

11.4

8.7

学校にいるカウンセラーと話をすること

4.8

6.2

友達からの声かけ

15.1

17.4

家族からの声かけ

8.6

6.7

学校以外の相談窓口(市の相談センターなど)に行くこと

2.7

1.5

学校以外の相談窓口に電話やSNSで相談すること

1.4

1.7

クラスとしての活動、文化祭、運動会などに参加すること

5.0

4.8

部活動などに参加すること

2.2

4.3

個別で勉強を教えてもらえること(学校以外も含む)

9.3

9.1

自分以外の家族への働きかけや手助け

2.5

2.5

その他

8.4

9.9

特になし

55.7

56.8

無回答

4.1

3.5

 

3)どういう支援や働き掛けがあれば学校に戻りやすいか

 【小学生】

先生の家庭訪問

4.2%

先生とインターネットや電話で話すこと

4.1%

学校にいるカウンセラーと話をすること

5.0%

友達からの声かけ

17.1%

家族からの声かけ

8.3%

学校以外の相談窓口(市の相談センター等)に行くこと

2.4%

学校以外の相談窓口に電話やSNSで相談すること

1.1%

個別で勉強を教えてもらえること(学校以外も含む)

10.7%

自分以外の家族への働きかけや手助け

2.7%

その他

5.2%

特になし

57.1%

無回答

5.9%

【中学生】

先生の家庭訪問

6.2%

先生とインターネットや電話で話すこと

3.9%

学校にいるカウンセラーと話をすること

7.1%

友達からの声かけ

20.7%

家族からの声かけ

7.5%

学校以外の相談窓口(市の相談センター等)に行くこと

1.4%

学校以外の相談窓口に電話やSNSで相談すること

1.9%

個別で勉強を教えてもらえること(学校以外も含む)

13.4%

自分以外の家族への働きかけや手助け

2.7%

その他

5.1%

特になし

54.4%

無回答

5.6%

次は、不登校状態にある子どもたちに、どういう支援や働き掛けがあれば学校に戻れるかを、を尋ねたものです。資料を見て分かるように、先の「どのようなことがあれば学校を休まなかったか」と同じような傾向を示しています。ここでも「特になし」が突出していて、小学生の57.1%、中学生の54.4%と半数以上を占めています。

学校に戻るために「友達からの声かけ」(小学生17.1%、中学生20.7%)と「個別で勉強を教えてもらう」(小学生10.7%、中学生13.4%)ことを少なくない子どもたちが望んでいることが分かります。ここでも、友だちの存在、友だちとの関りが子どもにとっていかに大事かが分かります。そして、勉強が分かることも学校に戻るための重要なことであることも。

他にも、「先生の家庭訪問」、「先生と話すこと」、「先生からの声かけ」や」カウンセラーと話すこと」など先生やカウンセラーとのかかわりを望んでいる子どもたちもいます。

4)学校を多く休んだことに対する感想

  小学生

もっと登校すればよかったと思っている

25.2%

登校しなかったことは、自分にとって良かったと思う

12.8%

しかたがなかったと思う

16.8%

何も思わない

18.1%

分からない

21.2%

無回答

5.9%

中学生

もっと登校すればよかったと思っている

30.3%

登校しなかったことは、自分にとって良かったと思う

10.3%

しかたがなかったと思う

15.3%

何も思わない

15.2%

分からない

22.6%

無回答

6.4%

この設問は、不登校の子どもたちが学校を休んだこと、不登校になったことをどのように受け止めているかを尋ねたものです。不登校の当事者が不登校をどう認識しているかを知ることができます。ただ、この問いに答えているのは、不登校只中の子どもたちですが、教育支援センター(適応指導教室)通えている子どもたちです。家から出ることができない子どもに比して、教育支援センターに通えるだけ不登校の状態としては良好な状況にあると言える子どもたちが答えているということを念頭に置いて調査結果を見るといいと思われます。

  • 「もっと登校すればよかったと思っている」子どもたちは、小学生25.2%、中学生30.3%です。
  • これに対して、「登校しなかったことは、自分にとって良かったと思う」と不登校を肯定的に捉えている子どもたちは、小学生12.8%、中学生10.3%です。
  • また、「しかたがなかったと思う」というように不登校になったのは避けられなかったと感じている子どもは、小学生16.8%、中学生15.3%です。
  • そして、「分からない」と回答したのは、小学生21.2%、中学生22.6%です。不登校只中で、この先どのようになっていくか分からず、自らの不登校をどう評価するか判断できない状況の中で「分からない」という回答は、子どもたちの不安な心情を素直に表しているのかもしれません。

 不登校に対する子どもたちの評価は様々です。不登校を否定的に捉える子もいれば、不登校を肯定的に捉えている子もいます。そして、しかたがなかったと不登校を必然と捉えている子もいます。不登校の子どもたち一人ひとりが、それぞれ、学校に行けない状況の中でも自分を見つめ、自分の思いや考えを育てながら、不登校の時を過ごしていると捉えるの妥当かも知れません。

 

3.子どもたちが利用していない不登校対策

(1)子どもに響かない不登校対策

以上、不登校の子どもたちの不登校施策の利用状況を見てきました。そこから分かることは、施策を利用できているのは限られた子どもたちであって、多くの子どもたちは施策と無縁の状況にあるということです。つまり、不登校施策が子どもたちの状況に合っていないということです。

  • どの相談施設・機関にも相談していない小・中学生が88931人((36.3%)もいる(問題行動等調査)こと。これは、「実態調査」の「誰にも相談しなかった〈小学生35.9%、就学生41.7%〉に符合しています。
  • ア.「どのようなことがあれば休まなかったと思うか」、イ.「学校に戻りやすいと思う対応」(実態調査)に対して、半数以上の子どもたち(アは小学生55.7%、中学生56.8%、イは小学生57.1%、中学生54.4%)が「特になし」と答えています。
  • 学校以外での学びの場である「教育支援センター(適応指導教室)」の利用は、小学生7283人(8.9%)、中学生17926人(10.1%)、小・中学生合わせて25209人(小・中学生の10.3%)です。
  • 民間団体、民間施設の利用は、小学生4021人(4.9%)、中学生5108人(3.1%)、小・中学生合わせて9129人(小・中学生の3.7%)です。

文科省の不登校施策の大きな柱である学校外の支援施設・機関③「(教育支援センター

(適応指導教室))」と④「民間団体、民間施設」を利用している子どもは、小・中学生34338人で全体の14.0%です。

文科省の不登校対策は、相談・支援体制と教育保障体制の整備が大きな柱ですが、これが施策の実情です。不登校対策は有効でないと言えるでしょう。 

(2)それでも続けるあの手この手(その場しのぎの対策)

