シーマン飼育19日目

リハから帰宅するや否や、取扱説明書を一から読み直す。
『餌が無くなった時の対処法』そんなもん載ってるわけないのだが、
んもう藁にもすがる思いで探してみると・・・あった。
『お友達と餌を交換してみよう』
ぬぇぇぇ!?
『VM(ヴィジュアルメモリ)同士を接続すれば、餌の受け渡しが可能』
しょへぇぇぇ!?
VMというのは、ドリキャスのコントローラーに取り付ける小さな記憶装置
のことだ。ゲームの進行具合をセーブしておくものなので、
シーマンに関して言えば、VMは云わば『育成日誌』にあたる。
わしが書いているこの日記のように、シーマンの成長過程や交わした会話の内容、
水槽環境から世話の内容・時間に至るまで、全てにわたって詳細に記録されている
わけだ。もちろんそこには『餌の在庫状況』も記録されているわけだから、
VM同士を繋いで餌の受け渡しが可能なのは理解できる。
餌満タンのVM1→餌空っぽのVM2へ=VM2満タンでうほうほ。
理解はできる。できるがしかし、『お友達と交換』って・・・
2004年の今、他に誰がシーマンをやっていると言うのだ!?(泣)
そんな馬鹿いるわけないじゃないかぁぁぁ(泣)
・・・ぬ?待てよ?わしが購入したシーマンセットには、VMがもう一つ
オマケで付いていたではないか。・・・ということは。
その新しいVMを使って、自分で別のシーマンを育てて餌も一杯にして、
お腹を空かせて待っているヒロミとお蝶夫人の現VMに、餌をどっかり
送り込んであげればよいのではないか!
そうと決まったら善は急げだ。まずはコントローラーから引っこ抜いた
現VMと、新VMを並べ、取説に従ってボタンをあちこちいじってみる。
が、反応なし。どうやら電池切れな模様。泣きながらコンビニに走る。
ここから長い一夜が始まるが、すでに午前3時だったりする。


買ってきた電池をセットして準備完了。どうでもいい話だが、ボタン電池
というのは高いものなのだな。全部で千円以上した。飼い主のわしは50円
のベビースターで喜んで生きているというのに、シーマンの餌が千円とは。
そんなことはどうでもよい。新VMをセットして、どきどきしつつ電源ON。
現VMにはヒロミとお蝶夫人の生活記録が保存されているが、この新VMには
これから全く別の新しいシーマンの生活記録が保存されていくというわけだ。
約20日前にスタートした事を、餌GETの為だけにイチからやり直す。
懐かしい画面、懐かしい卵、巻貝、懐かしい精子たち・・・そして。
あった!餌の保管器に、11個の固形餌。魚時代にシーマンが食べていたものだ。
カエルになったシーマンが果たしてこの魚用エサを食べるかどうか分からないが、
駄目モトでやってみるしかない。一旦電源を切って、VM同士を接続。
新VMから現VMへ、餌を送り込む。これで現保管器が満タンになったはずだ。
現VMをセットして電源ON。保管器を見ると・・・ぬぉぉぉ。
ちゃんと入ってる!すごいぞ!すごいぞヴィジュアルメモリ!ヴィジュアルって
付くと何でもお化粧顔の軟弱なイメージがしちゃうけど、やるじゃないか
ヴィジュアルメモリ!
さっそく水槽に固形餌を投入してみる。ぼちゃん、と水中に沈んでゆく餌。
『腹へったー』『餓死するぞおーい』ヒロミとお蝶夫人は一向に食べる気配なし。
試しにもう一つ投入・・・変化なし。ぬぉぉぉシーマンよ。やはり芋虫か蛾しか
食べないというのか!?そうなんだな!?っちゅうことはだよ、3/9にスタート
してから初めて虫カゴが登場する3/14までの6日分の流れを、新VMでもう一度
繰り返せということなのだな!?
む、6日分の世話をもう一度初めから・・・。よ、よかろう。
その覚悟はででで、できているさ。←できてない
それにだよ、まだ重要な問題があるではないか。
これから頑張って世話して、6日後に無事芋虫が誕生するとしてもだよ、
その頃にはヒロミとお蝶夫人って・・・すでに餓死してないか?
ぬぉぉぉ。どうしたらいいのだぁぁぁ。


考えに考えた。こんなに脳味噌使ったのは大学受験以来だろう。
我ながら素晴らしい名案が浮かんだ。名付けて
ドリキャス本体の時計を進めてしまおう大作戦
今まで2週間かけてちまちまやっていた事を短時間で一気に進行させてしまおう
というわけだ。『世話して保存して終了→日付を1日進めて再起動』これを
数回繰り返せば、あっという間にシーマン達は成長していき、虫カゴ内では
芋虫達が増殖していくはずだ。反則技だがやむを得ない。ヒロミとお蝶夫人の
命が懸かっているのだ。さっそく新VMをセットして作戦開始。最初はちゃっちゃっ
と世話だけしてどんどん進めてしまうつもりだったのだが、せっかく生まれてきた
のに言葉を交わさないのも可哀想だと思い、挨拶したりオヤジギャグ聞かされたり
しながらやっているので、結構時間がかかる。が、新たな発見も沢山あった。
普段はきちんと聞いていた冒頭のナレーションを、時間短縮のため話の途中で
スキップすることにしたら、いい気持ちで喋ってるのを中断されて悔しいのか
『うぇっへんおっほん』と咳をしたり『おーっとぅ』『あぁハハァン』などと
言いつつフェードアウトする、という事実も初めて発見した。
なんだか申し訳ない気分だが、時間が無いのでやむを得まい。どんどん進めた。
芋虫4匹&蛾4匹まで餌を増やし終わったところで終了し、やっとVM同士を接続して
餌の受け渡し完了。ドリキャスの日付を元に戻し、ついに作戦終了。
ハヒィー。もう午前6時になってしまった。
待たせたな、ヒロミ&お蝶夫人。
頼むから餓死してないでくれ、と祈りつつ電源を入れる。


