内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/01/04

2022-01-04 22:03:58 | 日記
10. インスリン

1. 基本事項

・インスリンの作用は臓器によって異なる。①筋および脂肪においてはブドウ糖の取り込み促進、②肝においては糖産生(糖新生+グリコーゲン分解)の抑制、③脂肪においては脂肪分解を抑制し、脂肪合成を促進する。

・①のブトウ糖の取り込み促進は、インスリン反応性輸送担体である GLUT-4 の細胞膜へのトランスロケーションによる。GLUT4
トランスロケーションによる糖の取り込み促進は早い反応で数分以内に起こる。

・②の肝における糖産生の抑制は、セリンスレオニンキナーゼであるAKT2 の活性化によって調節されている。AKT2 はグリコーゲン合成酵素を活性化することでグリコーゲン合成を促進する。AKT2 はまた核内転写因子の FoxO1 を不活性化することによって糖新生の key enzyme (G6Pase, PEPCK) の発現を抑制する。酵素量が減少するまでに時間がかかるので、糖新生の抑制には数日かかる。メトホルミンの薬理作用は AMPK を介しているのでシグナル伝達経路は異なるが、「糖新生の key enzyme の発現抑制」という作用は共通している。

・③の脂肪分解の抑制は糖尿病ケトアシドーシスの病態生理に関わる。白色脂肪細胞では、グルカゴン、カテコラミンの作用により脂肪分解(中性脂肪→遊離脂肪酸)が起こる。一方、インスリンは脂肪分解を強力に抑制する。脂肪分解はインスリンの基礎分泌で十分抑制されるが、インスリン作用が極端に低下する場合には脂肪分解が促進される。その結果、遊離脂肪酸の血中濃度が上昇し、過剰な遊離脂肪酸は肝においてケトン体合成に利用される。有機酸であるケトン体(ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸)が血中に蓄積すると、アシドーシスを来たす。

・インスリンは分泌顆粒では安定な6量体として存在する。分泌後は6量体から活性のある単量体へと解離する。


2.インスリン製剤

・ヒトインスリンと同じアミノ酸配列を持つものをインスリン製剤、アミノ酸配列が改変されているものをインスリンアナログ製剤という。

・インスリン製剤としては、レギュラーインスリンとも呼ばれる速効型インスリンと、レギュラーインスリンを硫酸プロタミン添加によって結晶化させた中間型インスリンがある。

・速効型インスリンは、かつてはボーラスインスリンとして使用されていたが、食事の30分前に皮下注射する必要があった。超速効型インスリン登場後はボーラスインスリンとして使用する機会は減ったが、高血糖が持続する経腸栄養やステロイド投与時、脂肪を多く含む食事を摂る際のボーラスインスリンとしては利用価値がある

・レギュラーインスリン(ヒューマリンR)は皮下注射以外にも輸液混注やインスリン持続静注にも利用できる。

・中間インスリンは作用時間が18-24時間であり、基礎インスリンとして使用するためには1日2回皮下注射する必要がある。また注射前には撹拌混和する必要がある。持効型インスリンの登場により基礎インスリンとして使用する機会は減った。

・インスリンアナログ製剤としては、超速効型インスリンと持効型インスリンがある。いずれもアミノ酸配列の改変によってインスリン6量体から単量体に解離する早さを変更したものである。


3.インスリンポンプ

・インスリンを体外の小型ポンプから皮下の留置針により持続的に注入するインスリン投与法を持続的皮下インスリン療法(continuous subcutaneous insulin infusion: CSII,通称: インスリンポンプ)という。

・機種によるが、基礎インスリン注入量を30分毎に0.05単位刻みで調整できる。

・CGM (持続グルコースモニター)の計測値をもとに数理アルゴリズムによってインスリン注入量を自動調整する closed loop system の開発が進んでいる。

2022/01/04

2022-01-04 22:01:03 | 日記
5.DPP-IV阻害薬

基本事項

・236のRCT (176310名)の結果を統合したメタ分析では、GLP-1受容体作動薬およびSGLT-2阻害薬で有意な全死亡率低減(それぞれ絶対リスク -0.6%, -1.0%, HR 0.88 (95%CI 0.81-0.96), 0.80 (95%CI 0.71-0.89)を認めたのに対し、DPP-IV阻害薬では認めなかった(絶対リスク -0.1%, HR 1.02 (95%CI 9.94-1.11) (JAMA 2018 319: 1580-1591)。