 さらに、文科省が近年、特に力を入れている不登校特例校などについて見ておきましょう

夜間中学校や不登校特例校の設置は、近年、文科省が力を売れて進めている対策です。夜間中学校は、学び直しの場として、中学校を卒業した後も利用することができます。資料がなく、詳しくは説明できません。

不登校特例校は、不登校経験者を対象とした人たちが通える学校で、小学校、中学校、高校で、現在、全国で10自治体にあり、21校が指定されています。その内訳は、公立が12校、私立が9校です。2022年5月現在、小学校1校、中学校15校、高校3校、その他2校です。利用者数などの資料がありませんので、詳しいところはわかりません。(ちなみに、2016年1月時点で、小学校1校、中学校6校、高校2校あり、在籍者数は729人でした。中学校は9校、高校は1校増えているので、在籍者数も学校数に合わせて増えていると思えます。)

不登校特例校や夜間中学校は、設置に積極的な自治体や学校法人に集中しているようで、全国的に一般化していると言えるような状況ではないようです。

このほかに、学校以外の学びの場としてフリースクールがあります。2019(令和元)年の調査では、フリースクール252、親の会10、学習塾10、その他79、計351のフリースクールが存在しているそうです。(その他とは、特色ある教育を行う施設などを言うそうです)

また、教育委員会と連携している民間の団体や施設が351あります。2021年度の「問題行動等調査」によると、その利用者は、小学生4021人、中学生5108人で、合計9129人で、小学生の4.9%、中学生の3.1%、小・中学生の3.7%が利用していることがわかります。

夜間中学校、不登校特例校に力を入れている背景には、フリースクールなどの学校以外の学びの場を認め、広げようとした「教育機会確保法」で、その柱だったフリースクールが、自民党内の保守勢力の反対で認められなかったという事情があります。だから、文科省は、学校以外の学びの場を躍起になって探しているように映ります。

不登校の急増を受けて、2023年3月31日、文科大臣は緊急対策を打ち出しました。①端末を利用した早期発見 ②不登校特例校の設置 ③オンライン学習を内容とする不登校対策です。(しかし、これは、2022年6月に出した「不登校対策」のコピーでしかありません。)

そして、2023年8月26日、クラスの中に入れない子どもにも学校内の居場所や学習環境を確保することを狙いとして、「校内教育支援センター」を作るために、来年度予算案の概算要求に5億円を計上すると発表しました。

  • 情報通信技術の活用
  • 不登校特例校
  • 校内教育支援センター

これらが、現在、文科省が推し進めている不登校対策の柱です。果たして、不登校の子ど

もたちがどういう反応を示すのでしょう。

 「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」ということわざがありますが、ただ、むやみやたらにやってみても、不登校問題の本質が分からないでは、どんな手を打っても効果は期待できないでしょう。何よりも、不登校の子どもたちがせっかく声を上げたのに、聞こうともしない有識者・「協力者会議」に不登校問題の本質は理解できないでしょう。そして、まともな対策が考えられるはずもありません。

 また、不登校の子どもが30万人になったというのに、未だに子どもや親にその原因を押し付け、条件・環境整備もしないまま「学校以外の場で学んでもよい」というのは、荒海に赤子を放り出すようなものではないでしょうか。不登校の子どもを切り捨て、見捨てる教育政策が現在、進んでいると言えるでしょう。

 


不登校問題の真実 その4 第2章「子どもたちの声を無視した有識者会議」

2024-01-09 10:00:27 | 考察

第2章 子どもたちの声を無視した有識者会議

1.活かされなかった子どもたちの声

(1)子どもと先生ではちがう不登校の認識

   ・・文科省の二つの調査結果の乖離・・

“不登校は、子ども自身の「無気力・不安」「生活リズムの乱れ」や「親子の関わり方」、そして、「いじめを除く友人関係」など「本人」と「家庭・親子関係」にその主な要因がある。”これは、文科省が毎年行っている「問題行動等調査」から導き出される不登校の要因です。

 これに対して、“「先生との関係」や「いじめやいやがらせなどの友達関係」、そして、「勉強が分からない」ことが大きな原因やきっかけとなって不登校になった。” と示しているのは、これまた、文科省が実施した「実態調査」が示す不登校の要因です。

 「問題行動等調査」の回答者は先生です。一方、「実態調査」の回答者は不登校の子どもです。このように、先生と子どもでは、不登校の捉え方がまったく異なっています。

 

(2)二つの調査について

2020(令和2)年に設置された不登校対策を検討する文科省の有識者会議「不登校に関する調査研究協力者会議」(「協力者会議」と略す)に二つの調査結果が資料として提出されました。

 一つは、文科省が毎年行っている「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(「問題行動等調査」と略す)です。文科省の不登校対策は、この調査資料を基に考えられてきました。

 不登校に関する調査は、以前は「学校基本調査」に含まれていましたが、いつの間にか、「生徒指導上の諸課題に関する調査」の中に位置づけられ、現在は、「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」として行われています。(ちなみに、文科省は、「不登校は問題行動ではない」と言っていますが、実際は、生徒指導上の諸課題の中に位置付けているのです。)

 もう一つは、「協力者会議」に不登校当事者の声を反映させることを目的に、2020(令和)年に実施された「不登校に関する実態調査」(「実態調査」と略す)です。

「実態調査」は、不登校当事者の声を「協力者会議」に反映させるために、わざわざ、文科省が準備をして実施しました。調査は、2020(令和2)年当時に不登校だった小学6年生と中学3年生を対象に行われました。

 

(3)「協力者会議」で、「実態調査」はどのように扱われたか

第1章「なぜ、子どもたちは学校に行けなくなるのか」で明らかにしたように、これら二つの調査結果には大きな差異(乖離)があります。

このような乖離は、2001年と2011年に文科省が行った「不登校生徒に関する追跡調査」でも明らかになっていましたが、「協力者会議」に資料として出されたのは、今回が初めてです。

文科省のホームページから「協力者会議」の議事録を見ることができますので、興味のある方、詳しく知りたい方は、文科省のホームページを見てください。

「協力者会議」では、「問題行動等調査」と「実態調査」との乖離について、委員からの発言がありました。しかし、なぜか、座長が発言を引き取り、扱いを事務局と相談するとし、そして、次回の会議に事務局から乖離に関する説明がされています。しかし、会議のまとめとして出された報告書では、二つの調査結果の乖離について、わざわざ項を起こして説明(弁解)が行われています。不登校当事者の声を「協力者会議」に反映させるために行われた「実態調査」ですが、結局、「協力者会議」では議論されることはありませんでした。

