内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/04/03

2022-04-03 22:29:40 | 日記
悪性リンパ腫の診断と治療についての総説
Am Fam Physician 2020; 101: 34-41

悪性リンパ腫はリンパ球の悪性新生物であり、90 のサブタイプがある。悪性リンパ腫は伝統的に大きくホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分けられている。タバコと肥満は修正可能なリスク因子である。

悪性リンパ腫は典型的には疼痛をともなわないリンパ節腫大を呈する。進行すると、発熱、原因不明の体重減少、盗汗などの全身症状を認める。

診断のためには開創リンパ節生検 (open lymph node biopsy) が好まれる。症状と PET/CT で調べた病変の広がりに基づいてルガノ分類 (Lugano classification) でステージを決定する。

化学療法のレジメンはサブタイプによって異なる。ホジキンリンパ腫は CHOP (cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, predonisolone) 、または CHOP に rituximab (R-CHOP)、bendamustine、または lemalidomide を追加したレジメンで治療する。

一方、非ホジキンリンパ腫は ABVD (doxorubicin, bleomycin, vinblastin, dacarbazine)、Stanford V (mechlorethamine, doxorubicine, vinalastine, vincristine, bleomycin, etoposide, psedonisolone) または BEACOPP (bleomycin, etoposide, doxorubicin, cyclophosphamide, vincristine, procarbazine, predonisolone) に放射線治療を併用して治療する。

化学療法の副作用としては、神経障害、心毒性、肺がんや乳がんなどの二次性のがんがある。どの化学療法のレジメンを選択するかは患者とともに決めることが重要である。寛解導入できたら、合併症と再発のスクリーニングを行う。悪性リンパ腫の患者は免疫不全なので、一般的な予防医療としての推奨とは別に、まず13価肺炎球菌ワクチン(プレベナー13) を接種し、その後、23価肺炎球菌ワクチン (ニューモバックス NP) を接種するべきである。直近で肺炎球菌ワクチンを接種していた場合は、最低 8週間間隔を空けて接種する。家族がワクチン接種できているかを確認することも重要である。

1. 疫学

米国の 2019年の統計によると、年間 82000人の悪性リンパ腫の新規発症があり、悪性新生物の新規発症の 4.7% を占める。悪性リンパ腫による死亡は 21000人と推定され、全悪性新生物による死亡の 3.5%を占める。

現在の 5年生存率は非ホジキンリンパ腫で 72%、ホジキンリンパ腫で 86.6%である。

非ホジキンリンパ腫の罹患率は男性および白人で多く、年齢とともに増加する。非ホジキンリンパ腫の診断時の年齢の中央値は 67歳で、死亡時の年齢の中央値は 76歳である。ホジキンリンパ腫は 20-34歳で診断されることが多いが、死亡時の年齢の中央値は 68歳と高齢である。これは若い人では生存率が高いためである。

2. 危険因子

遺伝、感染、炎症は悪性リンパ腫の発症リスクである。

1親等内の家族歴は、非ホジキンリンパ腫の場合で発症リスクを 1.7倍、ホジキンリンパ腫の場合で 3.1倍増加させる。

感染によるリンパ腫発症のしくみは 3種類ある。ひとつはリンパ球の形質転換、もうひとつは免疫抑制、さらにもうひとつは慢性的な抗原刺激である。

関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、皮膚筋炎、セリアック病は悪性リンパ腫の発症リスクである。これには原病による炎症と、免疫抑制療法の双方が関与していると考えられている。

修正可能なリスク因子としては喫煙 (現喫煙、過去の喫煙とも)、肥満 (BMI 30 kg/m2 超) がある。また、乳房インプラントと長期間の殺虫剤への曝露は非ホジキンリンパ腫発症と関連している。

