あたしはすぐ物語に影響される。昨日読んだ物語がじわじわあたしを侵食する。あまり本は読まない方がいいのかも知れない。ツキコさんは昨日書いた物語の主人公の名前だ。漢字で月子。センセイはツキコさん、と呼ぶ。ツキコさん・・。呟いただけで涙がでる。ツキコさんになりたい。ツキコさんはちゃんとしたOLだ。東京で一人暮らし。居酒屋通い。ちゃんとした、というのも変だがバイトでしかも嫌々親と暮らす情けないあたしはツキコさんに憧れる。しかも多生の縁の人と出会えた。最終的に一人になるからセンセイの方がいいか。楽しい余生。大切な人と終える人生。ツキコさん・・。あたしは頑張れますか?ちゃんとした仕事に付けますか?多生の縁はありますか?相手のいない呟きが宙を舞う。ツキコさんは部屋ではあまり飲まない。もっぱら馴染みの居酒屋だ。馴染みの居酒屋というのがまたいい。毎日部屋で一人酒を呑むあたしはふと誰かと呑みたいな、と思う。誰とも上手く暮らせないあたしがそんなこと思うのは妙だ。でもあたしもセンセイみたいに気が合う人なら一緒に呑みたいのかも知れない。ツキコさん・・。あたしはまた呟く。あたしは誰なのか分からなくなる。袖ふれあうも多生の縁。物語は甘く、そして怖い。優しい優しい悲劇だ。