Die Mondsonde -イギリス航海日誌-

2011年春よりLondon勤務。WEのミュージカルと日々の生活を綴ります。
Twitterはmondsonde。

BBC Proms (3)

2013-09-11 22:46:06 | クラシック(オペラ含)
Proms Last Nightはロンドンにおいて夏の終わりを感じさせる風物詩ですが、本当にLast Nightが終わった次の日から一気に寒くなりました。
暖房つけ始めた、なんていう話もちらほら。。。いかん、Promsの感想書き終わるころには冬になっているんではなかろうか。




【Prom17:7月25日】
John McCabe/Joybox
Beethoven/Symphony No.7
Falla/The Three-Cornered Hat(Clara Mouriz mezzo-soprano)
Ravel/Bolero

BBC Philharmonic
Conducted by Juanjo Mena

今回のPromは、The Apotheosis of the Danceという副題がついていました。この文句は、ワグナーがベートーベンの7番に対して言った言葉ですね。ワグナーイヤーだからこの言葉、ということではないと思いますが、Promの各曲も踊りに関わるものばかり(BBC委嘱作品のJoyboxは知りませんが、10分弱の小品ながらも、色々パーカッションも多用して楽しい曲でした。)

冒頭のJoybox、作曲家はStallsに座っていたのですけれど、相当高齢らしく、Menaが舞台から飛び降りてアリーナつっきり、Stallsまで握手しにいっていました。普通は観客の拍手に答えて作曲家が舞台に登場するのですけど、労をかけさせたくなかったのでしょう。Menaやさしいなあ。

ベートーベンの7番、普段はメインに持ってこられることが多いようにも。というか、ベートーベンの7番好きすぎて、このPromもそれをメインにチケット抑えたのでした(といっても、Circleですが。BBCフィルとかだとCircleすごい安いから助かる)。Menaの7番、私の愛聴するフルトヴェングラーには及ばずとも、どっしりしたいい演奏でした。BBCフィルも、弦は弾ききり、管のアンサンブルもよかった。ニールセンに引き続き、ティンパニストは今日もいい仕事をしていました。ティンパニストがいい楽団の演奏はひきしまる。フルトヴェングラーの7番は、中学生のときに7番をオケで演奏することが決まったときに初めて買ったCDだったので、昔から今に至るまで、私のマスターピースな存在です。今思うと、なぜカラヤンじゃなかったのか、謎きわまりないですが、CD聴いて楽譜見て、2楽章の最初の管のアンサンブルの音の長さにびっくりした思い出が(てあれ、この話去年バレンボイムで7番みたときにしたかもしらん)。7番といえば、最近のだめで取り上げられたからか、普段クラシックを聴かない人からも7番いいね、といわれることが増えたような気がします。といっても、のだめみてないからどういう取り上げられ方をしたのか分かりませんが。ちなみに、以前、そのクラシックは全然きかないけどのだめで取り上げられたのは知ってる、という人が家に遊びにきて、前述のフルトヴェングラーの7番をCDラックから引っ張り出してかけたのですが、「これ知ってるのと違う」と同じ7番だと信じてもらえませんでした笑。のだめがどういう演奏だったかわかりませんが、まあフルトヴェングラーじゃないだろうなあ・・・。


さて、後半、Menaは、Fallaのときはもう自分もステップ踏んでるのじゃないかと思うくらい、踊ってました。今回、後半はFallaの参画防止とRavelのボレロですが、普段よりも舞台が張り出して設置されていて、その部分でスペインの舞踏団が音楽に合わせて踊る、というなかなかの趣向。ボレロの音楽に集中したかった人には残念だったと思いますが、こういうのもなかなかみれないので楽しかったです。それにしても、スペインの舞踏団は男くさい。女性はみな小柄で綺麗でフラメンコのステップもそれは軽快に踊るのですが、男性陣、黒のシャツの第三ボタンくらいまではずし(ボレロのときはソレすら脱いで上半身裸)、汗で濡れた黒髪振り乱して踊る姿は壮絶な色気でした(でも私の趣味じゃないけども)。三角帽子はストーリーに則った展開に踊りが入る形。そのまま、アンコールのようにボレロに突入。ボレロがおわったときの観客の喜びようといったら!Menaは、カーテンコールで自分は一歩下がってこの舞踏団を全面に押し出してましたが、舞踏団のトップダンサーに何度も何度も正面に引きづり出されていました。


【Prom23:7月30日】
Mozart/Masonic Funeral Music
Schumann/Symphony No.2
Mozart/Piano Concerto No.25(Paul Lewis)
Sibelius/Symphony No.7

Mahler Chamer Orchestra
Conducted by Daniel Harding
(as Encore:Mozart/Symphony No.41 “Jupiter” 4th movement)


対抗配置のマーラー室内管弦楽団による、Mozart2曲、シューマンとシベリウス。うーん、オケも指揮者も始めて生で聞きましたが、率直に言ってしまえばどちらも好みではありませんでした。オケは、室内管ということもあり、小編成、まあ、そこはいいのですがオーボエの音が好みじゃない(すみません、首席オーボエ奏者は日本人の方みたいですが)。1曲目のモーツアルトは聞いたことない曲でしたが、これ、Masonicってフリーメイソンのことなんですね。Hardingと、モーツアルトのピアノ協奏曲を弾いたLewisは同級生とのことです。カーテンコールではそれほど仲良さそうにみえなかった二人ですが、面白い。シベリウスの7番はまあよかったです。かなり大人しめで個人的好みから言えば物足りなかったでしたけれど。最初のモーツアルトと最後のアンコールのモーツアルトがよかった。モーツアルトのサンドイッチだったんですね、今日のプログラム。


【Prom27:8月2日】
Naresh Sohal/The Cosmic Dance
Rachmaninov/Piano Concerto No.3(Nikolai Lugansky)
Tchaiovsky/Symphony No.5

