はまあるきの東屋

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生物進化の謎と感染症

2016-01-17 20:53:36 | 読書


生物進化の謎と感染症
(NHKカルチャーラジオ・科学と人間)
吉川康弘著
NHK出版
2015年
905円+税

 私にとって、とても解りやすく、大変為になった本を紹介させて戴きます。

生物の進化と共に、生体防御システムも進化してきたという話です。
 たとえば、インフルエンザウィルスに感染した時の生体防御反応をみると、
「ウィルスが上部気道の上皮細胞に感染すると、レクチン系などが活性化し、
炎症性サイトカインが産生され・・・(ここまでなら、環形動物、ミミズのレベルぐらい)。
さらにインスルエンザウィルスのRNAはTLR(細胞表面などのトール様受容体)で
認識されてインターフェロンの産生が起こり、NK(ナチュラルキラー)細胞が
活性化されます(円口類、ヤツメウナギぐらい)。
 ウィルスの増殖が続くと、下部気道の肺胞マクロファージなどが感染し、
ヘルパーT細胞が細胞性(T細胞、B細胞)免疫と液性免疫を誘導します(魚類から哺乳類)。」

 色々な感染症が今もこんなに発生しているのかと、驚きました。
 ここでは、私は主に感染者数と致死率(特に高いもの)に注目して
少しこの本を紹介させて戴きます。
① 狂犬病は日本では何十年も発生していません。しかし、世界中(特にアジアとアフリカ)で
発生していて、狂犬病による死者は年間6万人といわれています。
発症すると致死率はほぼ100%です。人に媒介する動物はアジアとアフリカでは犬ですが、
北米では、主にコウモリとアライグマ、南米では吸血コウモリ、ヨーロッパではキツネです。
② WHOの報告では、1980年~1994年の15年間で、ペスト患者は約2万人、
死者は約2千人です。マダガスカルでは、2012年に319人がペストに感染し、
75人が死亡しています。致死率は約10%。
③ 「腎症候性出血熱」(HFRS)のウィルスは野生齧歯類が保有し、致死率は約10%です
中国では毎年4~6万人規模で発生しており、全世界では15~20万人ほどだと推測されています。
④ ラッサ熱は西アフリカの風土病で毎年数十万人が感染しています。
致死率は15~20%。ラッサウィルス(アレナウィルス)の自然宿主は
西アフリカのヤワゲネズミです。
⑤ 20014年3月にギニアで確認された、エボラ出血熱は、
2016年1月に収束宣言がされるまで、約2万人が感染し、約1万人が死亡しました。
エボラウィルスの自然宿主はコウモリで、サルから伝染することもあります。
致死率は約50%です。
⑥ SARS(重症急性呼吸症候群)は2002年中国広東省で発生し、
2003年7月に制圧宣言がされるまでに、約8000人が感染し、約770人が死亡し、
致死率は約10%でした。SARSコロナウィルスはハクビシンから発見されましたが、
自然宿主はキクガシラコウモリとされています。
⑦ MERS(中東呼吸症候群)が2012年サウジアラビアで初発例がでました。
2015年6月のWHOの報告では累計患者数は1289人、死亡者は455人で、
致死率は35%でした。MERSコロナウィルスはラクダでも検出されましたが、 
自然宿主は食虫コウモリと考えられています。