思う・学ぶ・発達支援 心のケア サイト

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「受容と共感」だけでは失敗する

2018年12月07日 | 教育
 問題を抱えた生徒のカウンセリングの基本は「受容と共感」である。これは,教育
相談のベースとなっている。
 しかし,発達障害がある場合,この「受容と共感だけでは失敗する」と京都ノート
ルダム女子大学教授の藤川洋子氏はいう。藤川氏は現職に就く前,家庭裁判所調査官
として大阪,京都,東京など各地で勤務して様々な子どもたちと面談にあたった。そ
して発達障害の一つであるアスペルガー障害に着目し,少年非行との関連で研究報告
をした人物である。
 その講話等を基に,非行のメカニズムと発達障害のある子の適切な対応について述
べたい。

1 非行のメカニズム

非行(問題行動)のメカニズムは次の3つの要因からなる。

 ①器質的要因
 ②心理的要因
 ③社会・文化的要因

①器質的要因とは,生物・医学レベルの問題である。生まれながらに脳の器質的な障
 害がある場合であり,発達障害はこれに当たる。

②心理的要因は育つ過程で心理的外傷体験を負った場合である。いじめ,虐待による
 感じ方の変化,そして情緒障害に陥った場合がこれに当たる。

③社会・文化的要因は家族,学校,地域の人間関係から問題行動が形成されていった
 場合である。

 これまでは②と③から説明されることが多かった。しかし,近年①についての科学
的解明が進み,「わかりにくい」とされてきた少年に新たな視点が加わった。

2 発達障害と本人・親の傷つき

 以下,陥る典型的な経過である。

○PDD(広汎性発達障害)
「場違い」「常識外れ」なことをして,いじめの対象になる。
○ADHD(注意欠陥多動性障害)
「落ち着きがない」「何度も同じ間違いをする」ため叱られ続ける。
         ↓
 親のしつけ不足,愛情不足と決めつけられやすい(烙印を押されやすい)
         ↓
 無力感,対人不信感が強まる
(本人・親とも)

3 適切な対応の社会的必要性

 かなり重い事件で,発達障害の診断が下りた事件がこれまで多数起きている。

 東京家裁でのPDD(広汎性発達障害)約50例の研究では以下に分類される。

①対人関係型 
 ※ 男の子が女の子に問題行動を起こす。スキルがないために起こる。
②実験(人体実験・物理実験)型
 ※ 異物を飲ませる等し,徐々に弱る姿を観察の例。
③パニック(フラッシュバック)型
 ※ 知覚過敏,感覚過敏等の要因。
④清算(損失補填を請求する)型
 ※ しつこく以前のことを追求する等。
⑤その他,障害起因型
 ※ 作り話等。

 その特質から犯罪が引き起こされる事実が分かる。しかし,障害があっても,通
常と同じく判決が下される例が多くなってきた。

 発達障害があるからこそ悪いことをさせない

 この決意が我々教師に,また関係するものに必然である。

4 適切な対応

 藤川氏は「受容と共感」だけでは失敗するという。なぜか。それは,問題行動を
起こしたとき「受容と共感」だけでは,もう一度問題を繰り返してしまうからだ。
次に起きたときには,取り返しのつかない現実となってしまう。少年院等に処置さ
れているうち,発達障害,知的障害を含む割合は7割とも報告される。したがって
対応は次のようなになる。

・受容と共感だけでなく受け止めた後事実を伝え,正しい行動を教える。
・非行に対しては,特別扱いや臨機応変の扱いをせず,一貫性のある毅然とした正
 しい方向付けをした対応を行う。

 成長の初期に発達障害の子どもたちと出会う教師の責務は重大である。

 ※ 参考文献
  ・藤川洋子著「非行は語る」新潮選書
  ・藤川洋子著「少年犯罪の深層」ちくま新書
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神の芸術

2018年12月07日 | 励み言葉/癒し言葉
夕暮れ時に,山の斜面を照らす光
空の雲間から斜めに差し込む光
自然は本当に美しい。
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障害の本質に合わせた指導が子どもを救う