Royal Scottish National Orchestra
Conducted by Peter Oundjian

この日は、珍しく私が買ったチケットではなく、人からもらったチケット。ので、普段だったら絶対かわないクワイア席。RAHではStallsとクワイア席は買わないようにしているのですけど、最初がBBC委嘱作品のバリバリ現代音楽(苦手)、案の定目の前に各種打楽器が揃えられてしまい、音のバランスがよくなかったです。指揮者はよーくみれるのですけど、自分でチケットかってないことからわかるように、指揮が滅茶苦茶みたい、というほどの人でもなく。。。でもルガンスキの手元がばっちり見れたのはよかった。ウィンドマシーンがよく見えました。あれまわしてみたい。でも、現代音楽は苦手。特に、これでもか、と色々な打楽器が舞台に用意されているのを見るだけで内容考えてうんざりです。

今年のプロムス、ワグナーとヴェルディの二枚看板に加えて、チャイコフスキーの交響曲全曲、それからポーランド作家特集、イギリスのバントック特集と小テーマがいくつもあるようです。この日は、その中からチャイコフスキーの5番。といっても、今回のPromで聞けたのは2、5、6だけで。今日のPromは、3曲しかないのに一曲一曲の間に休憩がはいる、ちょっと特異な方式。ちょっとだれる観客。ルガンスキー先生、アンコールしてよ。


【Proms28:8月3日】
J.Strauss II/By the Beautiful Danube
James MacMillan/Violin Concerto(Vadim Repin)
Beethoven/Overture Coriolan
Beethoven/Symphony No.5

BBC Scottish Symphony Orchestra
Conducted by Donald Runnicles

マクミランのヴァイオリンコンチェルト。いいわ。現代音楽は総じて苦手(もちろん例外はありますが)な私は、このマクミランのコンチェルトも聴いたことなく、去年のブーレーズのヴァイオリンコンチェルトみたいに理解できないままおわるのかと思いましたが、全くそんなことはなく、とても楽しめた、というのを超えて、すきになりました。それもこれも、この曲がRepinのためにかかれ、Repinが最も得意とする曲のうちのひとつであるということもあるかもしれません(彼のシベリウスのコンチェルトは最高)。Repinの演奏でなかったらこのマクミラン楽しめたかどうか、そう思うと、こういう一期一会のコンサートはやっぱり何者にも替え難い。こういう出会いがあるからやってらんないんですよ(笑)。

Repinは、好きなバイオリニストの一人ですが、やはり素晴らしい。痩せてとてもステキな壮年のヴァイオリニストになりましたね。技術は、もう言うまでもないのですが、彼のハイポジションの迷いのなさ、音のゆれのなさは本当に素晴らしい。一時期の頬のぷくぷく具合が懐かしいです。とても途中ドイツ語ははいりましたけど。なんだか面白い構成で、オケの男性メンバーが声をそろえてein, zwei, dreiと数を数えたりするんですよ。なんかそこはかとなく怖い雰囲気もありました。

ところで、Repinがこの時期にPromsに来るのと同じくして、ボリジョイ・バレエもロンドン公演に来ていましたね。Repinの奥さんはボリジョイのプリンシパルのスヴェトラーナ・ザハロワですから、彼女はひょっとしたらこの日RAHにいたかもしれませんね。もしやRepinはそれに合わせてスケジュール組んだのか・・・?ボリジョイの公演はジュエルズ、バヤデール、眠りと見に行き、スヴェトラーナがダイヤモンドを踊る日のチケットも持っていたのですが、パートナーが怪我で降板してしまい、彼女も降板となってしまいましたので見れずじまい。残念(かわりにOlgaのすばらしいダイヤモンドが見れたのですが)。

後半は、うって変わってベートーベンより良く演奏されるコリオラン序曲と交響曲5番。Repinに心奪われたままだったけど、どちらもよかったです。


【Prom29:8月4日】
Wagner/Tannhauser

Tannhauser:Robert Dean Smith
Elisabeth:Heidi Melton
Venus:Daniela Sindram
Wolfram:Christoph Pohl
Shepherd Boy:Hila Fahima

Chorus of Deutsche Oper Berlin
BBC Scottish Symphony Orchestra
Conducted by Donald Runnicles

ルンニクルス指揮、第二弾。タンホイザーを演じるはディーン・スミス。良かったわ(ワグナーの指環を聞いた後だとだいぶ軽く感じられましたが、ま、タンホイザーだしね)。あれ、前週にトリスタンうたってなかったっけか、ザイフェルトの降板で。ジークフリード向きではないですが、タンホイザー、マイスタージンガーは非常に向いてる気がします(体型的にはトリスタンも×だけど、それはそれ)。それにしても、コーラスがいい!決してばらばらにならず、台詞もはっきり聞こえ、とてもレベル高かったです。うんまい。コーラス150点!

Wolfram役のChristoph Pohlもよかった。羊追いの少年のHilaはちょっとイマイチ弱かったですが、Elisabeth役のHeidi Meltonも、いい声していましたし、健気で。こうやってコンサート形式で余計な演出などに一切気をとられず演奏に集中できるのは貴重です。諸事情でトリスタンとパーシヴァルにいけなかったのが悔やまれます。それにしてもルンニクルス、1日の間もおかず、全く毛色の異なる演奏とは恐れ入りました。

BBC Proms 2013(2)

