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「先送り」には当たり前だが限度がある

2006-10-11 22:53:23 | 社会
(このエントリーは10/23に書かれたものです)

今更・・というかこの期に及んでってところだが、北朝鮮が核実験を行ったのはどうやら間違いはないようなので(最初のうちは皆様もご存知の通り爆発・地震波の規模が小さくてブラフ説も飛んでいましたね)、そろそろ雑感でも書いてみようかと思う。


まぁ核実験後の事態の推移は、概ね誰にとっても「想定の範囲内」だろう。
国連安保理決議は結局、中露の意向は反映されて国連憲章第七章を取り入れはしたものの四十ニ条の軍事的制裁は含まれず四十一条の非軍事的措置に留まり、臨検についても各国の裁量に委ねられる形になった。安保理決議採択後は、関係主要国間の閣僚官僚の会談、会談、会談だ。

日本政府が独自に北朝鮮籍を有する者の入国の原則禁止・北朝鮮籍船舶の全面入港禁止・北朝鮮産の全品目輸入禁止などの半年間の追加制裁措置を決めたことも十分予想されることだった。
ただ国内で一つ「予想外」だったのは、"与党"自民党の中川昭一政調会長が日本の核保有・武装論議の必要性を突然言い出して、外からだけなく身内からも批判を食らったにも関わらずまだ実質主張をひっこめていないこと、だろうか。

(*これは本稿のテーマから外れるので余談になるが、中川政調会長の発言は、冷戦下に米ソの間に存在した相互確証破壊(=Mutual Assured Destruction、所謂MAD理論(*注1))の考え方が一応根底にあるんだろうと素人考えからは思われる。

但し、インドやパキスタンも核を持ちイランも北朝鮮も開発を進め更にテロの懸念が世界各地である今の時代にこの考え方が有効かどうかは、仮に日本が核を持ち得たとしても甚だ疑わしい。核の数が結果的に増えてしまうことは、テロリストにその核が流れてしまう危険性も増大させるからだ。
そもそも、核兵器のみならず劣化ウラン弾の「汚い爆弾」や生物兵器・化学兵器などは、余りにも与える被害が甚大で戦争の兵器というより単なる破滅の兵器でしかなく、どうあれ減らす・なくすべきものではないだろうか?)


さて、話を北朝鮮に戻すが、日本の核保有の是非を問うた時に是と言えるリクツはあるのかもしれないが、少なくとも、北朝鮮が核実験をして核ミサイルを打ち込まれるおそれがあるから日本も核を持つべきだという論理は「違う」。

何故なら、言うまでもないことだが北朝鮮は普通の「国家」ではなく、そもそも実態は国家とすら呼べないからで、すなわち、北朝鮮という特殊過ぎる例外に他の国相手のようなリクツを当て嵌めるのは意味がないのである。

北朝鮮は、独裁者がいて、その独裁者の意に沿った政府と軍部がある(軍部は既に統括しきれてない可能性はあるが)、ただそれだけの国だ。外から見れば、一応国と国とが話をする外交チャネルはあって国家に見えないこともないが、肝心の「民」は中心にはいない。
独裁国家であっても、周辺諸国との関係が良好で中の国民が平穏無事に暮らせているのであればそれはそれで一つの国の形だが(別に21世紀の現代でも徳の高い「王」や「天子」が国をきちんと治めることができているなら問題はない)、独裁国家のくせに大量の餓死者を出したり国から逃げ出す民がいる時点で国家とは呼べないのだ。

国を治めるための政府、自国民の生命と財産を守るための軍ではなく、北朝鮮の場合は国民とは全く乖離して政府と軍があって、乖離している(+先軍政治)からこそ「仮想敵国」をいつまでも保ち続けなくてはいけないなんてことにもなる。

