「あ、嬉しい。おじさまは、何時も、しんせつだから好きだわ、弱っちゃった、また好きになっちゃった、あたいって誰でもすぐ好きになるんだもん、好きにならないように気をつけていながら、ほんのちょっとの間にすきになるんだもの。此間ね、あたいのお友達が男の人に、一日じゅうお手紙を書いていたわ、人が好きになるということは愉しいことのなかでも、一等愉しいことでございます。人が人を好きになることほど、うれしいという言葉が突きとめられることがございません、好きという扉を何枚ひらいて行っても、それは好きで作り上げられている、お家のようなものなんです、と、そのかたの文章がうまくて、後のほうでしめくくりをこんなふうにつけてありました。わたくし旅行先でお菓子を沢山買って、それを旅館に持ってかえって眺めていると、誰が最初にお菓子を作ることを考えたのでしょうと、そんな莫迦みたいなことも書いてございました。」
「そうかい、人間では一等お臀というものが美しいんだよ、お臀に夕映えがあたってそれがだんだん消えて行く景色なんて、とても世界じゅうをさがして見ても、そんな温和しい不滅の景色はないな(後略)」
3歳の金魚(人間でいうと二十歳ぐらい)と一緒に暮らす老作家の話。
『密のあわれ』室生犀星
「そうかい、人間では一等お臀というものが美しいんだよ、お臀に夕映えがあたってそれがだんだん消えて行く景色なんて、とても世界じゅうをさがして見ても、そんな温和しい不滅の景色はないな(後略)」
3歳の金魚(人間でいうと二十歳ぐらい)と一緒に暮らす老作家の話。
『密のあわれ』室生犀星