2013-09-07 14:19:51 | クラシック(オペラ含)
歌手書いただけで2400字とか。Proms感想第二弾は、今年の目玉、コンサート形式でありながらもワーグナーのニーベルングの指環が4作品全部演奏。流石に、一作一作が長時間に亘るオペラなので、連日連夜というわけには行かず、ラインとワルキューレが2夜連続だったことを除けば後は2日おきでした。それでも、一週間で指環やりきるのだから御年70歳になるバレンボイムは体力的にも精神的にもすごいといわざるを得ません。4夜すべてをこんな連続でライブで聴いたことはなかったし、この週は、私も4夜聞いた上で、空いた日にグラインドボーン音楽祭に行ってドニゼッティのドン・パスクワーレを聞いてきたので、一週間にしてオペラ5作品、聞くだけでも体力使いました。しかもそのうち2日は5時始まりとか4時半とかだったので、会社は半休を申請(笑)していってきましたよ。正しい休暇の使い方。


黄昏より。左端がAndreas Schager。

【Prom14:7月22日】
Wagner/Das Rheingold

Iain Paterson (Wotan, baritone)
Stephan Rügamer (Loge, tenor)
Jan Buchwald (Donner, baritone)
Marius Vlad (Froh, tenor)
Ekaterina Gubanova (Fricka, mezzo-soprano)
Anna Samuil (Freia, soprano)
Anna Larsson (Erda, mezzo-soprano)
Johannes Martin Kränzle (Alberich, baritone)
Peter Bronder (Mime, tenor)
Stephen Milling (Fasolt, bass)
Eric Halfvarson (Fafner, bass)
Aga Mikolaj (Woglinde, soprano)
Maria Gortsevskaya (Wellgunde, mezzo-soprano)
Anna Lapkovskaja (Flosshilde, mezzo-soprano)

【Prom15:7月23日】
Wagner/Die Walkure

Bryn Terfel (Wotan, bass-baritone)
Eric Halfvarson (Hunding, bass)
Simon O'Neill (Siegmund, tenor)
Anja Kampe (Sieglinde, soprano)
Nina Stemme (Brünnhilde, soprano)
Ekaterina Gubanova (Fricka, mezzo-soprano)
Sonja Mühleck (Gerhilde, soprano)
Carola Höhn (Ortlinde, soprano)
Ivonne Fuchs (Waltraute, mezzo-soprano)
Anaïk Morel (Schwertleite, mezzo-soprano)
Susan Foster (Helmwige, soprano)
Leann Sandel-Pantaleo (Siegrune, mezzo-soprano)
Anna Lapkovskaja (Grimgerde, mezzo-soprano)
Simone Schröder (Rossweisse, mezzo-soprano)

【Prom18:7月26日】
Wagner/Siegfried

Lance Ryan (Siegfried, tenor)
Nina Stemme (Brünnhilde, soprano)
Terje Stensvold (Wanderer, baritone)
Peter Bronder (Mime, tenor)
Johannes Martin Kränzle (Alberich, baritone)
Eric Halfvarson (Fafner, bass)
Rinnat Moriah (Woodbird, soprano)
Anna Larsson mezzo-soprano (Erda)

【Prom20:7月28日】
Wagner/Götterdämmerung

Nina Stemme (Brünnhilde, soprano)
Andreas Schager (Siegfried, tenor)
Mikhail Petrenko (Hagen, bass)
Gerd Grochowski (Gunther, baritone)
Anna Samuil (Guntrune/ Third Norn, soprano)
Johannes Martin Kränzle (Alberich, baritone)
Waltraud Meier (Waltraute/ Second Norn, mezzo-soprano)
Margarita Nekrasova (First Norn, mezzo-soprano)
Aga Mikolaj (Woglinde, soprano)
Maria Gortsevskaya (Wellgunde, mezzo-soprano)
Anna Lapkovskaja (Flosshilde, mezzo-soprano)

Royal Opera Chorus


演奏するはDeutsch Staatskapelle Berlin、演奏のレベルは申し分なく、なんて言葉では言い表せないほど素晴らしく、バレンボイムの指揮の下、神がかったような演奏でした。この曲を演奏するときのほとんどはオーケストラピットでの演奏だと思うのですけれど、今回はオケが主役のようなもの。8台のホルン&ワグナーテューバ、6台のハープ、大編成の弦&管、時にバンダが加わってのワグナーの、重厚で勇壮で、威厳のある音楽を表現。ライブで聴くにつれ、やはりワグナーは天才だと思います。ライトモティーフのちりばめられ方、演奏、ドラマ性。ジークフリードのテーマを吹く第一ホルンは素晴らしかった(黄昏で一回はずしましたが、ご愛嬌)し、ラインのテーマの美しさ、ジークフリード葬送行進曲の美しさは別格でした。一瞬たりとも気が抜けず、バレンボイムの荒ぶる指揮に影響されてこちらもひどい(けれどもここちよい)緊張感の中でオケを聞きました。バレンボイムも、ドイツを始め他国では振りなれているとはいえイギリスでワグナーのオペラを振るのは始めてとのことでしたので、気合が入ってたのだと思います(そりゃ入るか)。びっくりしたのはワルキューレはスコアさえ見ずに振っていたこと。譜面台の上にはスコアは置かれているのですが、まったく開かず。ひええ・・・・。恐るべし。


さて、歌手のほうは、4夜で全て同じ配役というわけにもいかず、ヴォータンはラインではIain Paterson、ワルキューレではBryn Terfel、ジークフリードではTerje Stenvoldでした。ジークフリードはジークフリードでLance Ryan、黄昏でAndreas Schager。その中で、ワルキューレから黄昏までブリュンヒルデを歌いとおしたのがNina Stemme。いや、素晴らしかった。プロフィールのかわいいかわいい写真は多分20年くらい前の写真じゃないかとおもいますけども。ブリュンヒルデにふさわしい、神々しさと凛々しさと、愛を備えたソプラノでした。