無論、国際法上朝鮮戦争は「休戦」で未だに「終結」していないので、その意味でも軍の存在意義は朝鮮戦争の当事者たる北朝鮮にはある。
ただそれは今となっては机上のリクツに過ぎず、とりあえず資本主義と共産主義のイデオロギー対決は20世紀中に終わっている訳で、現実には朝鮮戦争当時北朝鮮を支援していたソ連は崩壊し、参戦した中国も文化大革命以降、天安門事件という暗部を晒しつつも現在は十二分にアジアの大国として立ち直っている。北朝鮮だけが時代の潮流から取り残されて今も「亡霊」状態でいる。


北朝鮮を「亡霊-生霊-」にしてしまったのは中国とロシア(ソ連)だが、歴史を遡っていけば、当然韓国もアメリカも日本も原因には深く関係している。日本が第二次大戦で敗北しなかったり、或いは日韓併合を行ったりしていなければ朝鮮はこのようには分裂していなかっただろう。(もっと遡れば帝国主義の下アジアの植民地化を進めていたイギリスやフランスなどだって無関係ではない)
その点では、北朝鮮-現在の北朝鮮の体制を作った金日成もそれを受け継いだ金正日も「被害者」とは言える。ただ、被害者であろうとなかろうと、「生霊」にしてしまった以上はどこかで成仏させてやらなければならない。(*「成仏」の表現は「生霊」という比喩をした流れで使っているだけで、「終わらせる」以上の意味はない)

終わらせる必要性があるのは、しつこいが、中の人民がまともに暮らせていないからだ。北朝鮮の政府と軍が核開発を進めようと進めまいと関係各国がそれに制裁を加えようと加えまいと、どのみち多くの民衆の生活は厳しいことには変わりない。
このままこういう硬直化した状態をズルズル先延ばしを続けることは、ただ金正日か軍かが暴発して核ミサイルを作って撃ってしまうリスクを上げるだけで誰にとっても何のメリットもない。

繰り返すが、今の北朝鮮にとって、「仮想敵国」はあっても実質的な「戦争をすべき」敵国はいない。北朝鮮の国土や資源を積極的に戦争しかけてまで欲しがる国はないし、逆に北朝鮮がどこかに攻め込もうものなら現状最終的には返り討ちに遭うだけだ。でも北朝鮮は、今の体制(朝鮮戦争休戦後維持してきた体制)では振り上げた拳を下ろすことができないのだ。

だからこそ、関係国・周辺国は、できるだけ早くこの体制を終わらせて、まず飢餓や暴力で苦しんでいる北朝鮮人民を救う必要と責任がある。

本来はもっと早くその責任を全うする手段を講じなければいけなかったが、韓国も中国もロシアも日本も難民の流入は困るからと結局先送りにして核実験までさせてしまう破目になった。
北朝鮮の「ズルズル」の先のステップは、「核実験を再度行い成功させる」→「核をミサイル弾頭に詰める」→「発射する」しか残っていない。周辺国・関係国の対処や制裁は、そのスピードをちょっと早めるか遅らせるかの効果しかない。北朝鮮がクーデターでも起きて内部崩壊するか金正日が急死するかでもしない限り「戦時」体勢は続くんだからそうなるしかないのだ。
(だから日本が核を持っても、北朝鮮に対して抑止力になる可能性は殆どないから、日本が敢えて核を持つ意味はない。中国やロシアに対しても、既に中国やロシアは日本の国土くらいは容易に消滅させられるだけの数の核を持っているから、現実的に抑止力にするのは無理だ)


分かりきってることを長々と繰り返し書いたけれども、北朝鮮にまつわる話は本来シンプルな話で、各国の国益からして「動き辛い」が延々と続いているだけだ。
ただ動き辛いを言い続けているうちに両足は泥沼から抜けなくなっており、ハードランディングへのタイムリミットはもう幾許もない。まぁその認識があるから限定空爆とか金正日暗殺計画などの話も何度も出てくるんだろう。

改めて言うが、「北朝鮮と戦争を始めましょう」ではない。「形骸化している北朝鮮の戦時体制を終わらせて中の民衆を救う手段を考えて実行すべき」ってことだ。