議論もせずに、どうして、子どもたちの声を活かすことができるのでしょう。

 

2.文科省・「協力者会議」は乖離にどう向き合ったか

(1)乖離に対する「協力者会議」の報告書の説明

二つの調査の乖離について、「協力者会議」の報告書には次のように書かれています。

○ 「今回、不登校の要因・背景(実態調査では、『最初に(学校に)行きづらいと感じ始めたきっかけ』)について『令和二年度問題行動等調査』と『実態調査』の結果に乖離が見られた。」

 ○ 「教職員との関係をめぐる問題」(実態調査では『先生のこと』)や「学業不振」(実態調査では『勉強が分からない』)であった。」

 ○ 「実態調査において主たる要因でない可能性があるとはいえ、これらの点について学校が認識しているよりも多くの児童生徒が感じていることが明らかになった。」

 

 このことから、「協力者会議」は「教職員との関係をめぐる問題」や「学業不振」につい

て乖離があることを認めながら、「実態調査」に表れている要因を主要な要因でないと判断

していることが分かります。

さらに、乖離が生まれた原因を次のように分析しています。

○ 「問題行動等調査」は学校を対象とした悉皆調査で、主要な要因を一つ選択することとしている。

○ 「実態調査」は不登校児童生徒本人を対象とした抽出調査で、あてはまる要因を複数回答するものであるから、より幅広く回答された。

○  調査対象者数や調査手法等の違いによって差が出たものと考えられる。

 

要するに、一方は全員を対象にした悉皆調査で、主要な要因を1つ選択することになっている。もう一方は抽出調査で、あてはまる要因を複数回答するものであるから、より幅広く回答された。

調査対象や調査方法が違うから乖離が生じた。これが「協力者会議」の見解です。

確かに、「問題行動等調査」は、回答者が学校(先生)であり、学校基本調査と同じく、在籍児童生徒の状況を報告・回答することが義務付けられている全数調査(悉皆調査)です。そして、「実態調査」は、回答者は不登校当事者の子どもで、調査人数も限られた抽出調査です。

「実態調査」は、「対象者の令和元年度に不登校であった者のうち、学校又は教育支援センターに通所の実績のある者を対象とし、全く家から出られないような不登校児童生徒の状況等、全ての不登校児童生徒を反映した調査ではない点に留意する必要がある。」と報告書が指摘しているように、不登校者全員に対する調査ではなく、調査時点で調査可能な児童生徒に限られた抽出調査のようです。

しかし、抽出調査になったのは、不登校の子どもたち全員を対象にした調査を実施することが困難なため、調査可能な子どもたちを対象に実施せざるを得なかったからではないでしょうか。

文科省が不登校当事者を対象とした調査は今回が初めてではありません。過去、不登校の当事者を対象とした「追跡調査」を2回実施しています。それらの調査は、調査準備会を設け、入念に準備した上で実施されています。その時の調査結果も、今回と同じ傾向を示していますが、2回の「追跡調査」は、不登校の子どもたち全員を対象にした調査の困難さを教訓にしていたはずです。

文科省は、不登校当事者の認識が「問題行動等調査」との間に乖離のあることも全員を対象にした調査の困難さも知っていました。知った上で、「協力者会議」に「当事者の声を反映する」ためと称して、同じ方法で「実態調査を」を行ったのです。

調査対象、調査方法を理由に、「実態調査」に表れた子どもたちの思いを「主要な要因ではない」と言ったり、乖離の原因にしたりするのは、あまりにも不誠実ではないでしょうか。

もし、そのことを理由とするならば、より正確な子どもたちの声を知るために、改めて、不登校の子どもたち全員を対象とした調査を実施すればいいでしょう。

 

  • 乖離はなぜ生まれたのか

(ア)悉皆調査と抽出調査について

 悉皆調査は、「国勢調査」で用いられる方法であり、全体の実情が分かり誤差が生じにくいと言われています。他方、抽出調査は、「世論調査」に見られる方法であり、全体の傾向を知ることができると言われています。どちらも、調査方法として実績があり、定着しており、どちらも、調査目的に応じて活用できるものと言えます。

 今回の場合、どちらの調査も、不登校の要因やきっかけを知るために実施されたものであり、とりわけ、「実態調査」は、「協力者会議」に不登校当事者の声を反映させるために計画され、実施されたものです。

 二つの調査に乖離があるからと言って、子どもたちの声を会議に活かすことに、何ら差し障りはないないでしょう。乖離があればなおさら議論を深める契機になるでしょうし、有意義な議論ができるのではないでしょうか。

 

(イ)回答数が乖離を生み出したのか?

 「報告書」は、「問題行動等調査」は、主な要因を一つ選択」、「実態調査」は、あてはまる要因を複数回答するものであることから、より幅広く回答がされた」から、乖離が生じたとする見解を示しています。しかし、第一章の資料で分かる通り、「問題行動等調査」は主な要因のほかに「主要でない要因」についても調べています。その結果を合わせても、調査結果の集計には大きな変化は見られません。回答の仕方で乖離が生まれたと断じることはできません。

 

 (ウ)乖離はなぜ生まれたのか

調査対象、調査方法、回答の仕方などによって乖離が生じたとは言えないようです。では、なぜ、乖離が生じたのでしょうか。

考えられるのは、二つの調査の回答者です。設問に対してどのように答えるかは、回答者の認識が反映されます。回答者がちがえば、自ずから回答の内容も異なってきます。乖離がどうして生じたかは、回答者が異なるからではないでしょうか。「問題行動等調査」の回答者は学校の先生です。一方、「実態調査」の回答者は不登校当事者の子どもです。先生と子どもの認識の違いが、乖離として表れたのではないでしょうか。

 

(エ)乖離は単なる認識の違いか? 