今回、いいなあと思ったのは、ラインでヴォータンを演じた張りのある声のIain Paterson(その後もPromsに登場予定でしたがキャンセルしたので聞けてよかった)。それからラインからジークフリードまでミーメを演じたPeter Bronder(なんていったって背格好が本当にミーメ。凄い)。彼は、小人族の昇進さ、おどおど具合、ジークに対する演技、卑屈さがうまくブレンドされた、演技もとても上手い。。。ラインでは、DonnerのJan Buchwaldがちょこっとしか歌わないくせにうまく喝采をさらって行きました(ぬぼーとしてたくせに歌声はとてもよかった)。ErdaのAnna Larssonも赤いドレスで一人オルガン席の前で気品高かったです。ワルキューレのBryn Terfelは言わずもがな。黄昏のWaltraut Meyerは素晴らしく、年齢を全く感じさせない歌いっぷりでした。Ninaとの掛け合いのところは本当にどきどきしましたし、彼女のカーテンコールも凄かった。

テノールは、Simon O'neil、Lance Ryan、Andreas Schagerといましたが、もう完全にAndreas Schagerがよかった。とにかく、とにかく素晴らしい。この舞台を見るまでAndreasについて全く知識がなかったのですけれど、一気に私の中でのトップテノールに躍り出ました。オーストリア生まれ、ドイツを主な拠点に歌ってるAndreas、同じドイツのテノールのJonas KaufmannやKlaus Florian Vogtに比して知名度はだいぶ低い気もするけれど、ここ1年のワグナーイヤーにおける彼の評価で低い評価は目にとまらない(観終わってからあわててドイツ語のページとか調べたよ)。バレンボイム学校出身なのか、何度か共演しているようで、今年の前半にもコンサート開演に遅刻したLance Ryanの代役を20分前に快諾し、見事ジークフリードの1幕を歌ったのだとか。そしてその足でサイモン・ラトル指揮の魔笛を歌いにいくとか凄すぎるダブルヘッダー・・。つい先日も、誰かの代役でどこかで歌ったというのがニュースになっていましたが、ここぞとばかりに知名度あげて、国際的なスターになってほしい、それくらい実力のある歌手だと思います。もったいないから。(きっと出演料的にも安いはずですし・・・壊れないようにだけしてほしいけど)今回のコンサート形式の中でもきちんと演技ができているし、ものすごい痩せているくせにあの声量、歌のぶれのなさ、強靭な歌い方と死の直前の弱い、しかしホール中にきちんと聞こえる張りのある声、感情の乗せ方。Heldentenorにふさわしい声質と演技力、立ち居振る舞い、存在感。ブリュンヒルデのことを忘れる前と後とできっちり演技わけができてました。次の日の各紙でも絶賛されてましたし、ドイツ紙でも”Ein echter Heldentenor(真のヘルデン・テノール)”と、絶賛されていました。まったくその通りだと思います。素晴らしいものを聞かせてもらいました。是非、もう一回彼の歌を聞きたい。

4夜通して、オケも、やはり神々の黄昏が出色だったように思います。バレンボイムの指揮は、非常に細かく、コンサート形式だからかもしれませんが、歌手に対するキューや指示もかなり細かくいれていたように思います(その後の彼以外の他のコンサート形式と比べて)。その後始まったバイロイトでの指環と比較されて、バレンボイムのこの指環を聞けたのは奇跡だ、と言われていましたね。普段プロムスの観衆は拍手が先走り気味なのですけれど、今回、最後、黄昏が終わったあと、バレンボイムがタクトをおろしても10秒ほど会場中が静寂に包まれていました。もちろん、その後は大喝采でしたけれども、ドラマティックな黄昏が最後ノリノリのバレンボイムに引きづられて弾ききった、その波に観客も取り込まれ、拍手すらできなかった、といったところが正解だと思います。それから、ここで拍手してしまっては奇跡のようなこの指環が本当に終わってしまう、ということを認めたくなかったか。あれだけ何千人も入るRAHが一体になったのは、初めての経験でした。鳴りやまない拍手のあと、バレンボイムはこの沈黙こそが私の求めていたのものだ、観客に感謝すると短いスピーチを述べました。バレンボイムは、現代ではワグナー振りとして最高の指揮者だと思います。その実力を遺憾なく発揮した今回の演奏、一生に一回かもしれない演奏をきけて、本当に幸運でした。


ちなみに、その後のPromで知り合いになったイギリス人の音楽好きのおじいちゃんたち、ワグナーの指環は生で25回以上きいてるけど(バイロイトも毎年いっていたとか!どんだけすごい人なんだろう)今回のが一番よかった、と言っていました。すばらしい。イギリスにいてよかった。

BBC Proms 2013 (1)

2013-08-12 00:00:44 | クラシック(オペラ含)
今年もやってきました、芸術の夏。7月中旬から9月初旬に亘って、連日連夜Royal Albert Hallで開催されるクラシック音楽の祭典。クラシック好きにはたまりません。財布もたまりません。悲鳴上げています。

今年のPromsの目玉は、Daniel Barenboimが英国で初めて振るという、ワグナーオペラ、ニーベルングの指環。BBCシンフォニーの首席指揮者に就任したSakari Oramo、Pappano率いるサンタ・チェツイーリア、ウィーンフィルにバンベルク、と、オケ的には去年のベルリンフィル、ウィーンフィル、ゲヴァントハウスにはかなわないかもしれませんが、指揮者的にはPappano、Nelsons、Jansons、ピアイストも辻井伸行、スティーブン・ハフ、ニコライ・ルガンスキー、ヤン・リシエツキから内田光子まで、とても豪華です。あ、ダニール・トリフォノフも。

anyway、今年も色々予定をやりくりして、行きたいプログラムは行こうと思います。




【Prom1:7月12日】
Julian Anderson/Harmony
Britten/Four Sea Interludes from ‘Peter Grimes’
Rachmaninov/Rhapsody on a Theme of Paganini/Stephen Hough(piano)
Lutoslawski/Variations on a Theme by Paganini/Stephen Hough(piano)
Vaughan Williams/A Sea Symphony

