厭な小説／京極夏彦／8点

さすが京極作品。明らかにキワモノなタイトルなのに、人間の本質的な課題を提起しつつ、しかもきちんとエンターテインメントになっている。厭という感情の見事な分析に舌を巻きました。

厭な子供、厭な老人、厭な扉、厭な先祖、厭な彼女、厭な家、厭な小説。。。厭という感情を主題とした連続短編小説です。何でも、厭という感情は、排泄物の存在と共に実感される、人間の最も根源的な感情だそうですね。好きや嫌い、あるいは面白いや悲しいといった他の感情には、複雑なニュアンスがありますが、厭、はただ厭なだけ。生理的な拒否反応に根ざしている感じがします。そんな厭さ加減を、作者は色んなシチュエーションで只管に掘り下げていきます。

作品を通読すると、厭な感情は、日常からの少しのズレと、その繰り返し、で蓄積されていくことがよく理解できます。もっと大きな恐怖や嫌悪であれば、拒否か逃避の姿勢を取れるのですが、ひとつひとつの事象がそれほどでもない場合、大目に見ているうちに、段々と、心に負荷が溜まっていき、終にはぐちゃっと潰れてしまう。考えてみれば、家庭や近隣、会社などで起こる破滅的事件なども、ささいな厭の蓄積から派生するのでしょうね。上手に発散せねば、と考えてしまいます。