短詩集 「太古という未来」

俳句・短歌・川柳に次ぐ第四の短詩型文学として Maricot Tairaquas

水平に動くエレベーター

2008-01-29 11:20:15 | 2N世代

 まっすぐ立ってドアが開くのを待つ。それは決まって午後6時を少し過ぎた時のことだ。あるいは2階まではやや長いめのエスカレーターで、あとの5階をエレベーター(それは2つ並んでいる場合と5つの場合とがある。あるいは場所が異なるために2つのトコロと5つのトコロがあるのかも知れないし、また横に並んだ数によって場所を自ら変えているのかもしれない。それはエレベーターの勝手であって、私の関知するところではないが)で2+5階まで行く。それはおそらく午後6時以前に私がその場にいる時だ。

「閉」のボタンを押して私は一人で「移動」する。あるいは沢山の顔と移動するのだろうけれど、・・・とにかく気づくのは西梅田駅気付の売店でした初めての牛乳ビンの立ち飲みと、おつりを待つ手に感じる他人の時間の長さと、その背後を通過する人たちの生活の足音と、犯罪のないうしろめたさと、以前改札口で感じた神戸に到る秘密飛行の二人だけの色彩と、もうすっかりダメになってしまった彼女との関係と、日本で5番目の総合商社入社の彼の話と、日本で3番目のスーパーマーケットのひとつのある場所の「近く」に住む彼の話と、日本でX番目の大学と、東大受験中止の年の京大生薫クンとの出会いと、"Where are you going?"ではじまった「夜」と、中を開けたら空っぽだった彼女のカンズメと、カカオフィズに流れる喘息頓服と大阪駅前第一ビルのケッタイな薬局と、その上のレストラン田舎と点心と、その下のJOJOとその上の、ああその上の・・・。飛行機が飛んでるだけじゃないか! おっこちた。

チラリと流し目を送った。それが合図だったのだけれど、今日のエレベーターにも「窓」がない。物理学実験では足元の感覚と、数式と震える詩人たちの指と、行き先不明の彼の友人と、足元をすくわれ首をくくっている誰かさんのイメージ。夜の京都を歩くグレーのセーター。ラーメン持ち抱えてパリ大に留学した男。サッカーから転身した男。アメリカンフットボールから転身した男。マルクスを捨てた男。私は何も捨てないのだけれど、「窓」のない私を囲むエレベーターだけが、どうしたわけか、水平に動いているのだった。