BBC Symphony Orchestra
Conducted by Sakari Oramo

今年は、初めてFirst Nightに行ってきました。別に、First NightだからってLast Nightとは違って特になにもないですね。当たり前だけど。First Nightを指揮するのはザカリ・オラモ。今季BBC SOの首席指揮者に就任してから(恐らく)最初のBBC SOの指揮(間違ってたらごめんなさい)。Sakari Oramoは好きな指揮者のうちの一人なので、これからBBC SOとどう付き合っていくのか、楽しみだなあ。

演目は、First Nightにふさわしく、Anderson、Britten、Vaughan Williamsとイギリスの作曲家の作品がずらり。幕開けは、プロムス特有の、BBC Commission委嘱作品であるJulian AndersonのHarmonyから。もちろん、世界初演です。BBCシンフォニー合唱団、ユース合唱団も含め、とにかく途轍もなく大人数。まー、テレビで中継するしね、派手な方がいいですね。正直、Julian Andersonのハーモニーはよくわかりませんでしたが、続くブリテンのピーター・グライムズは良かった。ところで、ハーモニーが終わったあとに作曲家が舞台に出てくるのですが、普通の格好してるのね。もうちょっといい格好したらいいのに、と思わなくもないのでした。

ピアノはStephen Hough。ピアノはスタインウェイ。ラフマニノフのパガニーニ主題からの狂詩曲、ついで、ルトスワフスキの同じくパガニーニの主題からの変奏曲。こういう並びって面白い!                             
最後は、ヴォーガン・ウィリアムズの海の交響曲。ブリテンより、ヴォーン・ウィリアムズのが好きです(誰も聞いてないけど)。


【Prom6:7月16日】
David Matthews/A Vision of the Sea
Rachmaninov/Piano Concerto No.2/Nobuyuki Tsujii(piano)
(as Encore/Liszt/La Campanella)
Nielsen/Symphony No.4 “Inextinguishable”

BBC Philharmonic
Conducted by Juanjo Mena

これまたDavid MatthewsのA Vision of the SeaはBBC Commissionの委嘱作品で、世界初演。Proms1に引き続き、また「海」がテーマです。流行り?

そしてラフマニノフのピアコン2番。辻井伸行君のプロムス・デビューです。24歳ですって?隣の席のおばさんに年聞かれて20代前半だと思うって言ってしまいました(24歳なら20代半ば、よね)。24歳には見えなかったわー。Menaに手を引かれて(というか正確にはMenaの肘を取って)登場した辻井君、お小さくていらっしゃる。手は大きいのかしら。BBCフィルとは、今年、日本ツアーを一緒に回っているんですね、指揮者はMenaではなかったけど。東京にいる先輩がとてもよかった、と言っていた辻井君×BBCフィルをロンドンで聞くことができました。BBCのインタビューによれば、その日本ツアーでBBCフィルと辻井君との間にはすでに絆ができているとのと、また、Menaとオケと合わせた時間はそれほど多くはなかったけれど(なんと3日前が顔合わせ!)、Menaの呼吸に合わせてタイミングを取っていることなどが紹介されていました。

ラフ2は、とても繊細、且つ第一楽章の豪胆、落差の激しい、そしてエモーショナルで美しいラフマニノフの美しい旋律を聞かせてくれるピアノでした。オケも、第一楽章の第一主題の弦、第二のAdagioのフルート&クラリネットに確り歌わせて、鳴らして情緒たっぷり。第三楽章の主題も溜める溜める。

ところで、今年の真央ちゃんのLPはこのラフ2ですが、どこを使うんでしょう。やっぱり第二楽章の最後のあの弦のメロディ使うのかな、第一楽章と合わせ技で。それとも第三楽章のピアノの旋律かなあ、オケの方かな。第三楽章のメロディはステップと合わせやすそう。最後のピアノカデンツア部分からだったら鬼ステップになりそうだな。ああ、それで最後のドッドドドッ!で終わったらかっこいいなあ!

ちょっと残念だったのは第一楽章の後に拍手が起こったこと。もちろん、拍手に値する素晴らしい演奏でしたが、私は楽章間の拍手はやっぱり集中力切れるし、指揮者の呼吸にも影響するだろうから、好きではありません。Aliceのシューマンでも拍手が起きてましたが、なぜか日本人アーティスト(で日本人の観客がいっぱいいいるとき)に拍手が起きるのが多いのは偶然だと思いたい。案の定、第二楽章の後にも拍手しかけてMenaが演奏始めてしまったので慌ててやめている人もいましたし。。。

オケといえば、BBCフィルは日本ツアーでの絆があるせいなのか、とても辻井君に対して優しい目線で接していました。ファーストバイオリンも、セカンドも、ちゃんと辻井君見てる(特に、セカンドの綺麗なお姉さんとか微笑みながら見守る目つきがとってもやさしい)。アンコールにはリストのラ・カンパネルラを弾いてくれましたが、辻井君を連れてきたMenaは指揮台に座って鑑賞、オケのメンバーも年の離れた弟を見守るよう。でも、なんかわかるなあ、なんか、辻井君の演奏、それから笑顔、かわいいお辞儀を見てると、気持ち分かるんですよね。ふふ。
関係ないけど、一昨年のアリスも、アンコールはラ・カンパネルラで、彼女の方が力づよいカンパネルラでした。

