ゴダールよりもデ・パルマが好き(別館)

ホンも書ける映画監督を目指す大学生monteによる映画批評。

カールじいさんの空飛ぶ家

2010-05-16 14:33:16 | 映画(か行)
2009年・アメリカ・Up
監督:ピート・ドクター、ボブ・ピーターソン
(IMDb:8.5 Metacritic:88 Rotten:98)
公式HP

ピクサーがこれまで制作してきた作品群を見渡してみると、素晴らしいという言葉を押さえて、
思わず恐ろしいという言葉が口から出てしまう。
興行的にも批評的にも百発百中。

本当に恐ろしい。

そんな中でも最高傑作の呼び声が高いのがこの「Up」つまり「昇天」である。
5月に全米で公開されたときの高評価。大ヒット。

にもかかわらず、世界の末端に住む日本人はなんと12月までお預けを食らわされた。
大変ガッカリしたものだ。

この約半年のブランクは大きい、明らかに映画ファンの熱は冷めてしまったし、
僕ももう見た気になっていた、反してハードルは上がる一方だ。



実際、見てみると、そこまで大騒ぎするほどの作品なのかという疑問が常に付きまとってきた。
「レミーのおいしいレストラン」や「ウォーリー」よりも本当に「カールじいさん」の方が面白いのか。
いや、確かに作品としてのクォリティはさすがピクサーといったレベルの高さだが、
これぐらいでは“普通”ではないか。
今までの作品群の中から抜きん出て傑作では決してない。

評判の高い冒頭約10分間は噂どおりの素晴らしさだ。
恥ずかしながら、泣きそうになり、これから先、まともに見ることができるのだろうかと要らぬ心配をしてしまう。
が、これが本当に要らぬ心配だったのは残念だ。

カールじいさんの家が飛び立つ時のカタルシスの弱さにガッカリしたのをきっかけに
肩透かしな展開が続いた。



あっという間に目的地パラダイスフォールの目前まで到着してしまうのには本当に驚かされた。
大阪から東京への移動でもあんなにアッサリと描かれないだろう。

南米に到着してからの中盤が恐ろしく退屈だ。
大人も子供も楽しめるとはよく言うが、この作品は大人も子どももどちらも
楽しませようとした結果、どっちつかずになっているように見える。
序盤の大人向けなサイレント演出から打って変わって、急に子ども向きになるのがこの中盤だ。
カラフルな怪鳥ケヴィンとの出会い。
犬語翻訳機をつけた犬ダグとの出会い。
桃太郎的一本道に空のシーンでの開放感が懐かしくなる。
(これもある意味、演出だろうが)
そして、真打ちは魅力がなく、弱すぎる悪役。

そして、終盤、カールじいさんのドラマが動き出すとまた盛り上がりはじめる。
カールじいさんが過去を捨て、未来(ラッセル)を助けに行く。
空飛ぶ家を使ったアクションシーンは見事だ。
3Dの効果も上手く使っており、高所恐怖症の人なら、
アニメーションであるにもかかわらず、思わずすくみあがってしまうだろう。



全編を通して、3Dの効果は今までに見た3D映画の中でおそらく一番、効果的に使用されており、
飛び出す効果よりも奥行きの効果が重視されているのが、
空飛ぶ家という題材とマッチしている。
空という立体感のない広い空間に投げ出された立体感のある狭い家という対比が驚くほど
効果的に空飛ぶことの浮遊感を表現している。

しかし、眼鏡を使用する身にあのXpanDの重いゴーグルは正直キツイ。
視野の広さや色の豊かさなどを考えると、2Dで見直すのも面白いかもしれない。
その方がよりストーリーに集中できるだろう。

期待しすぎたのかもしれないが、それでもRottenTomatoesで98%の新鮮さとくれば、
期待しないほうが馬鹿だろう。
日本のディズニーにお願いしたい。

もっと早く公開してくれ!

