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【サッカー】W杯予選最終章短評&W杯有力国分析(3)~イングランド

2005-11-16 22:46:18 | スポーツ
約2年にわたる長く過酷なW杯予選がようやく終了し、出場国が出揃った。プレーオフの全ての試合を観ることはできなかったが、まずは一番印象が強かった1試合の短評を。

☆トルコ-スイス(4-2でトルコ勝利、しかし1戦目スイスが2-0で勝っており、アウェーゴールによりスイスが本戦出場決定)
・・・W杯の本戦は、半ば「お祭り」の側面もある。だから出れるかどうかの瀬戸際で争う予選の方が激しい試合になって見ごたえがあることもままあるのだが、この試合は正にそんな試合だった。

イスタンブールのスタジアムの雰囲気は、一言で言えば「異様」だった。スイスの選手が入国した時から「地獄へようこそ」のバナーが出たり選手の乗ったバスに卵が投げつけられるなど、試合前からただでは済まない雰囲気が漂っていた。

そんな中キックオフした試合は、開始直後あっけない形でいきなり動く。アルパイがPA内でハンドを犯し、主審は迷わずPKの笛。フレイが難なく決めてスイスが先制。スイスのアウェーゴールにより、いきなりトルコは4点が必要という窮地に立たされる。
その先制点の効果もあったのか、激しい観客のプレッシャーの中で、スイスの選手は冷静に試合を進める。しかし1戦目のホームの時と違い、全体的に運動量が少なめ、特に守備でのプレスが1戦目よりは明らかに甘く、25分にFKからではあったがエムレのクロスにトゥンジャイが飛び込んで遂にPOで初めてスイスから点を奪う。

この試合のスイスは堅く守るよりも常に攻撃にもある程度人数を割いており、それは同点になってからも変わらない。すると38分、この日左サイドで優位を保っていたエルギュンのクロスからハカン・シュクルが折り返し再びトゥンジャイが頭で押し込む。前半は2-1で終えたが、雰囲気は明らかに一変する。

その一変した雰囲気がそのまま後半にも表れ、52分、押し込まれだしたスイスはシュトレラーがたまらずセルハトをPA内で倒してしまい今度はトルコにPK。ネジャティが落ち着いて決め、この時点で3-1と遂にトルコは「後1点」の状況まで戻す。

押し込み続けるトルコの状況を見て、テリム監督も70分に1人、80分過ぎに2人選手を変え勝負に出る。しかし、トルコの選手にも段々疲労の色が濃くなり、それまでラインを高く上げ踏ん張っていたDFラインがついに83分に決定的なミス。右SBのトルガがCBのアルパイに戻し損ねたボールをシュトレラーがかっさらいそのままGKを交わし体勢を崩しながらもゴール。スタジアムは静まり返る。

89分にトゥンジャイがハットトリックを決めるも、時既に遅し。トルコは圧倒的不利から「後1点」まで行きながら、最後は自分達のミスで徳俵で踏ん張りきれなかった。一方スイスは、アウェーでもあり疲労もあり1戦目に比べれば出来は決して良くなかったが、最後まで気の抜けたプレーは殆どなかった。
ほんの僅かの集中の差が天国と地獄を分けたW杯予選POらしい、凄い試合だったと思う。「素晴らしい、いい試合だった」とは言えないのは、試合終了後、選手の乱闘があってスイスの選手が怪我をして病院行きになったからだ。「それぐらいギリギリの戦い」であるのは分かるが、スポーツである以上何でもアリではやはりない。その点だけは残念だった。


さて、ここからはW杯有力国、(1)イタリア(2)アルゼンチン、ブラジルに引き続き、今回はイングランドを見ていこうと思う。

サッカーの母国イングランドも、W杯では優勝から遠ざかって久しい。最後にイングランドが優勝したのは1966年の地元でのW杯で、それ以来、ベスト4でさえも、90年のイタリア大会一度だけである。

で、その最後の優勝から40年経つ来年のドイツ大会、プレミアリーグのオールドファンでもなければイングランドを優勝候補に推すのはなかなか難しいところではあり、私自身も、ベスト4or8候補には十分あっても優勝となるとちょっと厳しいとは思う。
ただ、短期間の大会は必ずしも実力通りに結果が並ぶ訳ではないし、「ポテンシャル」については、ブラジルアルゼンチンオランダフランスイタリアなどの強豪と比べても現在のイングランドはひけは決して取っていない。

というのも、プレミアの自国リーグだけでなくCLでも活躍しているチェルシー、アーセナル、マンU、リバプールなどの強豪クラブにおいても、「中心選手」としてイングランドの選手がしっかりいるからだ。具体的に挙げれば、テリー、ランパード、As・コール、ルーニー、R・ファーディナンド、キャラガー、ジェラードなどだ。

何よりイングランドにとって心強い、逆に他国から見て軽視できないのは、今挙げたテリー、R・ファーディナンド、キャラガーなど、DFに世界屈指&年齢的にも脂が乗っている選手が何人もいることである。勿論チームとしてのディフェンスユニットを考えると、いい選手を並べればそれで磐石ということにはならないが、あくまで個人の能力とその選手層という点では、イングランドは間違いなくDFに関しては現在世界No.1と言ってもいい。カテナチオを誇るイタリアの方が最近は若手DFの伸び悩みが目立つ。