3. 臨床所見

悪性リンパ腫ではふつう、疼痛をともなわないリンパ腫大を認める。リンパ節は年余の経過で増大したり縮小したりを繰り返すこともあるし、急速に増大することもある。ホジキンリンパ腫では、横隔膜より上にあるリンパ節が腫大するのが典型的である。非ホジキンリンパ腫は全身のどこでも発生しうる。消化管、皮膚、中枢神経系を原発とするサブタイプもある。

進行すると、発熱、原因不明の体重減少、盗汗などの全身症状を認めるようになる。リンパ腫は節外に直接浸潤または血行性転移する。血行性転移しやすい臓器としては脾臓、肝臓、肺、骨髄がある。

高悪性度のリンパ腫は緊急性があり、上大静脈症候群や硬膜外脊髄圧迫 (epidural spinal cord compression)、悪性心嚢液貯留 (malignant pericardial effusion) が起こり得る。

傍腫瘍症候群は悪性腫瘍では稀である。ホジキンリンパ腫では傍腫瘍症候群としての小脳変性、非ホジキンリンパ腫およびホジキンリンパ腫では皮膚筋炎や多発筋炎を合併することがある。

4. 診断

悪性リンパ腫の診断は、開創リンパ節生検で組織所見、免疫組織染色、フローサイトメトリーの所見に基づいて確定される。穿刺吸引細胞診はリンパ節腫大の精査で最初に行われることが多い検査であるが、ホジキンリンパ腫の診断に必要なリード・シュテルンベルク細胞 (Reed-Sternberg cell) を確認するのに十分な量の組織は採取できない。

5. 病期分類

1971年にホジキンリンパ腫の病期分類である Ann Arbor 分類が発表された。後に非ホジキンリンパ腫に対しても Ann Arbor 分類が使用されるようになった。現在は PET-CT の結果に基づく病期分類である Lugano 分類が用いられる。この新しい分類基準では、A症状 (全身症状なし) と B症状 (発熱、体重減少、盗汗) はホジキンリンパ腫に対してのみ記載する。また、骨髄生検は PET-CT で病変進展を認めないびまん性大細胞型 B細胞リンパ腫の場合のみ行うことが推奨されている。

6. 予後予測

非ホジキンリンパ腫の予後予測には国際予後指標 (International Prognosis Index) が、ホジキンリンパ腫の予後予測には国際予後スコア (International Prognosis Score) が使用されている。

7. 治療

悪性リンパ腫は化学療法単独または放射線化学療法で治療される。放射線治療単独は推奨されていない。

放射線療法は治療から数年~数十年後に照射部位に二次がん(乳がん、肺癌) を来すことがある。一方、化学療法も乳がん、肺癌、メラノーマ、急性骨髄性白血病が続発することがある。

診断時の年齢 60歳以上は病期分類とは独立に予後不良である。米国 National Comprehensive Cancer Network (NCCN) は 60歳以上では特定の抗癌剤は使用を控えるように推奨している。内科医は全ての患者に対して治療選択肢について患者と話し合って意思決定するべきである。さらに、60歳以上の患者については治療を継続するかどうかについても患者と話し合うべきである。

非ホジキンリンパ腫の標準的治療は ABVD 療法 (doxorubicin (Adriamycin), bleomycin, vinblastine (Velban), decarbazine) だが、Stanford V (doxorubicin, vinblastine, meclorethamine, etoposide (Toposar), vincristine, bleomycin, predonisone) や escalated-BEACOPP (bleomycin, etoposide, doxorubicin, cyclophosphamide, vincristine, procarbazine (Matulane), predonisone) などのレジメンを行っても良い。

ホジキンリンパ腫の治療は組織所見によるが、CHOP (cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, predonisone) か R-CHOP (CHOP + rituximab (Rituxan), 抗 CD20 モノクローナル抗体)で治療されることが多い。

アルキル化剤である bendamustine (Bendeca) や lenalidomide (Revlimid) も非ホジキンリンパ腫の治療に用いられる。

初期のホジキンリンパ腫の成人患者 2500名以上を含む 7件の臨床試験をまとめた結果として、コクランレビューは多剤併用療法は生存率の改善についてはわずかだが、無増悪生存期間は延長させ得ると結論している。