さて、日本人に大人気だったと思われる本日のProm。流石に辻井君が終わったからといって帰っていく人はあまりいなかったようですが、最近オケを聞きにいく仲間と「今日来ている日本人の中でニールセンの4番を生で聞いたことある人は何人いるんだろう」という話をしていました。これを機にみなさんニールセンの4番を好きになってくれるといいなあ。多分、というか好きになってくれたんではなかろうか、というMenaの情熱溢れる4番、とてもよかったです。日本人にはそれほどメジャーではないニールセン、こんなにかっこいいのにな。。。大好きなこの曲、毎年誰かの指揮で生で聞けているのはとっても幸せです。プロムスでは一昨年オラモで4番、去年ヴァンスカで5番、今年はメナで4番。4番のヤマであるダブルティンパニ、ファーストを下手に、セカンドを上手に持ってきていました。ティンパニ、非常にクリアでいい音出してました。あの第三楽章の弦がこれでもかと歌うところ、ティンパニ頻繁に涼しい顔で音変わりますけど、よくいきますよね。そして雷のように鳴り響く大迫力の第四、いつも私の頭の中は恐竜の世界に隕石が降ってくるイメージ(不滅と逆だ)。今回改めて舞台見て思い出したのですが、第四楽章の終盤はティンパニはセカンドがメインのCとFの4度の移行なのに、ファーストはトレモロなんですね。あれ、ファーストかと思ってました。第四楽章まで耐えて待っていたご褒美?最後は、Menaがティンパニスト2人を舞台上に引っ張り出して一緒に挨拶。粋ですね。。

ラフマニノフの時はそうは思わなかったのですが、金管の音も、フルートの音もオーボエも総じて明るい。。。そしてテンポ的にはかなり前のめり。第三楽章から第四への移行の部分なんて気が狂いそうな弦の刻み。


【Prom8:7月17日】
Britten/Sinfonia da Requiem
Lutoslawski/Concerto for Cello/Paul Watkins(cello)
(as Encore/Lutoslawaski/Sacher Variation)
Thomas Ades/Totentanz/Christianne Stotjin(mezzo-soprano),Simon Keenlyside(baritone)

BBC Symphony Orchestra
Conducted by Thomas Ades

本日は、BBC SOを後半のプログラムの作曲家でもあるThomas Adesが振ります。なんで私このプログラム買ったんだろう?と言うくらい、普段の私の好みから外れてるわ。ルトスラフスキ苦手、という意識をさらに強くしただけでした。

Thomas AdesのTotentanzは世界初演。メゾソプラノとバリトンがそれぞれ舞台前に立って歌います。パンフレット買わなかったからなんて歌っているのか分からなかった。


【Prom10:7月19日】
Mozart/Symphony No.35 “Haffner”
Schuman/Concerto for Piano/Jan Lisiecki(piano)
(as Encore/Chopin/Noctane No.20)
Rachmaninov/Symphony No.2

Orchestra of the Academy of Santa Cecillia, Rome
Conducted by Sir Antonio Pappano

メジャーな選曲。しかもCecillia率いてイタリアの曲が一曲もない(それはいいんですけども)。このSanta Cecillia、実はCDでもライブでも聞いたことがなく、正真正銘初めてです。コヴェント・ガーデンの音楽監督で、Santa Cecilliaの音楽監督も務めるパッパーノが指揮です。サーです、アントニオ。初めて聞きましたが、いいですねえ~、特にホルン、あとオーボエ、クラリネット。パッパーノは指揮棒なしで振るんですね、拍を口をパクパクさせながら取るから金魚みたい(失礼)。

若手ピアニストのヤン・リシエツキのシューマン。18歳ですって。若い。。。シューマンのピアノコンチェルトはピアノがオケの上位にくるのではなくて、オケの一部だから好きなんだとか。カナダで大変人気のアーティストだと、BBCの解説。白いシャツに藍色に白ドットのボウタイで登場。若いっていいなあ。柔らかいシューマンもさることながら、アンコールのショパンよかったです。これからどう成長していくんでしょう、楽しみなピアニストです。

2012年振り返り その(1) クラシックコンサート編

2013-01-26 23:12:03 | クラシック(オペラ含)
先週末にちょっと筋トレもどきをやったら4日たっても筋肉痛が収まりません。最早これは筋肉痛ではなくて普通に痛めたとかそういうレベルなんでは・・・?と思う今日この頃です。ううむ。ひざ裏が痛い。。。


閑話休題、
2013年1月もそろそろ終わろうという時にこんな記事、という感じもしますが、年末年始に日本に帰った際にチケット整理用のファイルを買ってきたので、チケット整理がてら頭の整理がてら記録しておこうかと思います。まずはクラシックコンサート編。2012年は、Promsに12回、Royal Festival Hallに3回、の計15回行きました。チケット自体はもうすこし取っていたのですけど出張等でいけなくなって他の方にお譲りしたり、コンサート自体がキャンセルになっちゃったりが何回かあり、最終的に15回に(あ、あと、これにオペラが3回ほどたされるかな?)。仕事して、飲み会にも行って、ミュージカルも見ながらにしてはよく行ったほうかなーと(笑)


しかし改めてチケットを見てみると、自分がオケ出身のためか、オケ編成ばかり選ぶ傾向があって、Wigmore HallとかElisabeth Hallとかの室内楽、声楽にはあまり行きませんでしたね、そういえば。ヴァイオリンとかピアノとかの器楽のリサイタルは良いんですけどね、カルテットとかそういう類いの室内楽には一回もいきませんでした。というか、室内楽をよくやっているWigmore Hall、チケットとってもいけないことが多すぎるんだもの!(Aliceのコンサートがキャンセルになったりね)


それでも、15回の中でオケはベルリンフィル、ウィーンウィル、ゲヴァントハウス、BBC管、LPO、LSO、とある程度聞きたかったところはおさえられましたし(シュターツカペレ行きたかったけど仕事が・・・とかはありましたが。)指揮者も、大好きなヴァンスカをはじめとして、ラトル、シャイィ、ハイティンク、ゲルギエフと(ゲルギエフは良くイギリスで振ってるからありがたみは余りないか)見たい指揮者は見れた気がします。