「報告書」は、「実態調査において主たる要因でない可能性があるとはいえ、これらの点について学校が認識しているよりも多くの児童生徒が感じていることが明らかになった。」と言っている。はたして、乖離を単なる認識の違いで済ませていいのでしょうか。

不登校は、子どもたちに大きな負担を負わせています。とりわけ、自己肯定感の喪失は、子どもたちの発達・成長に大きな影響をもたらせている。それを取り戻すための苦しみは計り知れません。子どもと先生の認識の違い(乖離)は、「実態調査」に表れた子どもたちの思い、子どもたちの悲鳴が、先生に届いていないことを表していつのです。

よって、「二つの調査結果の乖離」とは、「問題行動等調査」が不登校の子どもたちの思いを反映していないことを意味しているのです。

「協力者会議」は、乖離を認識の違いとして済ませてしまいました。当事者の声を反映させるための調査に応え子どもたちがせっかく上げた声を「主たる要因でない」とさえ言っています。なぜ、率直に子どもたちの思いを受け止められないのか。

子どもたちの声を率直に受け止めればいいものを、受け取らないのにはそれなりの理由があるものと考えられます。子どもたちの声は、不登校の要因として「先生」「友達」「授業」を挙げています。「先生」「友達」「授業」とは、そもそも学校を構成している重要な要素で、学校そのものではないでしょうか。それらが不登校を生み出している要因だと子どもたちは言っているのです。つまり、学校そのものが不登校を生み出していると言ってもいいでしょう。

子どもたちの声を率直に受け止めれば、これまでの不登校に対する認識が覆ってしまいます。“不登校の要因は、主に子ども自身と家庭にある”という「問題行動等調査」に基づいた認識が崩れてしまいます。「問題行動等調査」は、文科省の不登校対策の基礎的な調査資料です。この調査を基に、不登校対策が考えられ、実施されてきました。そして、今、現在、「教育機会確保法」と新しい文科省通知を基に “不登校の子どもは、学校以外の場で学べばよい” とする新たな不登校対策が繰り広げられています。「実態調査」に表れた子どもたちの声を認めると、こうした対策の根拠が一気に崩れることになりかねません。

事実、「協力者会議」で、「実態調査」に表れた子どもたちの声が議論されることはありませんでした。

子どもたちの思いとかけ離れた調査結果を基に講じられる不登校対策が、本当に子どもたちの為になるのでしょうか。そして、不登校問題の真の解決につながっていくのでしょうか。不登校対策の妥当性が問われることでしょう。そして、「協力者会議」そのものの存在意義が問われることでしょう。

 

3.子どもたちが訴える不登校問題の真実

(1)子どもたちが指摘する不登校の三大要因

改めて、子どもたち声に耳を傾けましょう。

  ①「勉強が分からない」

  ②「先生のこと」

  ③「いじめ」

不登校の要因がさまざまある中で、これらが、子どもたちが言っている不登校になった主要な要因です。

 だとすれば、不登校をなくすには、これらのことを解決すればいいのではないでしょうか。

○誰もが分かる授業

○先生が子ども一人ひとりと向き合える学校

○たがいに認め合える子ども集団(学級・学校)

 どれも難しいことではなく、誰もが望む学校の姿ではないでしょうか。そして、どれも、先生たちのやりがいのある実践ではないでしょうか。子どもたちにとっても楽しい学校になることでしょう。

 子どもたちの声を素直に受け止めれば、不登校をなくし、不登校問題を解決する道すじが見えてくるでしょう。

 

(2)不登校問題は学校教育・教育政策によって起きている

なぜ、子どもたちが学校に行けなくなるのかを、二つの調査結果の乖離から考えてきました。

わが子が不登校になった時、多くの親は、自分たちの育て方が間違っていたのか、育て方に問題があったのか、と自問自答し、自分を責める場合が多々あります。また、みんな学校に行っているのに、自分だけ学校に行けないことに苦しむ子どもも多くいます。

文科省は、毎年、10月ごろに、「問題行動等調査」を発表します。テレビや新聞がそれを報道する時、文科省の報告を基に、不登校の主要な要因についても取り上げることがままあります。そのようなことを通して、不登校の主要な要因は子ども本人や家庭にあるという調査結果が広まっていきます。それが数十年も続いているのです。

不登校は本人や家庭の問題という認識が、世間一般の認識として広まっていっても不思議ではありません。

しかし、二つの調査の乖離を考えることを通して、不登校は、決して、子ども自身や家庭の課題で生じているものではなく、この国の学校教育・教育政策から生まれていること気付かれたことでしょう。

 

(3)なぜ、文科省・「協力者会議」は乖離に向き合えないのか

文科省は、過去二回、調査研究会を設置して同様の調査をしてきた実績があります。その際の調査結果も、今回の「実態調査」と同じ傾向を示していました。

二つの調査結果に乖離があることを承知の上で、は、文科省は「協力者会議」に不登校当事者の声を反映するために「実態調査」を行い、調査資料を提示しました。(第一章の調査資料参照)

 「協力者会議」でも、議論になることは予想できたと思われます。にもかかわらず、委員から乖離について指摘や意見が出ると、座長は、座長預かりとし事務局と相談するとしました。そして、次回の「協力者会議」で、乖離についての説明を行いました。

二つの調査に乖離があるからと言って、子どもたちの声を会議に活かすことに、何ら差し障りはないないはずです。。乖離があればなおさら議論を深める契機になるでしょうし、有意義な議論ができるのではないでしょうか。そうしないで、乖離があることが何か都合が悪いとでもいうように、議論を避けることは不登校対策を考える「協力者会議」の在り方としてどうでしょう。何か都合の悪いことでもあるのでしょうか。

文科省の不登校対策は、「問題行動等調査」を基に講じられてきました。「実態調査」は、「問題行動等調査」と大きくかけ離れ、真逆の結果を示しています。そのことは、これまでの不登校対策の根拠が崩れることを意味しています。(不登校対策については第3章で考えます。)

文科省、「協力者会議」が乖離にこだわり、「実態調査」を軽んじるのには、そうした背景があるのではないかと私には思えます。故に、子どもたちの声は活かされずに、捨て置かれてしまったのでしょう。

 

 

 

 


不登校問題の真実 その3 第1章の資料

2024-01-08 13:41:13 | 考察

【資  料】

資料1 不登校の要因(問題行動等調査.2022年)

小学生(不登校者 81,498人)

       

 

主たるもの

主たるもの以外

いじめ

245

0.3

108

0.1

いじめを除く友人関係をめぐる問題

5004

6.1

3030

3.7

教職員との関係をめぐる問題

1508

1.9

1194

1.5

学業の不振

2637

3.2

5518

6.8

進路に係る不安

160

0.2

319

0.4

クラブ活動・部活動への不適応

10

0

21

0

学校のきまり等をめぐる問題

537

0.7

629

0.9

入学・転編入学・進級時の不適応

1424

1.7

881

1.1

家庭の生活環境の急激な変化

2718

3.3

1655

2

親子の関わり方

10790

13.2

10601

13

家庭内の不和

1245

1.5

1536

1.9

生活リズムの乱れ・あそび・非行

10708

13.1

7986

9.8

無気力・不安

40518

49.7

8720

10.7

上記に該当なし

3994

4.9

***

**

 