・単独投与では低血糖を起こしにくく、体重を増やさない。

・テネリグリプチン(テネリアⓇ)とリナグリプチン(トラゼンタⓇ)は腎機能によって用量調整する必要がない。

・血糖降下作用は強くない(HbA1c 0.5-0.8%)(Diabetes care 2009; 32: 193)。製剤間の差もどんぐり背比べ。

・薬価が高い(ジャヌビア 50mg 129.5円/錠, テネリア 154.6円/錠, トラゼンタ 155.4円/錠)。

・ジャヌビアとテネリアは増量可能だが、追加の血糖降下は-0.1%程度であり費用対効果は非常に悪い。

6.a-グリコシダーゼ阻害薬

基本事項

・小腸刷子縁細胞の細胞膜上に発現するa-グリコシダーゼの活性を阻害することによって小腸粘膜からのブドウ糖吸収を遅らせる。吸収されなかったブドウ糖は腸内細菌が代謝するので、腸管ガスが増える。

・a-GIは二糖類の分解を阻害するので、低血糖時の rescue は原則としてブドウ糖を用いる。

・血糖降下作用は強くない(HbA1c 0.5-0.8%)(Diabetes care 2009; 32: 193)。

・薬価は高い(ベイスンⓇ 0.3mg 42.7円/錠)。

・稀に重篤な肝障害を起こす。

・糖尿病の発症予防効果が示されている(STOP-NIDDM)

・日本人を対象にしたRCT (VICTORY trial) でも糖尿病の発症予防効果が示されている。

・この結果を受けて、低用量のベイスンⓇ(0.2 mg ×3 /日)はIGTに対する2型糖尿病予防に保険適応がある。


7. スルホニルウレア

基本事項

・SU薬は b 細胞膜上に発現するKATP チャネルに結合し、閉鎖させることによって b
細胞の細胞膜電位を脱分極させる。その結果、電位依存性 Ca チャネルが開口し、細胞質 Ca 濃度が上昇する。細胞質 Ca 濃度上昇が引き金となり、インスリン分泌顆粒が開口放出される。遺伝子発現を伴わないので、効果発現が早い。

・強力な血糖降下作用(HbA1c 1.0-2.0%)を示す(Diabetes care 2009; 32: 193)。

・副作用として体重増加と低血糖が多い。とくに腎機能が低下している患者では低血糖を来しやすい。

・緩徐進行1型糖尿病では、SU 薬の使用はインスリン依存性となる時期を早める可能性がある(Cochrane Library 2011)。

・UKPDS57 ではインスリンと併用した場合(basal oral therapy)、インスリン単独と比較して、血糖コントロール、低血糖発現、体重増加で優れることが示されている(Diabetes Care 2002; 25: 330-336)。


8. グリニド薬

基本事項

・SU薬と同じく b 細胞のKATP チャネルに結合し、インスリン分泌を促進する。SU薬よりも効果発現が速やかで作用時間も短い。

・血糖降下作用以外の付加価値を示すエビデンスがない。

・薬価は a-GI より高い(シュアポスト 0.5mg 59.5 円/錠)。



9. チアゾリジン

基本事項

・中性脂肪を蓄積して大型化した脂肪細胞はアディポカイン(FFA, TNF-a, IL-6, MCP-1)を産生し、インスリン抵抗性を惹起する。チアゾリジンは脂肪細胞分化ではたらく転写因子であるPPAR-g の agonist であり、脂肪細胞分化を誘導する。その結果、脂肪細胞が小型しアディポカイン産生が低下する結果として、インスリン抵抗性を改善させると考えられている。

・チアゾリジンの心血管イベントの抑制効果を検討した大規模臨床試験としては PROactive がある。本試験では、心血管疾患の既往がある2型糖尿病患者を対象とし、通常の治療にピオグリタゾンまたはプラセボを追加し、心血管イベントの発生頻度を比較した。一次エンドポイント(全死亡+非致死性心筋梗塞(無症候性含む)+脳卒中)については有意差を認めなかったが、二次エンドポイント(全死亡+非致死性心筋梗塞(無症候性除く)+脳卒中)についてはピオグリタゾン群で有意に発生頻度が低下した。一方、うっ血性心不全はピオグリタゾン群で有意に増加した(Lancet 2005; 366: 1279-1289)。

・フランスで行われた後ろ向きコホート研究(CNAMTS)では、ピオグリタゾン投与によりわずかに膀胱癌が増えることが示された。この報告を受けて米国で行われた前向きコホート研究(KPNC)では、中央値2年の観察期間でピオグリタゾン投与による膀胱癌発生頻度の有意な上昇は認めなかった(Diabetes Care 2011; 34: 916-922)。

・副作用として、しばしば浮腫と体重増加を認める。体重増加についてはSU治療群よりも有意に大きい(+1.2 kg CI 0.6-1.8 kg)(Ann Intern Med. 2017; 166: 279-290)。

