何度もマーリンズとのこの試合の映像がTVで流されるのを見ていて、ふとそんなことを、宮本武蔵の「空の心」を感じました。6打数6安打3連続ホームラン2盗塁、本塁打‐盗塁「51‐51」の大谷選手の前人未到の大活躍に魅了され、多くの方々が感動と喜びを感じられたのではないでしょうか。私もその一人ですが、大谷翔平選手には昨年のWBCでの活躍を含め、素晴らしく凄い世界的トップアスリートの魅力とともに爽やかな畏敬すら感じます。
ところで、ホームランと盗塁の「51-51」を達成されたこの試合での、特に3連続ホームランの際の大谷選手の心の状況、メンタルコントロールはどうだったのでしょうか?
宮本武蔵の「空の心」のようにその時になられていたのではないかと感じました。
「ゾーン」の状態に入られていたという表現もあるかもしれません。
武蔵の「空の心」は、一言で言うと、「場数や鍛錬を重ねて到達した戦いの場における磨き抜かれた平常心」です。
特に51号ホームランは対戦チームの内野手の方が投げられた球を淡々と当然のようにジャストミートされてホームランにされたのは、「空の心」の真骨頂のようにも思いました。
宮本武蔵の「空の心」は『五輪書』等では次のように記されています。
①「此巻(このまき)、空と書顕(かきあらわ)す事。 空と云出(いいだ)すよりしては、 何をか奥と云、何をかくちといはん。 道理を得ては道理を離れ、 兵法の道におのれと自由ありて、 おのれと奇特(きどく)を得、 時にあひては拍子をしり、 おのづから打ち、おのづからあたる、 是皆(これみな)空の道也。 おのれと實(まこと)の道に入(いる)事を、 空の巻にして書とどむるもの也。」(地の巻)
②「兵法二天一流の心、水を本(もと)として、利方(りかた)の法をおこなふ」 「兵法の道におゐて、心の持様は、 常の心に替る事なかれ。 常にも兵法のときにも、少も替らずして、 心を廣(ひろ)く直にして、 きつくひつぱらず、すこしもたるまず、 心のかたよらぬやうに、心をまん中に置て、 心を静に(しずかに)ゆるがせて、其(その)ゆるぎのせつなも、 ゆるぎやまぬやうに、能々(よくよく)吟味すべし。」(水の巻)
これは切迫した真剣勝負の戦いの場面においては、平常心とあわせて、平静な状態でも決して完全に心を止めることのない心の微妙な持ち様の状態を表現しています。
③「武士は兵法の道を慥(たしか)に覚え 其外(そのほか)武芸を能(よく)つとめ 武士の行ふ道少しもくらからず 心の迷ふ所なく 朝々時々におこたらず 心意二つの心をみがき 観見二つの眼をとぎ 少もくもりなく 迷ひの雲の晴たる所こそ 実(まこと)の空と知るべき也。」
「心意二つの心をみがき 観見二つの眼をとぎ」、無心になっている状態のところが「空」の境地だと述べているわけです。400年ほど前に、武蔵は心を心意2つに分け、また見方の眼も観の目、見の目の二つに分けて分析し、それぞれの鍛錬、研(と)ぐ、みがくことの重要性を述べているわけですが、その分析力と的確性、実践性に舌を巻く思いです。
④「常往兵法の身、兵法常の身」「心の持ち様は、めらず、からず、たくまず、おそれず、すぐに広くして、意のこころかろく、心のこころ重く、心を水にして、折にふれ事に応ずる心也」(『兵法三十五箇条』)
これは上記の②について、『五輪書』の1年半ほど前に書いた『兵法三十五箇条』での表現でほぼ同様ですが、微妙な違いがあり、武蔵の考える心の持ち方がより多角的に伝わってくるのではないでしょうか。
⑤書「戦氣 寒流帯月澄如鏡」(寒流月を帯びて澄めること鏡の如し。出典:「松井文庫」)
戦いの氣と書いた「戦氣」に「寒流帯月澄如鏡」と添え書きし、「透徹した澄んだ濁りのない心」の意を表されている。上記の①~④をこの書に凝縮しているように武蔵の心が感じられます。このような「透徹した澄んだ濁りのない心」が大谷翔平選手の心ではなかったでしょうか。
ロッキーズ戦で「52-52」を達成したときのインタビューで、大谷翔平選手が「数字を意識すると伸びていかないものなので、無心で自分の役割ができるように頑張ってゆきたいと思っています。」という趣旨を述べられていましたが、大谷選手の「無心で」というのは、武蔵の「空の心」と軌を一にするのではないでしょうか。
以上のように、大谷翔平選手の大活躍をみて、宮本武蔵の「空の心」をふと感じた次第です。
大谷選手は、今年はドジャースへの移籍という環境変化、肘の故障のリハビリのため投打の二刀流が封印され、また、元通訳の方の違法賭博問題等で心や精神が乱されるようなネガティブな状況が多々ありながら、そのような重圧や不安等をまったく感じさせない明るく謙虚な人柄と笑顔で、また、ポジティブそのもののような姿勢、積極的な生き方で新たな運命を拓かれ、このような歴史的偉業を達成されたのは、なおさら素晴らしい偉業といえるのではないでしょうか。
今後とも大谷翔平選手の素晴らしい活躍をずっと見守り応援して行きたいと思っております。
大谷翔平選手に宮本武蔵の「空の心」を見たわけですが、宮本武蔵の『五輪書』や「空の心」は、スポーツだけでなく、経営にもビジネスにも人生にも様々な点で大変有用ですので、また機会を見て書いて行きたいと存じております。

(参考文献:『五輪書』宮本武蔵著 神子侃訳 徳間書店、『五輪書』宮本武蔵著 渡辺一郎校注 岩波文庫)
ところで、ホームランと盗塁の「51-51」を達成されたこの試合での、特に3連続ホームランの際の大谷選手の心の状況、メンタルコントロールはどうだったのでしょうか?