中学生(不登校者 163,442人)

     

 

主たるもの

主たるもの以外

いじめ

271

0.2

125

0.1

いじめを除く友人関係

18737

11.5

7242

4.4

教職員との関係をめぐる問題

1467

0.9

1337

0.8

学業の不振

10122

6.2

12414

7.6

進路に係る不安

1414

0.9

2326

1.4

クラブ活動・部活動への不適応

843

0.5

1097

0.7

学校のきまり等をめぐる問題

1184

0.7

1214

0.7

入学・転編入学・進級時の不適応

6629

4.1

2630

1.6

家庭の生活環境の急激な変化

3739

2.3

2416

1.5

親子の関わり方

8922

5.5

10536

6.4

家庭内の不和

2829

1.7

3115

1.9

生活リズムの乱れ・あそび・非行

18041

11

10552

6.5

無気力・不安

81277

49.7

15046

9.2

上記に該当なし

7966

4.9

***

**

 

資料2 不登校の原因やきっかけ(実態調査.2020年)

小学6年生(713人)

 1.友達のこと(いやがらせやいじめがあった)

25.2

 2.友達のこと(1以外)

21.7

 3.先生のこと

29.7

 4.勉強が分からない

22

  5.部活動の問題

2.1

 6.学校のきまり等の問題

2.7

 7.入学・進級・転校して学級や学校に合わなかった

7.4

 8.1~7以外の理由で学校生活と合わなかった

13.3

 9.親のこと

6.7

10.親の学校に対する考え

1.3

11.家族関係

4.9

12.家族の世話や家事が忙しかった

1.1

13.身体の不調

26.5

14.生活リズムの乱れ

25.7

15.インターネット、ゲーム、動画視聴、SNS等の影響

18.1

16.学校を休んでいる人がいて影響を受けた

7.2

17.学校に行く意味が理解できず、行かなくてもいいと思った

13.6

18.その他

4.8

19.きっかけが何か自分でも分からない

25.5

20.特にきっかけはないと思う

2.2

21.無回答

2

 

中学3年生(1,303人)

 1.友達のこと(いやがらせやいじめがあった)

25.5

 2.友達のこと(1以外)

25.6

 3.先生のこと

27.5

 4.勉強が分からない

27.6

  5.部活動の問題

13.3

 6.学校のきまり等の問題

7.8

 7.入学・進級・転校して学級や学校に合わなかった

10

 8.1~7以外の理由で学校生活と合わなかった

12.3

 9.親のこと

8.9

10.親の学校に対する考え

1.8

11.家族関係

6.2

12.家族の世話や家事が忙しかった

1.2

13.身体の不調

32.6

14.生活リズムの乱れ

25.5

15.インターネット、ゲーム、動画視聴、SNS等の影響

17.3

16.学校を休んでいる人がいて影響を受けた

5.9

17.学校に行く意味が理解できず、行かなくてもいいと思った

14.6

18.その他

4.1

19.きっかけが何か自分でも分からない

22.9

20.特にきっかけはないと思う

1.5

21.無回答

1.9

 

資料3 不登校傾向にある子どもたちの実態調査(財団調査、2018年)

「不登校傾向にある子どもの実態調査」

 

調査対象の子どもの特徴(タイプ)

調査対象者は、12歳から15歳の6500人(有効回答は6450人)

1A

不登校

年間30日以上学校に行っていない

1B

不登校

1週間以上連続など一定程度学校に行っていない

2

教室外登校

保健室登校・図書室登校・校長室登校・校門登校など

3

部分登校

基本的に教室で過ごすが、授業に参加する時間が少ない

4

仮面登校A

教室で過ごすが、みんなと違うことをし、授業に参加する時間が少ない

5

仮面登校B

教室で過ごしているが、学校に行きたくない、学校が辛い、嫌

6

登校

学校に馴染んでいる

分類

1A・1Bを不登校。2~5を不登校傾向とし、2~4と5を分ける

回答の比率

 1A(3.1%)   1B(1.8%)    2~4(4.0%)    5(4.4%)    6(86.7%)

 

学校に行きたくない理由TOP10

 

タイプ1A・・・不登校

 

理   由

比率

1.朝起きられない

59.5%

2.疲れる

58.2%

3.学校に行こうとすると体調が悪くなる

52.9%

4.授業がよくわからない、ついていけない

49.9%

5.学校は居心地が悪い

46.1%

6.友達とうまくいかない

46.1%

7.自分でもよくわからない

44.0%

8.学校に行く意味が分からない

22.9%

9.先生とうまくいかない、頼れない

38.0%

10.  小学生の時と比べてよい成績が取れない

33.9%

 

タイプ1B ・・・不登校

 

理   由

比率

1.疲れる

38.2%

2.朝、起きられない

32.6%

3.自分でもよくわからない

31.0%

4.友達とうまくいかない

30.1%

5.授業がよくわからない、ついていけない

29.2%

6.小学生の時と比べてよい成績が取れない

28.9%

7.学校に行こうとすると体調が悪くなる

28.1%

8.学校は居心地が悪い

24.5%

9.先生とうまくいかない、頼れない

23.4%

10.  テストを受けたくない

23.2%

 

タイプ2~4・・・教室外登校・部分登校・仮面登校A

理   由

比率

1.疲れる

44.0%

2.朝、起きられない

35.6%

3.授業がよくわからない、ついていけない

33.3%

4.友達とうまくいかない

28.5%

5.小学校の時と比べてよい成績が取れない

27.1%

6.テストを受けたくない

27.0%

7.先生とうまくいかない、頼れない

26.1%

8.学校は居心地が悪い

25.9%

9.校則など学校の決まりが嫌だ

22.5%

10.  小学校の時と比べてつまらない

21.8%

 

 

 

 

タイプ5・・・・・仮面登校B

 

理   由

比率

1.疲れる

48.7%

2.朝、起きられない

32.2%

3.学校に行く意味が分からない

31.9%

4.学校は居心地が悪い

28.4%

5.テストを受けたくない

28.2%

6.小学生の時と比べてよい成績が取れない

27.8%

7.授業がよくわからない、ついていけない

27.3%

8.先生とうまくいかない、頼れない

26.1%

9.小学校の時と比べてつまらない

25.0%

10.  友達とうまくいかない

24.1%

 

資料4 不登校に関する実態調査(実態調査・文科省、2011年)