・10件のRCT(被験者 13715名)を統合したメタ分析(CMAJ 2009; 180: 32-39)の検討では、ピオグリタゾンまたはロシグリタゾンを1年以上投与した群では有意に骨折の頻度が増加した(OR 1.45, 95%CI 1.18-1.79)。特に女性では骨折頻度が増加した(OR 2.23, 95%CI 1.65-3.01)。男性では骨折頻度の有意な増加は認めなかった(OR 1.00, 95% CI 0.73-1.39)。

・HbA1c低下についてはメトホルミンおよびSU薬に劣らない(Ann Intern Med. 2017; 166: 279-290)。

・薬価はメトホルミン、SU薬よりも高い(ピオグリタゾン 15mg 24.0円/錠)。

2022/01/04

2022-01-04 21:50:11 | 日記
4.GLP-1 受容体作動薬

1. 基本的事項

・小腸内に食物が流入すると、血中にインクレチン(GLP-1, GIP)が分泌される。GLP-1, GIPは膵 β 細胞に発現するそれぞれの受容体に結合し、cAMP 上昇を介してインスリン分泌顆粒の開口放出を増幅させる。

・インクレチンは血中に存在するdipeptidyl peptidase-4 (DPP-4) によってすみやかに不活性化される。DPP-4は、インクレチンのN末端2アミノ酸残基(dipeptide)を切断することによりインクレチンを不活性化する。

・GLP-1受容体作動薬は、天然型 GLP-1 をもとにアミノ酸置換やアシル酸付加によって
DPP-4による不活性化を受けにくくしたペプチド製剤(エキセナチドはアメリカドクトカゲの唾液腺から単離した天然型ペプチド)。

・ペプチド製剤なので、基本的にはインスリンと同様に皮下注射で投与する。リラグルチド(ビクトーザⓇ)は1日1回投与。デュラグルチド(トルリシティⓇ)、セマグルチド(オゼンピックⓇ)は週1回投与。

・2021/2 から経口 GLP-1 受容体作動薬であるリベルサス®(セマグルチド)が国内で発売されている。起床時に服用し,服用後30分は飲食できない。

・アメリカ糖尿病学会の Standards Medical Care in Diabetes 2020 では、心血管疾患の既往があるまたはリスクが高い患者,腎症または心不全を合併している2型糖尿病患者では、SGLT-2阻害薬とGLP-1受容体アナログはメトホルミンに次ぐ第2選択薬として推奨されている。

・GLP-1受容体作動薬推奨の根拠となっている臨床試験は、LEADER (2016年、リラグルチド)、SUSTAIN-6(2016年、セマグルチド)、REWIND (2019年、デュラグルチド)である。

・LEADER試験では、心血管疾患のリスクが高い2型糖尿病患者を対象としてリラグルチドまたはプラセボを標準治療に追加した場合の心血管イベントの発生頻度を比較した。中央値3.8年の観察期間で、リラグルチドはプラセボと比較して、心血管イベント(心血管死+非致死性心筋梗塞+非致死性脳梗塞)(HR 0.87, 95%CI 0.78-0.97)、心血管死(HR 0.78, 95%CI 0.66-0.93)、全死亡(HR 0.85 , 95%CI 0.74-0.97)を有意に低下させることを示した(NEJM 2016; 375: 311-322)。

・SUSTAIN-6 試験では、心血管疾患のリスクが高い2型糖尿病患者を対象としてセマグルチドまたはプラセボを標準治療に追加した場合の心血管イベントの発生頻度を比較した。中央値2.1年の観察期間で、セマグルチドはプラセボと比較して、心血管イベント(心血管死+非致死性心筋梗塞+非致死性脳梗塞)(HR 0.74, 95%CI 0.58-0.95)を有意に低下させることを示した。死亡率は両群間で差がなかった。腎症はセマグルチド群で低下し(HR 0.64, 95%CI 0.45-0.88)、網膜症は悪化した(HR 1.76, 95%CI 1.11-2.78)(NEJM 2016; 375: 1834-1844)。

・REWIND試験では、心血管疾患のリスクが高い2型糖尿病患者を対象としてデュラグルチドまたはプラセボを標準治療に追加した場合の心血管イベントの発生頻度を比較した。中央値5.4年の観察期間で、デュラグルチドはプラセボと比較して、心血管イベント(心血管死+非致死性心筋梗塞(無症候性含む)+非致死性脳梗塞)(HR 0.88, 95%CI 0.79-0.99)を有意に低下させることを示した。死亡率は両群間で差がなかった。腎アウトカム(特にアルブミン尿)はデュラグルチド群で低下した(HR 0.85, 95%CI 0.77-0.93)(LANCET 2019; 394: 121-130)。

