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日々触れる情報から様々なことを考え、その共有・一般化を図る

「虚々実々」だからこその面白さ

2006-07-27 22:20:22 | 社会
朝、起きていつものように何気なくTVのリモコンを付けたら、某局のめ○ましTVで(当然この伏せ方は冗談な訳だが)、「(携帯電話の)通話中の相手の声から、相手の自分に対する気持ちを分析する新サービス」の紹介をやっていた。

ちょっと調べてみたら、それは「キモチ分析トーク」というサービスで、一つの携帯でもう一つ電話番号が持てる「セカバン」サービスを行っているブリーズウェイという会社が、そのセカバンのオプションサービスとして始めたもののようだ。

ちなみに、上のリンク先の「セカバン」の紹介ページもそこから見れる「キモチ分析トーク」の紹介ページも、どちらも見易いけれども、鮮明過ぎる写真や図解及びその使い方、またサービスについての解説が意外に大雑把な点などは、悪い喩えをすれば一見巷に溢れるアヤしい出会い系サイトのようでちょっと頂けない。

で、「キモチ分析トーク」の詳細は、FujiSankei Business iのニュースの方にあった。
そこから引用すると、要は、このサービスを介して意中の相手に電話をすると、
《会話の後、相手の集中力を示す「ハマリ度」、信頼の程度を示す「期待度」、不快感を示す「おじゃま度」、愛情の度合いを示す「ラブラブ度」に分けて、それぞれ200~250字程度で分析結果が自分の端末にメールされる。 》
ってことだ。(この説明はめ○ましの方でもされていたと思う。「思う」というのは音声は切っていて映像だけ眺めていたからだ)


この「キモチ分析トーク」はイスラエルの音声技術会社のソフトウェアを使用している・軍でも尋問などの際に使用されているものを民生用にしたもののようで、そういえば以前「トラスター」というウソ発見器が話題になったことがあったから、より性能はアップしてるんだろうがそれと同じようなものなんだろう。

面白いですねぇと言ってしまえばそれまでだが、正直、私はこれをTVで見た時不快の念を禁じえず、また同時に萎えた。
勿論、このサービスはまだ始まったばかりで流行るかどうかは分からないし、流行ったところで一過性のブームで終わる可能性もある。ただ、仮に流行ってしまったなら、挙句定着してしまったなら世も末だなとは思う。

何故ならば。
まず第一にこのサービスは機械的な解析処理で自動で行われる。その気持ちを測る分析の基準がどうなっているのかは知らないが、そもそも人の声質、そして声の大きさ・抑揚・ピッチなどの韻律(プロソディ)も、それらの個人差は想像以上にある筈だ。私なんかは地声が低く聞き取りづらい上に電話などだと感情的な変化が何もなくても早口になって吃音にもしばしばなる。吃音が出ると更にその後修正しようとしてペースが乱れる。

或いは、それこそ俳優やアナウンサー、対面の客商売などの職種の人間なら、気持ちを反映させない声のコントロールは得意だ。
そういった個人差までフレキシブルに機械が対応できるとは考えられず、したがっていくら《会話中の発生音声に141項目もの解析処理》を施したところで、精度としては「そこそこ」にしかなりようがない。軍や警察でそれなりに有用なのは、あくまで話をする側と聞き出す側のポジション・状況が限定的だからだろう。日常で一般の人間同士が尋問を行うケースなんてのはそう頻繁にある訳ではない。

もし「そこそこ=参考程度」であるなら、わざわざこのサービスを使うまでもなく、相手の気持ちを知りたいなら自分が相手の声・会話を集中して聞けばいいだけの話である。初めて話をする相手でもなければ、少なくとも「今行っている会話」に対しての相手の意識・気持ちは、ある程度は感じ取れるものだ。
だから、精度性能という面で、消費者の「必要」を満たすだけのものがあるのかというのが一つ目の理由。


そして、上の段で「今行っている会話」とわざわざ括弧付きにしたのが二つ目の理由になる。
すなわち、会話での声を分析して気持ちを測るという発想が認められるものにしても、一回の会話につき、話している相手への気持ちが表れている量は常に一定していないだろうって話だ。

