南スウェーデン便り

ときどき南スウェーデンの真ん中のイナカから、ときどき街からお便りします。

芝生と生物多様性

2023-06-29 07:05:22 | 街便り
この春はデンマークのドキュメンタリーシリーズ「Giv os naturen tilbage 私たちに自然を返せ」というシリーズにはまって毎週見ていた。これは3年前に放映されたものの続編なのだが、「デンマークは生物多様性ランキングにおいてヨーロッパ諸国の中で最低から4番目で、三分の一の種が死滅しつつある」というショッキングな報告から始まった。「環境への意識が高いデンマークが?」と驚いたが、どうもその数字は正しいようだ。生物多様性が損なわれる原因は大気や水質の汚染だけではなくて気候変動によるものや農業のスタイルなど多岐にわたるということが言われている。
 
この番組は昆虫学者らがプロジェクトチームを組んでデンマーク在来の昆虫たちをこれ以上死滅させないために地方自治体や工場の経営者、学校、個人に働きかける、というもので、その対策というのは具体的には主に「芝生の代わりに昆虫の好きな草花を生やす」というものだった。高速道路わきやロータリー、工場や学校や公営施設の敷地内にある芝生を、そして個人の庭の芝生を掘り返してしまう…というこのプロジェクトに対して近隣の住民や工場の顧客たちの戸惑いと反発は大きかった。芝生を美しく刈ることに生きがいを感じているデンマーク人(スウェーデン人も)がどれだけいるかということを考えると全く不思議はない。でも、これらの虫たちは芝生を食べて生きてはいけないのだ。
 
しかも、在来種の昆虫が好む花と言うのはいわゆる雑草であって、花壇にあるような美しい花ではないことが多い。「芝生を掘り返すなんてとんでもない!近くにきれいなチューリップが生えているんだからそれでいいだろう。」という人を昆虫学者が「チューリップなんて外来種の花ではダメだ。デンマークの虫はデンマークの花じゃないとだめなんだ。」と切り捨てるのを見て、「えっチューリップは外来種だったの??」とびっくりした。
 
街の美しいチューリップの花壇。
 
美しい庭の手入れが好きなガーデナーたちにとって、そんな雑草を自分の敷地にはびこらせるというのは最悪の光景だ。「お宅の庭どうしちゃったの?手入れしてないじゃない。」と言われてしまうことも間違いないだろう。昆虫の花粉媒介者としての重要性(食糧危機!)とか、生物の多様性の価値などの理屈はわかるけれど、この美しい芝生をトラクターで破壊するなんて、受け入れられない!!という人々の気持ちもわかる。
 
それでも住民たちの同意をとりつけて、芝生は掘り返され、「雑草」の種がまかれた。生えてきたものはやはりデンマークおなじみの雑草で、敷地やロータリーはやっぱり見栄えが悪くなり、手入れが今一つのように見えて一部の住民からは非難が沸き起こった。が、花が咲くと様子を見にきた昆虫学者が泣きそうになるほどいろいろな種類の蝶や蜂や虻が集まっていた。
 
この番組では何度もプロジェクトを推進する側(時には市長さんや工場長などのえらい人)と「普通の人たち」が話し合う場面がたくさん出てきて、合意に至らないことも妥協することもあり、「民主主義って大変だな」と考えさせられた。相手がコミューンのえらい人や有名人や学者でも嫌なものは嫌なのだ!
 
今年の番組では麦畑を林に変えようという地主と、その麦畑のすぐ目の前の家に引っ越したばかりの夫婦が対峙する様子が描かれていた。夫婦は「この麦畑がひろがる景色が好きでここに引っ越してきたのに、掘り返して木を植える??そんな馬鹿な」と猛反対した。その気持ちはすごくよくわかる。私の住んでいるイナカの家も敷地の二辺は麦や菜の花の畑で、もしここに木が植えられたら視界はぐっとさえぎられてしまう。
 
うちのイナカの眺め
 
 
結局、地主側が林の位置を夫婦の家から少し遠ざけるという妥協案を出し、耕地は掘り返され、植林が実行された。夫婦は「麦畑だったところに変な雑草が生えてくるだろう。」と言って憮然とした表情を隠せずにいた。
 
そして半年後、奇跡が起こった。
 
麦畑だった場所一面にびっしりと真紅のケシの花が風に揺れていたのだ。もしかしてプロジェクトチームの人が二人をかわいそうに思ってケシの種をまいたのだろうかと思ったがそうではなく、掘り起こし作業の時に地下にずっと眠っていたケシの種が地上近くに掘り起こされて発芽したのだろうという話だった。二人の顔にも笑みが戻っていた。ああ、よかった…!
 