不登校に関する実態調査

平成18年度不登校児童生徒に関する追跡調査報告

調査の概要

*調査対象

  平成18(2006)年度に中学校第3学年に在籍し

  学校基本調査において不登校として継受された者

  41,043人

*調査時期

  平成23(2011)年から平成24(2012)年

*調査方法

  A調査・・在籍中学校に対する基礎調査     回答数・・28,388人 

  B調査・・対象者本人に対するアンケート調査  回答数・・・1,604人

  C調査・・対象者本人に対するインタビュー調査 回答数・・・・・379人

*次項の調査資料「不登校のきっかけ」は、B調査の集計表を基にして作成した。

*追記 文科省は、平成13(2001)年にも平成5((1993)年度の中学第3学

    年在籍者に対して同様の調査を実施している。

 

不登校のきっかけ

     

  全項目に対して総回答数は1,604、有効回答数は1,581であった。

 

  問 「あなたが学校を休みはじめた時のきっかけは何ですか。思いあたるものすべてに〇をつけてください。

選択肢

回答数

H18調査

H5調査

 

(人)

(%)

(%)

1.友人との関係

849

53.7

44.5

2.先生との関係

420

26.6

20.8

3.勉強が分からない

500

31.6

27.6

4.クラブや部活動の友人・先輩との関係

366

23.1

16.5

5.学校のきまり等の問題

161

10.2

9.8

6.入学、転校、進級して学級や学校に馴染めなかった

273

17.3

14.3

7.家族の生活環境の急激な変化

155

9.8

4.3

8.親との関係

288

14.4

11.3

9.家族の不和

160

10.1

7.5

10.  病気 

235

14.9

13.2

11   生活リズムの乱れ

548

34.7

12.  インターネットやメール、ゲーム等の影響

246

15.6

13.  その他

257

16.3

19.3

14.  とくに思い当たることはない

88

5.6

10.8

 

「選択肢」の具体例

 

選択肢

具体例

1.友人との関係

いやがらせやいじめ、けんかなど

2.先生との関係

先生がおこる、注意がうるさい、体罰など

3.勉強が分からない

授業がおもしろくない、成績がよくない、テストが嫌いなど

4.クラブや部活動の友人・先輩との関係

先輩からのいじめ、他の部員とうまくいかなかったなど

5.学校のきまり等の問題

学校の校則がきびしいなど

6.入学・転校進級して学校や学級に馴染めなかった

転校、進級した時の不適応

7.家族の生活環境の急激な変化

父親や母親の単身赴任、家族の別居、親の転職や失業などの経済的問題

8.親との関係

親がおこる、親の言葉や態度への反発、親との会話がほとんどないなど

9.家族の不和

両親の不和、祖父母と父母の不和など

10. 病気 

 

11. 生活リズムの乱れ

朝起きられないなど

12. インターネットやメール、ゲーム等の影響

一度始めると止められない、学校より楽しいなど

13. その他

 

14. とくに思いあたることはない

 

 

 


不登校問題の真実 その2 第1章「なぜ、子どもたちは学校に行けなくなるのか」

2024-01-08 13:33:08 | 考察

第1章 なぜ、子どもたちは学校に行けなくなるのか

 

1.資料で見る不登校の理由やきっかけ

 なぜ、子どもたちは学校に行かなくなったのか。なぜ、学校に行けなくなったのか。

まず、章末に掲載している資料1、資料4の「問題行動等調査」と「実態調査」の「不登校の要因」に目を通してください。

 

いかがでしたか。資料を見ただけで、子どもたちが学校に行けなくなるのには様々な理由があることに気付くでしょう。そして、学校に行けなくなった子どもたちの思いが伝わってくる来たのではないでしょうか。

また、二つの調査結果の違いにも気づかれたのではないでしょうか。

学校に行けない、行かない子どもたちが25万人近くいます(2021年)。こんなにたくさんの子どもたちが学校に行けなくなっています。

“ともだち たくさんできるかな” “べんきょう がんばるぞ” 胸躍らせ、ワクワクしながら小学校の入学式を迎えたはずの子どもたちが、どうして学校に行けなくなったのでしょう。いっしょに考えていきましょう。

 

2.子どもと先生では、不登校への認識がちがっている

(1)「問題行動等調査」

・・・不登校の子どもたちに対する先生たちの認識・・・

 「問題行動等調査」を見ると、子どもたちが不登校になるのは子ども自身にその原因があるようです。

小学生が不登校になる要因の第1位は「無気力・不安」(49.7%)です。また、「生活リズムの乱れ」も13.1%と大きな要因になっています。不登校の小学生の6割です。

小学生の不登校の要因の第3位は「親子の関わり方」(13.2%)です。その他、「家庭内の不和」や「家庭の生活環境の急激な変化」などを合わせると、「家庭」を要因とする不登校は23.0%を占めています。

これらを合わせると85.8%です。小学生の不登校のほとんどは、子ども自身と家庭を要因としていることが分かります。

中学生はどうでしょう。中学生の不登校の要因は、小学生と同様に、第1位は生徒の「無気力・不安」で、これも49.7%です。「生活リズムの乱れ」は11.0%で第3位です。これら二つを合わせると60.7%で、中学生も6割が本人自身に不登校の原因があることが分かります。また、「家庭」を要因とする不登校は9.5%です。これらを合わせると70.2%で、中学生の不登校も、本人と家庭を原因に起こっていることが分かります。

では、本人や家庭以外の要因はどうでしょう。小学生では、「いじめを除く友人関係をめぐる問題」(第4位で6.1%)と「学業の不振」(第6位で3.2%)が続きます。中学生では第1位の本人の「無気力・不安」の次に「いじめを除く友人関係をめぐる問題」(第2位、11.5%)、「学業の不振」(第3位、6.2%)が続きます。

友人関係というと、社会的にも問題となっている「いじめ」が思い浮かびますが、「問題行動等調査」を見るかぎり、小学生で106人(0.3%)、中学生で271人(0.2%)に過ぎず、ほとんど不登校の原因になっていません。また、「教職員との関係をめぐる問題」も、小学生で1.9%、中学生で0.8%です。

 「問題行動等調査」から分かることは、不登校のほとんどは、子ども自身と家庭、そして、いじめ以外の友達関係を原因として起こっているようです。。

“何事にもやる気が見られず、いつも何か心配事や不安を抱えていて、落ち着かない様子の子。遊びやゲームに夢中になったり、非行に走ったりして生活リズムを乱し、朝、起きられずに、学校を休みがちになる子。また、親に反抗したり、言うことを聞かなかったり、親子関係がうまく築けていない子ども。” そんな子どもたちが不登校になっていることが、「問題行動等調査」から分かります。