一番のネックだったGKも、最近はスパーズのロビンソンが安定した活躍を見せており、不安は随分解消された。だから、イングランドはこの強力な守備陣がきちんと機能すれば「地味に」勝ち進んでいく可能性もあるってことだ。

じゃぁ何故イングランドを優勝候補に推しづらいかというと、主に3点ほど要因がある。一つはFW不足、一つはスタメンの選択・組み合わせの難しさ、一つはサッカースタイルだ。順番に説明しよう。

まずFW不足だが、これは「得点力不足」という意味ではない。中盤にはランパードやジェラードやベッカムがいるから、ミドルシュートなり飛び道具=FKなりで中盤の選手だけでそれなりに点は取れる。ただ、FWの層となるとやっぱりちょっと薄いと言わざるを得ない。

怪我さえなければ必ず選ばれるオーウェンも、マドリーでは全く目立つことなくニューカッスルで最近ようやく調子を取り戻しつつあるが昔の「ワンダーボーイ」の頃のフォームにはまだ戻ってるとは言い難いし、ルーニーも破壊力は十分に持っているが、所属のマンUでは最近は自分で点を取るよりもアシストで目立つことの方が多い。
デフォーはまだ「超一流」と呼べるほどの結果は出せていないし、クラウチは2m超えるだけにポストとしては期待は持てるが線が細過ぎてまだ自分でガンガンヘッドを決めれるような強さはない。今シーズン序盤に目立っていたD・ベントも若手として期待は持てるが、国際舞台での経験はほぼないに等しいので、今シーズンリーグで活躍できたとしてもドイツでは疑問符がつく。
やはりもう何年も、プレミアリーグではFWはファン・ニステルローイやアンリを始めとして外国人の活躍が目立っていたし今もそうなので、FWに関してはどうしてもちょっと評価が下がるということだ。

次にスタメンの選択・組み合わせの難しさだが、これは、層が分厚過ぎるから、或いは皆どんぐりの背比べだから難しいということではない。
既に挙げたランパード、ジェラード、ベッカムという駒がイングランドの選手層の中では突出しているが故に彼らを選ばざるを得ず、彼ら3人プラスアルファで中盤を構成させるとバランスが取りづらいという難しさである。

3点めに挙げた「サッカースタイル」の問題とも絡むので合わせて説明するが、イングランドのサッカーは自国リーグでも代表でも一言で表現すれば非常に「直線的で硬派」だ。シンプルで分かり易いと言ってもいい。
ボールをキープしながらとかトリッキーな個人技・パスを使いながらって発想は殆どない。攻撃の時はボールをとにかくどんどん前に送りたがるし(サイドを使わないという意味ではない)、ボールも大きく動くが選手もかなり走る。

だから、選手もそのスタイルに合わせた選手が出てき易くなる。ランパードもジェラードもベッカムも、ロングパスとミドルシュートを得意にし、運動量が多く、ベッカムはクロス専門だがランパードもジェラードもチャンスとなれば前線にどんどん飛び込んでくる。
彼らも勿論守備時には守備もきちんとこなすが、例えばイタリアやアルゼンチンのように、「守備専門」=DHの選手はイングランドには殆どいない。イングランドのMFは、攻守両面で動く「CH」ばかりである。だから、ピルロやシャビのような低い位置からのゲームメーカーも少ないし、トッティやリケルメやロナウジーニョのような「ファンタジスタ」もいない。

オールラウンダーだがスペシャリストが少ないってのがイングランドのMFの特徴で、別にそれはちっともマイナス面ではないのだが、ただ、特にランパード、ジェラード、ベッカムという3人について言うと、守備よりは攻撃で光る3人なだけに、ちょっとバランスが難しくなるってことなのだ。

ってとこで、そろそろフォーメーションを2つほど。

(選手の並びは右から)

《案(1)/ベース》
(4-4-2)
☆GK:ロビンソン
☆DF:G・ネビル、R・ファーディナンド、テリー、As・コール
☆MF:ベッカム、ジェラード、ランパード、SW・フィリップス
☆FW:オーウェン、ルーニー

・・・SW・フィリップス以外は現実的にもっとも可能性が高い布陣である。SW・フィリップスを選んだ理由は、右サイドのベッカムがクロス専門で個人の突破力がないため、逆サイドは彼とは真逆のタイプの方がバランスが取れるかなと思ったから。ただ、これでもちょっと攻撃指向が強い布陣に思える。

《案(2)/バランス(守備)重視型》
(3-4-2-1)
☆GK:ロビンソン
☆DF:キング、テリー、キャラガー
☆MF(4):ジェラード、R・ファーディナンド、ランパード、As・コール
☆MF(2):ルーニー、J・コール
☆FW:オーウェン

・・・個人的に最も試して欲しい布陣がこれである。FKはジェラードもランパードもルーニーも蹴れるし、クロスの精度が良くてもイングランドで大きな代表FWは今クラウチしかいないので、ベッカムは却下してみた(笑)。イングランドでは珍しい部類に入る「トップ下」が可能な稀有の2人ルーニーとJ・コールを活かし、手薄なFWのアシストをさせる、加えて同じく手薄なDHの役割をR・ファーディナンドのコンバートでカバーさせるのが眼目。サイドを少々破られても、後ろにデカいのが3人控えていればそう簡単には失点しないだろう。