2018年12月07日 | 教育
 体が大きくなり,思春期を迎えた自閉症の生徒。パニックになると,3人がかりで
対応しなければならなかった。
 4月。その子を担任することとなった。その子を含めた6名を2人で担任するが,
組んでいる先生は年配の女教師である。力で抑え込むわけにはいかない。技術的な対
応が急務となった。

1 本質を捉える

 世界的に広く用いられるDSM-Ⅳ(精神障害の診断と統計マニュアル)で自閉症の診
断等について最初に出てくる言葉である。このことを理解せずに指導は始まらないと
も言われる。DSM-Ⅴとなった今でも,その本質は変わらない。
 これは発達に合わせた能力の獲得がまちまちということである。単純な知的障害の
場合,10歳の年齢で,7歳の精神発達段階にあれば,7歳以下のことがすべて獲得
している。
 しかし,自閉症の場合,10歳の発達年齢で,7歳の発達段階にあっても,7歳以
下のことがすべてできるとは限らない。10歳のことも一部できている場合もあれば
3歳4歳のことができていない場合もある。発達が不規則なのである。そのことを
理解せずに指導に当たると,「なんでこんなこともできないのか」という頭ごなしの
指導に陥ってしまう。
 質的な障害のため,できないところも本質的にあるという受け止めが必要である。

 「アンとサリーの課題」という心の理論の課題がある。日常の中で,普通,常識的
に考える思考パターンが,自閉症の場合,まったく違う捕らえ方をしてしまうという
ものである。したがって,気持ちを理解するということが,きわめて難しいといわれ
る。
 たとえば,問題行動を起こしたとき「おそらくこのように思ってやったのだろう」
と推測して,「だめでしょう」と叱っても,まったくの思い違いで叱ってしまうと
いうことが起こり,ますます問題行動をエスカレートさせてしまうことにつながる。
 気持ちの理解から始まり,指導に当たろうとすると,本人も周りの人も,つかれき
ってしまうことにつながるのである。

2 本質にあわせた指導を行う

<4月の対応>


「必要以上に叱らない」

自閉症の子は,気持ちの理解は難しいが,怒っている,喜んでいるといった感情は敏
感に感じ取る。叱られていると,なぜ叱られているかが伝わっていかず,怒りの感情
のみがどんどん蓄積していき,パニックにつながるのである。「それはだめです,×
です。」と極めて短い言葉で注意するか,「にらむ」くらいの低刺激で「だめ」とい
うことを伝えるほうが効果的である。

「よい行動を具体的にほめる」

 やはり,叱られて育ってきている。悪いイメージの自分が大きい。よいイメージの
自分を作っていくために,よい行動をしたとき,しようとしたときには具体的な事柄
を挙げてほめることが気持ちの安定にもつながる。

「視覚的に伝える」

パニックになったときに,言葉でいくら注意してもなかなか伝わらない。ましてや,
感情的になって叱ると,さらにパニックはエスカレートする。そのような場合,黒板
のところに連れて行き,今しなければならないことを,箇条書きにして伝えたり,い
けない行動を一つ一つ×をつけながら確認することをする。一目で分かる,また刺激の
少ない伝え方をするのである。

「リーダーとしての役割を与える」

 これはリーダーでなくてもよい。その子に責任ある役割を,毎日のパターンでもい
いので,できるだけたくさん持たせる。それは本人の安定ばかりでなく,周りの大人
が,その子をほめるチャンスにもつながる。

<家庭で荒れたときの対応>

 このときには,家庭でのよい行動,してはいけない行動を本人と確認し,○と×を
つけての箇条書きを作って本人が掲示した。その日以来荒れが収まった。
 2月の後半,新学年を前にして,また荒れた。そのときにも,「構造化,明確化」
を取り入れ,対応の建て直しを図った。

自閉症の本質を認識し,その子に伝わる分かりやすい対応が必要である。

感情に任せた力ずくの対応はその子をさらにだめにしていく。
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