・国内の臨床試験では、リラグルチド(0.9 mg)はHbA1c -1.74%(6カ月後)と強力な血糖降下作用を示した。

・単独では低血糖起こしにくく、体重を増やさない(欧米の臨床試験では体重減少作用が示されている)。

・胃排泄の抑制作用もあり、比較的多い副作用として消化器症状がある。

・薬価は非常に高い(512円/日(ビクトーザⓇ, トルリシティⓇ )+ 自己注射管理料)。

2022/01/04

2022-01-04 21:45:56 | 日記
3. SGLT-2阻害薬

1.基本事項

・SGLT-2 阻害薬は近位尿細管に発現する sodium glucose cotransporter 2 (SGLT2)
の活性を阻害し、尿糖の排泄閾値を低下させる。

・アメリカ糖尿病学会の Standards Medical Care in Diabetes 2020 では、動脈硬化性心血管疾患の既往があるまたはリスクが高い患者,腎症または心不全を合併している2型糖尿病患者では、SGLT-2阻害薬とGLP-1受容体作動薬はメトホルミンに次ぐ第2選択薬として推奨されている。

・SGLT-2 阻害薬推奨の根拠となっている臨床試験は、EMPA-REG OUTCOME (2015年 エンパグリフロジン)、CANVAS program(2017年 カナグリフロジン)、CREDENCE (2019年 カナグリフロジン)、DAPA-HF (2019年 ダパグリフロジン)である。

・EMPA-REG OUTCOMEでは、虚血性心疾患の既往がある2型糖尿病患者を対象として標準治療にエンパグリフロジンまたはプラセボを追加し、中央値3.1年の観察期間で心血管イベントの発生頻度を比較した。その結果、エンパグリフロジン群ではプラセボと比較して、心血管複合エンドポイント(心血管死+心筋梗塞+脳卒中)が有意に低下した(HR 0.86, 95%CI 0.74-0.99)。さらにエンパグリフロジン群では心血管死が有意に低く(HR 0.62, 95%CI 0.49-0.77)、全死亡が有意に低かった(HR 0.68, 95%CI 0.50-0.82)(NEJM 2015; 373: 2117-2128)。

・本試験の後に上梓されたカナグリフロジン(カナグルⓇ)についても、心血管イベントの高リスク症例で心血管イベントの抑制効果が示された(CANVAS program :CANVAS とCANVAS-Rの結果を統合)。また、探索的解析で腎アウトカムの改善も示唆された(NEJM 2017; 377: 644-657)。

・この結果を受けて、カナグリフロジンの腎アウトカムに及ぼす影響を評価する目的で計画された臨床試験が CREDENCEである。腎症3期の2型糖尿病患者を対象として ACEI または ARB に追加してカナグリフロジンまたはプラセボを投与し、中央値 2.62年の観察期間で腎イベントの発生頻度を比較した。その結果、カナグリフロジン群ではプラセボと比較して、複合腎アウトカム(末期腎不全、血清クレアチニン値の倍増、または腎疾患による死亡)が有意に低下した(HR 0.66, 95%CI 0.53-0.81)。さらにカナグリフロジン群では末期腎不全が有意に低かった(HR 0.68, 95%CI 0.54-0.86)(NEJM 2019; 380: 2295-2306)。

・EMPA-REG OUTCOME, CANVAS Program
では,心血管イベント(心不全入院および心血管死)の抑制効果が示された。糖尿病の有無を問わない心不全患者の心血管イベントの抑制効果を検討するために計画された臨床試験が DAPA-HF である。HFrEF 患者を対象として心不全の標準治療にダパグリフロジンまたはプラセボを追加し、中央値 1.52年の観察期間で心不全の悪化または心血管死の複合の発生頻度を比較した。その結果、ダパグリフロジン群ではプラセボと比較して、心不全の悪化または心血管死の複合が有意に低下した(HR 0.74, 95%CI 0.65-0.85)。リスク減少は2型糖尿病の合併の有無にかかわらず認められた(NEJM 2019; 381: 1995-2008)

・体重減少効果はメトホルミンより優れる(Ann Intern Med. 2017; 166: 279-290)。

・SGLT2阻害薬は性器真菌感染症を増加させる(Ann Intern Med. 2017; 166: 279-290)。

・頻度は多くはない(0.2%/年)が,高血糖をともなわない糖尿病ケトアシドーシスを起こすことがある(Ann Intern Med 2020;
173: 417-425).SGLT-2阻害薬を服用している糖尿病患者が嘔吐,腹痛などを主訴に受診された際には血液ガスを確認すると良い.

・薬価は高い(ジャディアンスⓇ 10mg 198.7円/錠、カナグルⓇ 100mg 190.5円/錠)。

・2021年2月現在、イプラグリフロジン(スーグラⓇ)とダパグリフロジン(フォシーガⓇ)は1型糖尿病に対しても適応がある

・2021年2月現在、ダパグリフロジン(フォシーガⓇ)は左室駆出率が低下した心不全に対しても適応がある。