 

(2)「実態調査」

・・・不登校の子どもたちの認識・・・

次に、「実態調査」を見てみましょう。

「実態調査」は当てはまることがらを複数回答することが可能です。ですから、「不登校のきっかけ」も、当事者(子どもたち)の思いを反映してるのか、突出したことがらがない代わりに、多岐にわたっているようです。多い方から、挙げてみます。

小学生では、「先生のこと」29.7%。「身体の不調」26.5%。「生活リズムの乱れ」25.7%。「きっかけが自分でもよくわからない」25.5%。「友達のこと」(いやがらせやいじめ)25.2%。「勉強が分からない」22.0%。「友達のこと」(いじめ以外)21.7%と並びます。どれも20%以上を数えます。

中学生ではどうでしょう。中学生では、「身体の不調」32.6%。「勉強が分からない」27.6%。「先生のこと」27.5%。「友達のこと」(いじめ以外)25.6%。「「生活リズムの乱れ」25.5%。「友達のこと」(いじめ)25.5%。「きっかけが何か自分でもよくわからない」22.9%です。

小・中学生ともに、子どもたちが「先生のこと」、「勉強が分からない」、そして、「いじめやいやがらせ」を不登校の要因として挙げていることが分かります。

また、「身体の不調」や「きっかけが自分でもよく分からない」といったきっかけや原因がはっきりしないまま不登校になっている子どもたちが多くいることが「実態調査」から浮かび上がってきます。

“先生とうまくいかなかったから、先生が怖かったから、体罰があったから、学校へ行けなかった。” “授業がおもしろくない、勉強が分からない。だから、学校へ行くのが辛くなって、学校を休むようになった。” “友だちからいやがらせをされたり、いじめられたりするから、学校に行くのが嫌になった。”

さらに、“朝、起きられない。お母さんが起こしに来ても体が動かず、起きられない。”

“学校に行こうとすると、おなかが痛くなり、吐き気がしたり、体調が悪くなって休んでしまった。”

子どもたちのこのような様子が、「実態調査」から伝わってきます。

 

(3)相反する二つの調査結果

二つの調査から、子どもたちが学校に行けなくなる、あるいは行かなくなるのには、いろんな理由やきっかけがあることが分かります。「生活リズムの乱れ」は、どちらの調査でも不登校の主な要因に挙がっていますが、それ以外の要因では、二つの調査はまったく相反していることが分かります。

「問題行動等調査」では、不登校のほとんどは、子ども自身と家庭、そして、いじめ以外の友達関係を原因として起こっています。

しかし、「実態調査」では、「問題行動等調査」では大きな比率を示していた「無気力・不安」や「親のこと」、「家族関係」といった本人や家庭に関わる要因は、それほど高くありません。「実態調査」では、「本人」や「家庭」よりも「先生のこと」、「友達のこと」(いじめ)、「勉強が分からない」など「学校・学校生活」により大きな要因があることを示しています。

二つの調査は、ともに、不登校の要因を示していますが、調査対象や調査方法に違いがあるので単純比較はできません。しかし、結果が大きく違っていることは明確です。なぜ、このような違いが生まれたのでしょう。思いつくのは二つの調査の回答者です。「問題行動等調査」の回答者は学校(先生)です。それに対して「実態調査」の回答者は子ども自身です。

先生たちの目には、“不登校は、子ども自身と家庭にその主な要因がある。と映っているようです。しかし、子どもたちは、「先生のこと」、「友達のこと(いじめ)」、「勉強が分からない」など「学校・学校生活」に大きな要因があると感じている。この相反する認識が、二つの調査の違い(乖離)として表れたのでしょう。(このことについては第2章で考えます。)

 

3.学校に行けない子どもたちの思い

 「問題行動等調査」と「実態調査」では、結果に大きな食い違いが見られます。幸い、この二つの調査以外にも、子どもたちが学校に行けなくなる理由を調べた調査があります。民間の公益社団法人「日本財団」が実施した「財団調査」と文科省が「不登校に関する追跡調査研究会」を立ち上げ実施した「不登校に関する追跡調査」です。それらの調査も見てみましょう。

  • 財団調査と追跡調査から分かる子どもたちの思い
  • 財団調査

「財団調査」は、公益財団法人日本財団が2018(平成30)年に、中学生6500

人を対象に、不登校傾向にある子どもたちの学校に馴染めない原因、背景を知るために実施された調査です。

 調査の対象者は、12歳から15歳で中学生の年代の6500人です。不登校の子もいれば学校に馴染んでいる子どももいます。その中で不登校の子どもは318人、4.9%です。教室外登校や部分登校など不登校傾向の子どもたちも8.9%います。

 回答は、質問項目に対して当てはまることがらを選び、複数回答も可です。子どもたちの思いを幅広く捉えることができるのではないかと思えます。

 まずは、財団調査の概要と調査資料をご覧ください。(P13~P14)

  • 不登校の子どもたち(1A・1B)

「不登校」(1A)の子どもたちが挙げている不登校の原因や理由を比率の大きい順に並べてみると、次のようになります。

  • 「朝起きられない」(59.5%) 
  • 「疲れる」(58.2%) 
  • 「学校に行こうとすると体調が悪くなる」(52.9%) 
  • 「授業がよく分からない、ついていけない」(49.9%)
  • 「学校は居心地が悪い」(46.1%)
  • 「友達とうまくいかない」(46.1%)
  • 「先生とうまくいかない、頼れない」(38.0%)

 この調査結果を見てどう思われますか。「不登校」(1A)の子どもたちは、30日以上学校に行っていない子どもたちです。その子どもたちが挙げている不登校の原因や理由は、「問題行動等調査」とはかなりかけ離れています。むしろ、どちらかというと「実態調査」に近い傾向を示しています。  

  • 「朝起きられない」②「疲れる」は、「問題行動等調査」の「無気力・不安」、「生活

リズムの乱れ」に当たるのかと思えなくはありません。しかし、②「疲れる」は、「学校に行くと疲れる」の意味でしょう。また、③「学校に行こうとすると体調が悪くなる」は、不登校の初期に多くの子どもか経験することで、これは、学校へ「行かなければ」という気持と「行きたくない」という思いとの間での葛藤の極限状態で起こっているもので、自らの心身を護るための表れと言えるのではないでしょうか。病院に行くと「起立性調節障害」「自律神経失調症」などと診断される場合もあります。⑤「学校は居心地が悪い」(46.1%)と併せて考えると、学校に行くこと、学校に居ることが子どもにとって大きな精神的な負担になっているようです。