放射線療法の副作用としては、嘔気、嘔吐、頭痛、倦怠感、皮膚炎がある。長期的な合併症としては心機能障害、呼吸機能障害、甲状腺機能障害、肺がん、乳がんがある。ステージ IA または IIA で粗大病変がない場合は放射線療法を行わなくても良い。

8. 中間評価

非ホジキンリンパ腫およびホジキンリンパ腫の化学療法後の治療効果判定は PET-CT 所見に基づく ドーヴィルスコア (Deauville score, リンク参照)で評価するべきである。

非ホジキンリンパ腫では、ドーヴィルスコアが 3点未満であれば、完全寛解であると判断し、治療を終了するべきである。スコアが 4 または 5点の場合は治療の強化を検討する。

ホジキンリンパ腫では、ドーヴィルスコアが 1 または 2点の場合は治療を終了する。スコアが 3 または 4点の場合は追加の化学療法が必要である。5点の場合は追加の化学放射線療法を行い、リンパ節生検を行う。組織病理で腫瘍細胞を認める場合は、治療抵抗性であると考える。

9. 再発

非ホジキンリンパ腫の再発率はサブタイプによって異なる。最多のサブタイプであるびまん性大細胞型B 細胞性リンパ腫の場合は、生涯の再発率は 40%である。

ホジキンリンパ腫の再発率は初期であれば 10-15%であり、進行期であれば 40%である。

10. 治療後のフォローアップ

寛解導入できた患者では、再発と合併症の監視のためにフォローアップが必要である。悪性リンパ腫の合併症としては二次がん (乳がん、肺がん、皮膚がん、大腸がん)、心疾患、不妊、内分泌学的、神経学的、精神医学的な障害がある。

現在の NCCN のガイドラインは悪性リンパ腫寛解後にフォローアップする項目の概要を示している (リンク参照)。フォローアップの程度と間隔は悪性リンパ腫のサブタイプによって異なる。最初の2年間は 3-6か月毎に腫瘍内科医の診察を受け、3年目は 6-12か月毎、それ以降は 1年毎に診察を受ける。再発なく 5年経過したら、プライマリケア医による診察に移行して良い。

無症状の場合は、画像検査でフォローアップすることは臨床的なアウトカムを改善させない。画像検査は症状がある場合か、再発のリスクが高く、容易に診察が受けられない場所にいて、仮に再発していた場合に治療の対象になり得る場合に行うべきである。しかし、NCCN のガイドラインでは、胸部 X線写真または CT を最初の 2年間は 6-12か月毎に行い、3-5年目には 1年毎に行っても良いとしている。

完全寛解後に PET-CT を行うことは推奨されていない。

11. ワクチン接種

全ての悪性リンパ腫の患者は肺炎球菌ワクチンを接種するべきである。具体的には、まず 13価ワクチン (プレベナー 13) を接種し、8週以上空けて 23価ワクチン (ニューモバックス 23) を接種する。さらに 5年以上空けて 23価ワクチンを接種する。

抗 B細胞抗体 (rituximab など) を投与されている患者はインフルエンザワクチンを接種するべきではない。そして、化学療法中は生ワクチン接種は禁忌である。化学療法終了後 3か月、抗 B細胞抗体投与終了後 6か月後からは不活化ワクチンも生ワクチンも接種を再開するべきである。

造血幹細胞移植を行った患者では、移植後 6-12か月後からヒブワクチンを 3回接種するべきである。

同居している家族がワクチン接種をしていることも重要である。

NCCN ガイドライン 悪性リンパ腫寛解後にフォローアップする項目
https://www.aafp.org/afp/2020/0101/hi-res/afp20200101p34-t7.gif

ドーヴィルスコア

元論文
https://www.aafp.org/afp/2020/0101/p34.html