そんな中でかぶった曲はなんとシベリウスの交響曲第3番(Vanska/Storgards)だけでした!今年はシベリウスも、ニールセンも複数聴くことができたので、北欧好きの私としてはかなり満足。本当はブルックナーがかぶるかな?と思ったのですけど、そういえば出張でいけなくて、先輩に買ってもらったんでした。


ということで、ベスト10(上から)。ヴァンスカどれだけすきなんでしょうね、自分。。。

1位:9/6(RAH)  ハイティンク/ペライアのベートーベンピアノ協奏曲第4番(VPO)

2位:8/20(RAH) ヴァンスカのニールセン交響曲第5番(BBC管)

3位:9/7(RAH) ハイティンクのシュトラウス、アルプス交響曲(VPO)

4位:10/31(RFH) ヴァンスカ/テツラフのモーツアルトバイオリン協奏曲第3番(LPO)

5位:8/22(RAH) ゲルギエフのプロコフィエフ、シンデレラ全曲(LSO)

6位:9/1(RAH) シャイィのメンデルスゾーン交響曲第5番(Gewandhaus)

7位:7/24(RAH) バレンボイムのベートーベン交響曲第7番(WEDO)

8位:10/31(RFH) ヴァンスカのシベリウス交響曲第3番(LPO)

9位:9/1(RAH) シャイィ/ズナイダーのメンデルスゾーンバイオリン協奏曲(Gewandhaus)


番外編

12/4(RFH)トリフォノフのストラヴィンスキー、火の鳥(アンコール)

9/1(RFH)ズナイダーのバッハ無伴奏パルティータ第3番ガボット(アンコール)


上位5つのうちハイティンクが2つ、ヴァンスカが2つですけど、ハイティンクのうちベートーベンのピアコンはペライアとの競演がとてもよかったのと、RAHでアルプス交響曲をVPOのフル編成で聴けたという感動もあってです。VPOもほんとにほんとに素晴らしかった。やっぱりVPOはいいなあ~。それが、多分ヴァンスカとニールセンという二大好き要素を抑えてトップに来た理由かも。ヴァンスカは、好きな指揮者なので、結構何でも上位にきちゃいそうなのでちょっと悩みました(笑)。でもその中でも、テツラフとのヴァイオリン協奏曲は、もうこれで完全にテツラフに堕ちました。この人の独特の雰囲気に飲まれまくったモーツアルト、というかモーツアルトってこんなんだったけ?と終始疑問符に包まれたコンサートだったのですが、それがまたなんとも言えない味で。

ゲルギエフのシンデレラは、これまた全曲聴けてよかったーという点、それから、ゲルギエフの繊細なバレエ音楽が聴けたのでランクイン。ゲルギエフはロンドンにいると色々と聴く機会も多いんですけど、最近は精力的に(私の馴染みのない)作曲家の曲を取り上げることが多いので、王道っぽいのは逆に嬉しい。

シャイィのメンデルスゾーンは、実はシャイィ生で聴くのが初めてだったので。

番外編は、アンコールながらメインピースに勝るとも劣らない演奏だったもの。というか、アンコールだからすごい勢いと演奏でぶつけてくるのもありますよね。去年のアリスのラ・カンパネルラもそうだったけど。ズナイダーのパルティータは思わずうなるしかなく、トリフォノフの火の鳥は超絶技巧とほとばしる気迫に鳥肌立ちながらひえええとなりながら聞いていました。ので、この二つは特別賞(笑) 

London Philharmonic Orchestra 【2012/11/28】

2012-11-30 00:11:37 | クラシック(オペラ含)
サウスバンクでの音楽鑑賞も今年あと残すところ2回となりました。
最後から2つ目は、Jurowski率いるロンドンフィル。

Beethoven/Overture from Fidelio
Schoenberg/Ode to Napoleon Buonaparte
Schoenberg/A survivor from Warsaw
Nono/Julius Fucik
Beethoven/Symphony No.5

London Philharmonic Orchestra
Conducted by Vladimir Jurowski

今日の指揮者のユロフスキ、フルネームはVladimir Michailovich Jurowski、お父さんはやはり指揮者のMichailovich Jurowski、フルネームはMichailovich Vladimirovich Jurowski。作曲家のおじいさんの名前はVladimirovich Michailovich Jurowskiだそう。真ん中がMichailovichなので、おじいさんのお父さんはMichail ナントカJurowski。一体何代連続でウラディミールとミハイルを交互に名づけてるんでしょうね。全くひどくロシア的。息子はMichailではないみたいなので連鎖は断ち切れたか。

Jurowski、弱冠40歳の指揮者ですが、今まで何回か聞いた中ではあまり肌感覚が合わなくて、どちらかといえば敬遠気味の指揮者です。

本日の席はBalcony、Balconyだけだと入りは5割入っていたかなあ・・・?というくらい。
演奏の最初に、Jurowskiから一言あり、今日(ときたる土曜のプログラム)は、人権を考えながら聴いて欲しいと。今日の1番古い演目が作曲されてから150年、最も新しいもので60年がたっているけれど、その間に世界において人権に対する認識が思うように改善されたとは言えず、未だにそれが理由で監獄にいる人、亡命している人がいる。今日は世界で人権問題が解決されずに苦しんでいる人々のことを思い、ベートーヴェンの5番も、メインの曲という意識ではなく、今日の5曲を1曲と捉えて、第5楽章のつもりで聴いて欲しいと。最初はどういうこっちゃと思ったのですが、曲をもう一回見て、演奏を通しで聴いて、得心がいきました。この演出、考え方、試み、選曲方法、私には始めてで、面白かったし、5番をすごく新たな視点、気持ちで聞くことができました。この点、Jurowskiには大きく感謝です。