そして、④「授業がよく分からない、ついていけない」ことは、学校に行けなくなるほど子どもにとっては重要なことことなのです。

加えて「友達とうまくいかない」「先生とうまくいかない、頼れない」となれば、子どもたちにとって、学校が安心して居られるところではないということです。

次に、不登校(1B)を見ると、それぞれの要因の割合は20から30%台へと下がります。そして、順位は多少入れ替わっています。これは、不登校(1A)は、「30日以上学校に行っていない」(ほとんど学校に行けていない)子どもたちで、不登校(1B)は、「一定程度学校に行っていない」(ある程度は学校に行けている)子どもたちとの、いわば、不登校の程度の違いからくるのかもしれません。しかし、不登校の原因・や理由は同じ傾向にあります。

 「財団調査」は、不登校の子どもたちだけでなく、学校には行っているが「教室外登校」の子どもや、教室に入っているが学校が嫌、行きたくないと思っている不登校傾向にある子どもたちも調査の対象になっています。そうした子どもたち2~4(教室外登校・部分登校・仮面登校A)、5(仮面登校B)の学校に行きたくない原因や理由について見てみましょう。

 

  • 不登校傾向の子どもたち(2~4,5)

 不登校傾向の子どもたちは、教室には入れないが学校には行っている子、教室に入ってはいるが学校に行きたくない、学校が嫌だと感じている子どもたちです。

 「学校に行きたくない理由」は、先の不登校の子どもと同じ傾向を示しています。「疲れる」、「朝、起きられない」は上位にあります。「友達とうまくいかない」、「先生とうまくいかない」、「授業がよく分からない、ついていけない」も大きな理由の一つになっています。

 不登校傾向の子どもたちだけが挙げている理由に「小学校の時と比べて、つまらない」があります。中学校の状況を理解する上で、大事な視点かも知れません。また、1A以外の三つのタイプに挙がっている理由に「テストを受けたくない」があります。「小学校の時と比べてよい成績が取れない」と併せて成績の評価が子どもたちの負担になっていると思われます。

 「財団調査」からは、子どもたちが「学校に行きたくない理由」として、①「授業がよく分からない」②「友達とうまくいかない」③「先生とうまくいかない」ことの三つほかに、「学校は居心地が悪い」、「小学校の時と比べてつまらない」、「学校に行く意味が分からない」など、学校の在り方そのものが学校に行けなくなる理由になってることが分かります。

 

  • 追跡調査

次に、文科省が2001年と2011年に行った「追跡調査」を見てみましょう。200

1(平成13)年に1993(平成5)年度に中学3年生だった不登校生徒への追跡調査、2011(平成23)年には2006(平成18)年度に不登校だった不登校生徒への追跡調査を、調査研究会を設けて準備し実施しました。

この調査は、先に見た文科省が2020年に行った「実態調査」と同じような内容の調査

ですが、不登校のきっかけ、理由の項目に「体調の不調」が入っていません。また、2001年の調査には「生活リズムの乱れ」が入っていません。比較する場合にはこの点に留意する必要があります。

二回の「追跡調査」の結果は「実態調査」と同じような傾向を示していることが分かりま

す。比較するために「実態調査」も中学三年生のものを使ってみました。次のようになります。

 

質問項目

実態調査

H18追跡調査

H5追跡調査

友達との関係

51,0%

53.7%

44,5%

勉強が分からない

27,6%

31,6%

27,6%

先生との関係

27,5%

26,6%

20,8%

生活リズムの乱れ

25,5%

34,7%

 

 

 

 

 

 

このように「追跡調査」からも「実態調査」同様に、「友達との関係」が不登校の理由の最も大きな割合を占めていることが分かります。また、「勉強が分からない」、「先生との関係」も不登校の要因になっていることが分かります。

 不登校の当事者を対象とした調査である「実態調査」と「追跡調査」は、その対象が少し異なっていますが、ほぼ10年の間隔で三回実施されています。それは、30年間の不登校の要因の推移が分かる資料であると言えます。そこから分かることは、「友達との関係」「勉強が分からない」「先生との関係」が、不登校の主要な要因だということです。

 

4.だれでも不登校になる可能性がある

これまで、「問題行動等調査」、「実態調査」、「財団調査」、「追跡調査」の四つの調査について見てきました。

子どもたちが不登校になるのには、さまざまな理由、きっかけがあることが分かります。そして、子どもたち一人ひとりに、その子なりの理由やきっかけがあります。。

それも、決して、特別な理由やきっかけではなく、ごく身近な、日常的なことがらがきっかけや理由になっているようです。勉強が分からないから、学校に行けなくなることがあるのです。友達から嫌がらせをされるから学校に行きたくないと思うことだってあるのです。先生が怖いから学校に行けなくなる子もいるのです。「生活リズムの乱れ」、「体調の不調」、「朝起きられないなど」、「環境の変化」など、誰もが経験したことがあるようなことを原因やきっかけにして、多くの子どもたちが不登校になっているのです。

「財団調査」よると、多くの子(86.7%)が学校に馴染めているようです。しかし、少なくない子どもたち(13.3%)が、学校に馴染めていません。学校に行けていない不登校の子どもたち(4.9%)のほかに、学校に行っていても教室に入れない子、教室に入っていても心ここにあらずという子、学校に行きたくないという子(8.4%)という子もいます。

「不登校については、特定の子どもに特有の問題があることによって起こることではなく、どの子にも起こりうる」と、かつて文科省が言ったように、だれがいつ不登校になってもおかしくない状況に子どもたちが置かれているということが、四つの調査から分かります。

ただ、「問題行動等調査」と他の三つの調査では調査結果について大きな違い(乖離)があります。

「問題行動等調査」では、子どもの「無気力・不安」、「生活リズムの乱れ」、「親子の関わり方」、「いじめを除く友人関係」など、「本人」や「家庭・親子関係」に不登校の主要な要因となっています。

一方、他の三つの調査では、「先生との関係」「いじめ・いやがらせなどの友達関係」、「勉強が分からない」などが不登校の大きな原因きっかけになっています。

子どもに「やる気がないから」、「親子関係がうまくいっていないから」不登校になったというのが「問題行動等調査」で、「先生が怖いから」、「いじめがあるから」、「勉強が分からないから」不登校になったというのがその他の調査です。

「問題行動等調査」は文科省の不登校対策の基になっている調査ですので、この違い(乖離)は気がかりです。この点については、第3章で考えたいと思います。