そして何と首相官邸の庭園(一部だけだが)が「雑草の原っぱ」のようになる…というところで最終回が終わった。メッテ・フレデリクソン首相、よくやった。
 
そういうわけで、私もスウェーデンの昆虫たちの好きな花をさかせる雑草類を家に置いている。(いえ、手入れしてないだけ)
 
スウェーデンで代表的な雑草hundkäx(日本名はシャク杓と言うらしいが、シャクのほうは根がいい香りがして美味しいと書いてあるのでちょっと種類が違うような気がする。hundkäxについてはたいてい「非常用の食糧にはなるが不味い」と書かれている。)とイラクサ。(右側。となりの白い花はワイルドガーリックの花)。どちらも在来種の昆虫のお気に入りだ。
 
 

事件

2023-06-27 05:21:09 | イナカ便り

一週間イナカに滞在し、街からやってきた連れ合い(実はもうすぐ連れ合いではなくなるのだが、その件はまたいずれ)と引継ぎをしていたところ…

彼が「あっ!」と言って隣の麦畑を指さした。

…どうして麦畑に牛がいるんだろう。牧草地は隣だよ。

牧草地との間には電気柵があるはずだが越えてきてしまったもよう。脱走牛?…と思ったら、

 

横に生まれたての子牛がいた!! 子どもを産むためにこちらにやってきたのか??

 

彼が牧場主に電話をすると、まず牧場主のMさんが車でやってきて子牛を確保。肩車して車に運ぶ。

そしてその後牧場から助っ人三人と犬が来て母牛を捕まえようとしたが、これがなかなか大変でかなりてこずっていた。

最後はやっと御用となり、トラクターで牧場に戻される。

みんなが必死なので写真は撮らなかったのだけれど、あの大立ち回りを撮らなかったのは残念だったなあ…

考えてみると麦畑の持ち主がお気の毒…

子牛は男の子で元気とのこと。たしか法律があって生まれた子牛は一定期間は母牛のそばにおき母乳を飲ませることが義務になっていたはず(母親が乳牛でも)なので、今もまだいるだろうと思う。でも男の子だから長くはいられないだろう。

 


夏休み

2023-06-16 05:27:09 | イナカ便り

実質夏休みに入り、一人でイナカに泊っている。

正確に言うと寝泊まりは家ではなくてこのトレイラーハウス

 

入って窓を開け、しばらくしてもハエが入ってこないから「なんかいつもと違う」?

考えてみるといつもはうちのすぐ近くの草を食んでいる牛たちが遠くの水辺のほうにいる。もう雨が長いこと降っていないので牧草が全然育っていないのだ。農家は飼料を補給しなければならず大変そうだ。ハエが入ってこないのは有難いけれど…

うちの畑も「何か食べられるものがあるだろう」と思ったけれど、植えてある野菜たちはかろうじて生きているだけで全然大きくなっていなかった。

それに代わって元気なのは、こぼれ種から育った君たち

ルリジサ。スウェーデン語ではGurkört(きゅうりのハーブという意味)もう十年以上前に種をまいたら毎年こぼれ種から新しい芽が出る。乾きにも強い。

ハーブとしてどのような効用があるのか知らないが、花と若い葉は食べることができる。名前のとおりきゅうりのような味がする。

 

それから、これも毎年生えてくるコリアンダー。芽を出したとたんにトウ立ち…

西洋あさつきとセージの花が咲いて、虫たちがいっぱい集まっていた。

 

そういうわけで、昼ご飯は、ヨーグルトにきゅうり味の葉っぱとワイルドガーリックのなり始めの実(少しだけにんにくの香りがする)とミント、を入れて、ギリシャ風(どこが?)サラダ

この緑色のプチプチがワイルドガーリックの実


イチゴのシロップ(去年の残り)

2023-06-11 15:02:07 | イナカ便り

初夏のイナカ

これを撮ったのはしばらく前なのだけれど麦にもう穂が出ている。例年より早いような?

オダマキが咲いた。手入れ皆無なのに毎年きれいに咲いてくれてありがとう。

赤すぐりが大きくなってきた

イチゴの花もやっと咲いた

天気もいいし、虫たちも飛び回っていてくれるから多分いちごがなるだろう

…と見越して、去年作ったイチゴのシロップをうすめて飲む。

これは母がよく作ってくれた日本のレシピで、砂糖と生のイチゴと酒石酸(たぶんクエン酸でもいいのだろうと思う…スウェーデンにも両方売っているけれど違いがよくわからない)少々を瓶に入れて、砂糖がとけてイチゴがうかびあがってきたら濾して保存する。

スウェーデンのシロップ(saft) はベリーを加熱して漉してから砂糖を加えるものが多い。私は何となく母のレシピのほうが好きでほぼ毎年作っている。