第1楽章:Fidelio序曲
古典配置で始まるFidelio。フルートは木管フルート、トランペットはナチュラル・トランペットでした。こだわるなあ。しかし、演奏のレベルはけして高くなかったです。ホルンは何回か音取れてませんでしたし、音の入り、音の終わりもばらばら(Jurowskiの指揮は、結構アインザッツとか分かりにくいと思うのよね)。ベートーベンの序曲は好きなピースばかりなのでちょっとがっかりしました。チケット取るときは、ベートーベンで始まってベートベーンで終わるプログラミングなんだ、としか思っていませんでしたが、圧政に対し無実の罪で捕まった人を題材にしているフィデリオでなきゃいけないんですね(レオノーレでもいいけど)。


第2楽章:ナポレオン・ボナパルトへの頌歌
バイロンの詩に、シェーンベルクが音をつけた作品。今日のシェーンベルク2作品は、初めて聴きました。ナレーターはRobert Heyward。ピアノと、弦5部、それからナレーターの構成。やっぱりシェーンベルクはよく分かりません。理解することすら放棄したような。


第3楽章:ワルシャワの生き残り
ナレーターはRobert Heyward。フルオケ、しかも打楽器がかなり多かったですが、金管のミュートがやっぱり不気味ですよね。ワルシャワの強制収容所で殺されそうになった男が生還して、当時の体験を語るという話になっています。ちなみに、今日のコンサートはDeutsche Bankが若者たちを教育目的でスポンサードしているそう。演目を知って、ですよね。最後に、男性合唱が入ります。何をいっているのかわかりませんでしたが、Chorからまっすぐに届いてくる男性だけの合唱、それから不気味なオーケストラ、鬼気溢れるナレーション。テーマ的に一度いったことのある強制収容所を思い浮かべてしまい、こう、いやーな気分になりました。政治色の強い曲2曲続けてでしたけど、いやーな気分になるのは仕方ないというか、狙い通りなんでしょうね。


第4楽章:Julius Fucik(UK Premiere)
Fucik役はOmar Ebrahim、ナレーター(?)はMalcolm Sinclair。UKプレミアだそう。チェコのジャーナリストで、最終的にナチスに拘束され、拷問の上殺害されたJulius Fucikを題材に、Luigi Nonoが作曲した作品。曲を聞くのも初めてなら、Julius Fucikという人名を聞くのも初めてでした(予習はしましたけど)。Nonoは、シェーンベルクの娘の夫だとか。Fucik同様、共産主義者だったそうで、それでFucikが題材になったんですね。
曲は、これまた楽器がオケの各所からばらばらになり、所々に途中にステージに上がってきたFucikの回想の台詞、ナレーターの台詞が入るという面白い曲でした。打楽器も多用されていて、オケの左、中央、右に置かれているティンパニやらドラムやらから強烈な音が客席に飛んできます。各楽器は音を鳴らしてもそれは短い間のことで、力強く、なんというか色々な感情の発露のように感じました。生オケならではですね、というか生じゃないとこの緊迫感、切迫感、パワーは感じられないかも。不思議な曲でしたけれど、回想の台詞もあるせいか、シェーンベルクよりは分かりやすかったし、聴く機会があってよかったな、と素直に思えるほど圧倒されました(理解できたとはいいがたいですが)。Chorの上にはスクリーンで映像が映し出され、Fucik役の人は客席からずっと懐中電灯で照らされていて、客席もステージも真っ暗という、単純に音楽という形より、実験的演劇に近いものを感じました。


第5楽章:ベートーベン 交響曲第5番
Julius Ficikが終わりかけるとき、スクリーンには彼が最期まで闘い抜いたこと、首を落とされようとも屈しない人間の強さを表したメッセージが掲げられました(本当に斬首、だったんですね)。そのJulius Fucikが終わってすぐ、一拍おかずにベートーベンの第5番に突入。Jurowskiが、演奏前に言ったように、第5楽章なのです。理解できました。収容所でなくなったJulius Ficik、その魂を称えるかのような第5番の主題。メロディの何と力強く、美しいことか(シェーンベルク、Nonoを聞いたあとだから、余計メロディラインがはっきりしている曲が響きます・・・)。演奏も、少々強弱があざといなー、クラリネットのピッチがあってないなー(戻りましたが)、ホルンが相変わらず不安定だなー、とおもうところもありましたが、些細なことです。と思わせるくらい無用に力強さだけを強調したのではなく、いい意味で力が入っている演奏でした。フィデリオと違って、Jurowskiの指揮も的確、第2楽章のメッセージ、第3楽章のコントラバス・チェロ・ヴィオラのメロディ、オーボエとフルートの音色のよさ、ファゴットの叙情性、ティンパニの正確さは見事(とところどころのJurowskiの踏みしめる足音 笑)。なんだ、フィデリオは練習不足か、と思わせるほど。あ、フルート、トランペットは夫々木管フルート、ナチュラル・トランペットに戻っていました。


終わったらBravoですよ。Jurowski&LPOと私は相性が悪いと思っていたのですけれど、今回の演奏の後半(今回のメッセージ的には第4楽章と第5楽章というべきでしょうか)はそれを払拭するに足る演奏でした。だから生オケはやめられない(でもJurowskiのチケットは買い足さないかも)。Jurowskiの指揮は、統率してオケを一本に纏めていくというよりも、画用紙に筆を振って色を落としていくという感じがしました(何分感覚的なものですが)。

隣のおじいちゃんと、今日は夜は零度以下に下がるけど、後半のあの演奏聞けたんだから来た価値あったね、と話しました。おじいちゃん、Fidelioのとき拍手してなかったね。。。気が合うね。


外に出ると、Southbankのテムズ川沿いにクリスマス・マーケットが出ていました。しかし、Gluehweinが4.5ポンド!高い、高いよ!ということで飲むのはあきらめて帰りました。ドイツではマグカップ代入れて同じような値段ですよ。紙のコップでそれはぼったくりだわ。