好意を持っている相手からの電話で、その時疲れてもおらず時間に余裕があったとしても、それでも無理に話したくない時なんてのは(特に男性は)ある。或いは、そういう状況で話をするのに乗り気だったとしても、例えば電話に出てみたら相手のテンションがやけに高くて急に自分の気持ちが下がった、或いは相手に近況などを聞かれ、相手に悪気はないのは分かるが自分の余り触れて欲しくない部分に触れられて急に話を続ける気が失せた、なんてこともあるだろう。

逆もしかりで、最初は渋々だったけれども相手の喋った話題が面白くていつの間にか夢中になってた、なんてことも当然ある訳で、要するに「声に表れる"その時"の会話への熱中度」と、それとは別に相手に対して抱いている自分の気持ちは、きちんとリンクして且つ比例しているとは限らないと思うのだ。

勿論、「キモチ分析トーク」のサービスも、利用者が対象一人に対して一回限りの使用ではなく最低数度は使用することを前提としているんだろうが、何度も試して平均値を測るなら結局第一の理由で述べたのと同様に、別にそれなら自分の脳味噌使ってやりゃぁいいじゃんってことにもなってしまう。


それなら、この「キモチ分析トーク」の分析の精度がとんでもなく高くなって、一回分析しただけで、これまで述べたような不確定要素も全て修正できて相手の「本心」を一寸の狂いもなくしかも仔細に読み取れるようになったとしたら、どうだろう?(利用者は可能ならそこまで求める人は多い筈だ)

そうなると、それはそれで新たに問題が出てくる。
このサービスは、利用者が使いたい対象の相手には、当然ながら事前には絶対に知らされることはない。(事後は、結果が良ければ利用者がバラすことは恋人同士などであれば有り得るだろうが)

つまり、使われる側の身になってみれば、分析機器の精度が上がれば上がるほど「勝手に心の中を覗かれる」ことになる。恋人として付き合ってる相手などから知らないうちに探偵雇われて身辺調査素行調査されるよりも、これはある意味プライバシー権の侵害にあたるとも実質的には考えられるのではないだろうか?

今のところ、「プライバシー」が法の枠内で扱えるものとしては、人格追求権を除けば、大体は所謂「個人情報」=データとして捉えられるものばかりだろう。しかし、心中をズバズバ読み取ってしまう・言い当ててしまう妖怪のサトリのような機械が出てきてしまえば(元々分析が「当たっている」ことを客観的に証明するのは難しいと思うのでかなり極端な仮定なのは承知の上だが)、プライバシーも何もあったものではなく社会は混乱を来たす可能性は高い。話している言葉の意味・価値が更に軽くなるからだ。


ただでさえ発言・言葉の重みが失われ、一方で情報も好奇心も不必要なほど肥大して「神」も容易に否定されてしまう今の時代、これ以上「心」というパンドラの箱-が大袈裟であればブラックボックス-まで開けるようなツールが登場していいんだろうか?

私自身は普通に携帯すら覗かれるのが嫌だし、逆に自分もどんな間柄であろうと人の携帯は覗かない、覗きたいとも全く思わない人間なので、こういうツールを使って相手の気持ち(本心)を知りたいともやっぱり思わない。

そもそも、心だって一定ではない訳で、好意と限定してもその形状や振幅は相手と接する中で揺れ動くもんなんじゃないだろうか?
であるなら一時点での本心を垣間見たところで余り意味はないし、もし見えたものが無関心や悪意や嫌悪などの負の心であるなら不要に傷つくだけだ。

そりゃ私だって恋愛に限らず「仲良くしたい」相手がいた場合、今後の自分の接し方付き合い方を模索する意味で相手の気持ちを知りたい時はある。
ただ、そういう場合でも、私は相手の言葉やパラ言語や行動など自分が目に見えるものしか判断・推測材料にしないし、それでいいと思っている。極端なことを言えば、「ウソの笑顔」でも私は一向に構わない。本当にイヤなら態度に出すだろうし、演技をする気さえなくなるだろうからだ。(勿論イヤだというサインが出ているのに見抜けない時はこちらに落ち度があるが)

ウソだろうとホントだろうと、相手の演技が上手ければスマイルはスマイルなのであって、それを詮索するのは野暮ってもんじゃないだろうか。
大体、相手の本心がそう易々と見えてしまっては、「駆け引き」もなくなってしまう。恋愛にしろ勝負事にしろ、面倒だけど駆け引きがあるから面白いのである。