宮本武蔵の「空の心」のようにその時になられていたのではないかと感じました。
「ゾーン」の状態に入られていたという表現もあるかもしれません。
武蔵の「空の心」は、一言で言うと、「場数や鍛錬を重ねて到達した戦いの場における磨き抜かれた平常心」です。
特に51号ホームランは対戦チームの内野手の方が投げられた球を淡々と当然のようにジャストミートされてホームランにされたのは、「空の心」の真骨頂のようにも思いました。
宮本武蔵の「空の心」は『五輪書』等では次のように記されています。
①「此巻(このまき)、空と書顕(かきあらわ)す事。 空と云出(いいだ)すよりしては、 何をか奥と云、何をかくちといはん。 道理を得ては道理を離れ、 兵法の道におのれと自由ありて、 おのれと奇特(きどく)を得、 時にあひては拍子をしり、 おのづから打ち、おのづからあたる、 是皆(これみな)空の道也。 おのれと實(まこと)の道に入(いる)事を、 空の巻にして書とどむるもの也。」(地の巻)
②「兵法二天一流の心、水を本(もと)として、利方(りかた)の法をおこなふ」 「兵法の道におゐて、心の持様は、 常の心に替る事なかれ。 常にも兵法のときにも、少も替らずして、 心を廣(ひろ)く直にして、 きつくひつぱらず、すこしもたるまず、 心のかたよらぬやうに、心をまん中に置て、 心を静に(しずかに)ゆるがせて、其(その)ゆるぎのせつなも、 ゆるぎやまぬやうに、能々(よくよく)吟味すべし。」(水の巻)
これは切迫した真剣勝負の戦いの場面においては、平常心とあわせて、平静な状態でも決して完全に心を止めることのない心の微妙な持ち様の状態を表現しています。
③「武士は兵法の道を慥(たしか)に覚え 其外(そのほか)武芸を能(よく)つとめ 武士の行ふ道少しもくらからず 心の迷ふ所なく 朝々時々におこたらず 心意二つの心をみがき 観見二つの眼をとぎ 少もくもりなく 迷ひの雲の晴たる所こそ 実(まこと)の空と知るべき也。」
「心意二つの心をみがき 観見二つの眼をとぎ」、無心になっている状態のところが「空」の境地だと述べているわけです。400年ほど前に、武蔵は心を心意2つに分け、また見方の眼も観の目、見の目の二つに分けて分析し、それぞれの鍛錬、研(と)ぐ、みがくことの重要性を述べているわけですが、その分析力と的確性、実践性に舌を巻く思いです。
④「常往兵法の身、兵法常の身」「心の持ち様は、めらず、からず、たくまず、おそれず、すぐに広くして、意のこころかろく、心のこころ重く、心を水にして、折にふれ事に応ずる心也」(『兵法三十五箇条』)
これは上記の②について、『五輪書』の1年半ほど前に書いた『兵法三十五箇条』での表現でほぼ同様ですが、微妙な違いがあり、武蔵の考える心の持ち方がより多角的に伝わってくるのではないでしょうか。
⑤書「戦氣 寒流帯月澄如鏡」(寒流月を帯びて澄めること鏡の如し。出典:「松井文庫」)
戦いの氣と書いた「戦氣」に「寒流帯月澄如鏡」と添え書きし、「透徹した澄んだ濁りのない心」の意を表されている。上記の①~④をこの書に凝縮しているように武蔵の心が感じられます。このような「透徹した澄んだ濁りのない心」が大谷翔平選手の心ではなかったでしょうか。
ロッキーズ戦で「52-52」を達成したときのインタビューで、大谷翔平選手が「数字を意識すると伸びていかないものなので、無心で自分の役割ができるように頑張ってゆきたいと思っています。」という趣旨を述べられていましたが、大谷選手の「無心で」というのは、武蔵の「空の心」と軌を一にするのではないでしょうか。
以上のように、大谷翔平選手の大活躍をみて、宮本武蔵の「空の心」をふと感じた次第です。
大谷選手は、今年はドジャースへの移籍という環境変化、肘の故障のリハビリのため投打の二刀流が封印され、また、元通訳の方の違法賭博問題等で心や精神が乱されるようなネガティブな状況が多々ありながら、そのような重圧や不安等をまったく感じさせない明るく謙虚な人柄と笑顔で、また、ポジティブそのもののような姿勢、積極的な生き方で新たな運命を拓かれ、このような歴史的偉業を達成されたのは、なおさら素晴らしい偉業といえるのではないでしょうか。
今後とも大谷翔平選手の素晴らしい活躍をずっと見守り応援して行きたいと思っております。
大谷翔平選手に宮本武蔵の「空の心」を見たわけですが、宮本武蔵の『五輪書』や「空の心」は、スポーツだけでなく、経営にもビジネスにも人生にも様々な点で大変有用ですので、また機会を見て書いて行きたいと存じております。

(参考文献:『五輪書』宮本武蔵著 神子侃訳 徳間書店、『五輪書』宮本武蔵著 渡辺一郎校注 岩波文庫)