本日は少し前に読んだ本、
エディ・デ・ウィンド『アウシュヴィッツで君を想う』(早川書房)に
ついてのお話です。
どうぞ、おつきあいくださいませ。
そもそもは、タイトルに惹かれて読み始めました。
原著は1946年出版。
「アンネの日記」(1947年刊)と同じオランダで、
それよりも早く刊行されています。
ユダヤ系オランダ人の医師である著者は
看護師の妻フリーデルと共にアウシュヴィッツに送られました。
男女別々の棟に収容されたものの、幸いにも、二人は、
互いの安否を知り、時には言葉を交わすこともできる環境で
励まし合いながら、過ごします。
二人が完全に別れ別れになるのは、およそ一年半後、
赤軍(ソ連軍)が進軍し、
ナチス・ドイツの敗色が濃くなってからでした。
フリーデルは、仲間を説得しきれず、
結局、収容所から移動することを選びます。
フリーデルを止めることの出来なかったハンスは
脱走グループに加わり、フリーデルを追いますが・・・
以上は、全て医師のエディ・デ・ウィンド(ハンス)が
アウシュヴィッツ収容所の日々を、解放直後に書き綴った記録です。
解放されたとはいえ、戦争はまだ終わっておらず、
自身も収容所に留まり、医療活動を続けていました。
回想の一人称ではなく、ハンスという青年に仮託された
三人称で語られ、仲間内でのやりとりも克明に描かれるのは
まだ、著者が収容所内に留まっているゆえかも知れません。
いつもながら、アウシュヴィッツ収容所の毎日は、
目をおおいたくなることが多々出てきます。
些細な事柄まで細かく書かれ、いっそう生々しく・・・
その非日常が日常と化している様が、不気味です。
そのなかで・・・
一貫して綴られるのは、タイトル通り、妻フリーデルへの想いでした。
ハンスは「アウシュヴィッツで君を想う」のです・・・
そして、時には無謀な行動すらもとります。
収容所内でも、まっすぐに人を想い、互いに愛を育んでいける・・・
非日常が日常と化した暮らしの中で、
救いでもあり、時に不安な苦しみでもあり・・・
さて・・・本書(2020年版)では
本編のあとに「家族によるあとがき エディ・デ・ウィンドの生涯」が
添えられています。
本編以上に、辛かったのは、こちらの方だったかもしれません
ああ、やっぱり・・・と、やりきれなくて・・・
ネタバレになるので、ここでは伏せませすが・・・
ひとつだけ言うと、
戦後、著者は、収容所での暮らしが、心の傷となり、苦しめられていました。
そして、精神科医として、トラウマ治療を専門としたそうですです・・・
ホロコーストを乗り越えても、人生は続き・・・
記憶は試練となって、被害者に重くのしかかる・・・
そのやるせなさに、心が重くなります。
ホロコーストはナチスの犯罪ですが、
ジェノサイド(大量殺人)は、その後の歴史でも現われ・・・
また、コロナ禍では、ヘイトクライムも多発していると・・・
人の心と体に受けた傷は、生涯、消えない・・・
そのことを、鋭く突きつけられたようでした・・・
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おつきあいいただき、どうもありがとうございました。
本日も、せめて画像は美しくと、大庭城址公園の薔薇の花を添えました。