『餓死するってばよー』『飼い主としての義務を(以下略』
いつも通りのヒロミとお蝶夫人のブーイングが聞こえてきた。
ぬぉぉぉ。生きてた。間に合ってよかったぁぁぁ(泣)
さっそく蛾を2匹水槽に入れると、あっという間に平らげてしまった。お腹が
膨れたらご機嫌も直った様で、また何やかやとオヤジギャグを飛ばしてくる。
ハァァァ本当によかったよ(泣)苦労した甲斐があったなぁ、としみじみ眺めて
いたら、わざわざこちらにお尻を向けて、ぷりぷりぷり、とンコしやがった。
やっぱり飢え死にさせればよかったな、とちょっと後悔した。
そして保管器の蛾と芋虫たちを虫カゴに移動させ、繁殖の準備をしておく。
もう2度と餌不足にならないよう、どんどん卵を産んでおいてもらわないとな。
画面を水槽に切り替えると、またジャンプ大会が始まった。いつも通り、岩に
よじ登ったヒロミ。タイミングを計って声をかけてやる。『ジャンプ!』
ぬぉぉぉ!と、届いた!天井から下がってる吊り輪に手が届いたぞ!
ぶら下がったヒロミの重さで、吊り輪がスルスルスルと降りてくる。すると。
幕が下りるかのように、水槽奥のガラスがゴゴゴゴと音を立てて開いていった。
その奥には、緑が鬱蒼と生い茂るジャングルが広がっていた。
ぺたん、ぺたん、と跳ねてジャングルに出て行くヒロミとお蝶夫人。
『ずいぶん長い間、この瞬間を待っていた気がする。長い長い歴史の中で』
ゆっくり深呼吸しながら、シーマンは語り続ける。
『この匂い。この星に文明が生まれてから、日々消えつつあるこの木々の匂い。
 ここがどこだか分かるか?ガゼーの島だ。
 この島の中には、俺達が進化できる環境が用意されてるんだ。
 ・・・もう俺は行くぞ。もっと進化しなけりゃならないからな。
 お前、悪い奴じゃなかったよ。俺はお前が好きだったよ。
 俺をここまで育ててくれたんだもんな』
このへんから涙で滲んで画面がぼやけて、もうよく見えていない。
『飲食関係、3●才。仕事頑張れよな。
 旦那によろしくな。おやじさんによろしくな。おふくろさんによろしくな』
うん、うん、ヒック。分かったヒック。よろしくヒック、言っておくよヒック。
『最後にさ、お前にプレゼントがあるんだ。
 お前が俺を呼ぶ時、いつもやってたアレ。ガラスをタンタンタン、って叩いて
 ただろ、アレだよ。俺に会いたくなったら、この場所でアレをやってくれ。
 タンタンタンってな。そしたら俺はいつでも会いに来てやるから。
 約束するよ。それがプレゼントだ。じゃぁな』
そう言い残すと、2匹は仲良く並んで、ぺたん、ぺたん、と
ゆっくり森の奥へと消えて行った。
ぺたん、ぺたん。
鳥の声がこだまするジャングルの彼方へ。
ぺたん、ぺたん。
ぬぉぉぉぉ!ヒロミィィィィ!お蝶夫じィィィィン!
行かないでェェェェ!
絶叫しながらガラスを連打するわし。タンタンタン、どころではない。
ンダダダダダダダダンダダダダダ!ガラスが割れんばかりの勢いだ。
涙で顔ぐしゃぐしゃ鼻水ずーずーでワケの分からない言葉を叫びつつ
コントローラーのボタンをひたすら押しまくる3●才。
すると、ガラスを叩く音に合わせてタンバリンがシャンシャンシャンと
鳴り出した。タンタンタン。シャンシャンシャン。そして遠くから
ジャングルクロベエちっくな、ウラウラタムタムビートも聞こえてきた。
だんだん大きくなってくるそのビートの中に、ぺたん、ぺたん、という
あの音が混ざっている。シーマンが近づいて来ているのだ!
ぺたん、ぺたん。ヒロミとお蝶夫人だ!ハァハァハァ。
会いに来てくれたんだ!ハァハァハァ。
シ『呼んだー?』
マ『う、うん』←涙で声が詰まってる
シ『で、なに?』
マ『こここんばんは』←興奮してどもってる
シ『ハァ?』
マ『こ・ん・ば・ん・は』
シ『それを言うなら「おはようございます」だろ?
  挨拶くらいちゃんとしろよ。もう朝だぞ、お前』
マ『・・・』
涙の再会シーンでそう来るかよ、おい(怒)
しかも夜が明けちゃったのは誰のせいだと思ってるんだ、アァン!?

あーた達の餌を必死で育ててたからじゃないかぁぁぁ(怒)
人がどれだけ苦労したか知りもしないで、この相変わらずの憎たらしさよ。
キーーー悔しいィッとハンカチを噛みながら見ていると、しばらく辺りを
飛び跳ね回っていた2匹は、また仲良く並んでぺったん、ぺったん、と
ジャングルの奥へと帰って行った。
その背中に、『元気でねェェェ』『仲良く暮らすんだよォォォ』
『幸せになってねェェェェ』と、泣きながら叫んだ。マイクを通さずに。
しかしきっと、奴らの胸にはわしの声が届いたに違いないと思っている。
幸せにね、シーマン。
ありがと、シーマン。
さよなら、シーマン。
さよなら。
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