沖積平野
河川による堆積平野が沖積平野である。扇状地も、自然堤防と後背湿地も、三角州も、沖積平野である。本来は平野形成年代が沖積世、という時間的概念は含まない用語だが、沖積世にできた時間的意味で使われることも少なくない。河川の堆積平野の意味でも、沖積世にできた平野の意味でも、同じものを指すことがほとんどであり、こだわる必要はないのかもしれない。
平野の分類にこだわると、区分ができなくなる。例えば、新潟平野は信濃川と阿賀野川のつくった三角州である。その三角州が、自然堤防と後背湿地に分類される。
新潟平野は三角形ではないので三角州と言わずに、沖積平野と呼ぶことがある。自然堤防が多いので、自然堤防帯と呼ぶこともある。また、日本海から吹く北西季節風が砂を運んだ砂丘列が海岸線と平行に何列もあるので、浜堤列と呼ぶこともある。鳥屋野潟(とやのがた)は浜堤列と浜堤列の間の低地にできた潟である。潟のできた低地を後背湿地と呼ぶ。一般に自然堤防と後背湿地の標高差は3m程度である。
後背湿地にできた曽野木団地
自然堤防とは、河川が洪水の時に砂礫を運搬堆積した地形であり、形成年代は縄文時代以後から現在までだが、一度の洪水でできたとは限らない。水田集落が自然堤防上につくられ、水田は低地の後背湿地にできる。
新潟市江南区曽野木団地は新潟県庁の移転先に近い水田に、1960年代につくられた。標高4~5mの水田を埋め立てたが、それでも0m以下の宅地であり、住宅が増えたのは1980年代のバブルの時期である。後背湿地の0m以下の住宅団地である。後背湿地は住宅地としては洪水の危険が大きいが、曽野木は、県庁が近くに移転したり、高速道路ができたりし、交通が便利であった。後背湿地であっても、曽野木団地が水田よりも3mほど高い埋め立て地であることから、洪水の危険性のない錯覚があったようで、住宅の建設が急激に進んだ。
後背湿地は水田
曽野木団地につながる天野の集落は、信濃川の旧河道にできた自然堤防である。標高は0~3mの高度の、低い自然堤防である。洪水の危険がある。同じように、高度の低い自然堤防に、丸潟の集落がある。後背湿地は水田であり、ほとんどの水田は高さ-3m程度の低地である。上質米の産地ではあるが、ひとたび洪水があれば、被害は甚大なものとなる。信濃川の堤防と、揚水ポンプが頼りである。
新潟市のハザードマップでは、曽野木団地とその周辺は緑色で、浸水が0.5~1mと少なく見積もられている。新潟港の干潮時に、信濃川の逆流が止まり、後背湿地から自然排水のあった時の高さであり、満潮時にはこのハザードマップよりは浸水が深いことを予想しなくてはならない。緑色の部分は、後背湿地であり、本来は住宅地には不適当である。洪水の危険だけでなく、地震では液状化現象による住宅倒壊の恐れがある。
黄色の部分が自然堤防であり、洪水時の浸水は0.5mよりは浅い。洪水被害に関しては、自然堤防の被害は小さい。
曽野木団地は後背湿地の水田を埋め立てた住宅団地である。これまでは大きな洪水がなかった。しかし、今後、信濃川の堤防の決壊か異常な降水量の豪雨があって、大洪水の危険を予想しておなかくてはならない。新潟市のハザードマップにあるように、洪水の危険が大きい。洪水については想定外とはいかないのである。それに、地震による液状化も警戒しなくてはならない。後背湿地の住宅は割安であるが、しかし、災害の大きさを考えると、それほど安くはない。沖積平野では、すでに農家が自然堤防を集落としているので、新しい団地は後背湿地になる。しかし、災害への備えは万全でなくてはならない。