〈70点〉

追記

(2回目の鑑賞)

本当はもっと素晴らしい作品だったのではないかという予感が
月に1回ぐらい襲ってきたので、DVDで見直した。

妙に高かったハードルもさがり、メガネ・オン・メガネの苦痛から開放されての
鑑賞だったためか、ずいぶんと作品自体の印象が違った。

ストーリーに集中できたことで、ストーリーが驚くほど見事なことにもようやく気づいた。
確かに中盤は弱点だと思うが、必然性を持っている。
映像の色彩もはるかに豊かで、美しく、CGの技術の発達に驚かされた。
映画館で堪能できなかったのは、とてももったいない事をしたな。

最後にもう一度、日本のディズニーにお願いしたい。

もっと早く公開してくれ!

〈80点〉



武士道シックスティーン

2010-05-16 14:19:37 | 映画(は行)
2010年・日本
監督:古厩智之
公式HP

世間的にはあまり話題になっていないが、映画関係のブログやサイトでは高評価のこの作品。
確かに良い作品ではあるが、この程度で騒いでいるようではいけない。
この感覚は「フラガール」の時と似ている。
年に数本の傑作というよりも、たまたま見たら、良かった佳作というのがピッタリだ。

良くも悪くも普通すぎて、物足りなさを感じるのだ。
もう少し頑張れば、傑作になったかもしれないだけに、少し厳しめに見ていきたい。



スポ根ものは日本のまさにお家芸と呼ぶべきジャンルだし、
古厩監督の最も得意とするところだ。
スポ根ものにほぼハズレはない。
良くて当たり前という印象すらあるほどで、同時にやりつくされた感がある。

今回のスポーツは剣道だ。
これが実に映画的ではない。
いや、映画的にしようとすると、嘘が出やすいスポーツだといえる。
例えば、主人公たちが勝つシーンでの相手が、スローモーションで
強調されているせいもあるが、棒立ちすぎるのは気になる。
このスローモーションが曲者で、確かに“試合がどうなったのか”というのは良くわかるのだが、
“早くて、よくわからなかったが何かすごいものを見た”というような剣道らしい迫力が
半減してしまっている。
また、視線が試合をする二人にだけ注がれるため、素人目にも下手なのがわかってしまうこと。
面のせいで、誰が誰か、わかりにくいのも厳しい。
シンクロのように下手でも頑張っただけすごいと思えるスポーツではないのだ。



この作品は王道のスポ根ものでありながら、このジャンルでは定番の恋愛要素はなく、
部活動以外の学校生活もほとんど語られない。
むしろ、この作品の軸は学校よりも家にあり、教室よりも剣道場にあるのだ。
非常に珍しく、これだけで目新しい。
しかし、これには弱点があるように思う。
メインとなるストーリーはとても力強く、魅力的なのだが、
恋愛要素などのサブ・プロットが少なく、起伏に乏しいため、
中盤、いわゆる第二幕で、ストーリーが中だるみしているのだ。
中盤のサブ・プロットが弱いために、ストーリーがいつまでも
停滞しているように感じられた。
ここで、家族の物語をもう少ししっかりと描くべきではなかったか。
この家族の物語がほとんどセリフだけで処理されているのはもったいないし、
もう少し、感情的なシーンを用意しても良かったのではないか。

ストーリーがベタなのは嫌いではない。むしろ、好きだ。
ただ、演出がベタすぎるのはこの監督の長所であり、短所でもあるように感じた。
ケーキバイキングのくだりなど笑わせるところの演出がベタすぎて完全に読める。
撮影や編集にも、もう少し、遊び心があってもいいような気が個人的にはした。



主演の二人、成海璃子と北乃きいの演技が素晴らしかった。
二人とも過去最高の演技なのではないか。
それぞれの対照的なキャラクター、剣道に対する姿勢を
二人が持つ元々のキャラクターを上手く反映させながら、
演じていたのは見事だと思った。
この手の映画の脇役は下手なのが定番だが、
周りを固める山下リオらも主演の二人に引っ張られ、
それぞれの役割を的確に演じていた。

終盤の巌流島の決戦からの展開はスピーディかつ的確で、
鳥肌さえ立つほどのものだっただけに、
全体的に惜しさ感じる作品だった。
そういえば、「奈緒子」もこんな感じだった。

〈70点〉