エコキュートという温水器を聞いた事があるかと思います。ヒートポンプを使ってお湯を沸かす機械で、投入した電力の3倍以上の熱エネルギーが得られるというものです。ヒートポンプといえば、昔から、冷蔵庫やエアコンなどに使われていましたが、お湯を沸かす場合は、多少異なります。
以下の図は、みんな、斎川路之,橋本克己,"給湯用CO2ヒートポンプサイクルの効率評価-理論効率の評価と特徴把握",日本冷凍空調学会論文集Vol.18,No.3,(2001),pp217-223から拝借したものです。
まず、エアコンの暖房運転について、考えます。
エアコンの場合は、室内の温度を一定に保つのが目的です。一定温度の冷たい外気から、熱媒が沸騰して熱をもらい、凝縮して一定温度の室内に放熱します。ですから、この図のように、逆カルノーサイクルのようになります。
ところが、お湯を沸かすのは、冷たい水を「昇温」して、お湯にしますので、低温熱源の外気温が一定なのは同じですが、高温熱源のほうは、温度が上がっていくことになります。
熱媒のほうから見ると、低温側では、一定温度ですから沸騰する事は同じですが、高温側では、凝縮せずに、放熱するにしたがって冷めていくほうがT-S線図の面積(=動力)が小さくてすみます。そこで、使用する熱媒は、高温側では相変態を伴わない超臨界流体で、低温側では、沸騰するようなものということで、二酸化炭素が選ばれました。
具体的なT-h線図は、こんな感じです。(赤と青の線は、私が書き足しました。)
低温の水を沸かしてお湯にするときは、効率がいいのですが、問題は、お風呂が少し冷めたときに追い焚きする場合です。このときには、お風呂のお湯は、少し冷めているとはいっても、40℃近くあります。普通のヒートポンプでは、高温側から低温側に圧力を下げるのに、膨張弁を使いますから、この図の赤い矢印のように等エンタルピー変化です。そうすると、外気からもらえる熱が急に小さくなってしまいます。
NITEの安井至理事長が「市民のための環境学ガイド」の中で、太陽熱温水器について、「本来は、エコキュートと組み合わせて使うのが良いに決まっているのだけど、電力会社が余り積極的でない。」と、嘆かれていましたが、太陽熱温水器のように、もともと、50℃も沸いてしまいますと、そこからヒートポンプで加熱するのは、苦手で、電気ヒータと同じくらいの効率しか得られなかったりします。もっとも、十分な量が50℃まで沸いていれば、さらに沸かす必要はないのですが。
ひとつの解決策として、膨張弁で減圧せずに、タービンを回して動力を回収するという方法があります。そうしますと、図の青い矢印のように、等エントロピー変化になりますから、外気からもらえる熱量が大きくなります。さすがに、実機では、タービンは無理ですので、可動部分のない、エゼクタをつかって、圧力エネルギーの一部を回収する方法が取られているそうです。
【追記】
太陽熱温水器とエコキュートの相性があまりよくない理由がもうひとつある事を書き忘れていました。それは、時間的な関係です。
日本の家庭の温水需要は、ほとんどがお風呂とシャワーです。大半の人は、入浴を夕方から夜にかけてします。そうして、エコキュート(電気温水器でも同じですが)がお湯を沸かすのは、深夜で、太陽熱温水器がお湯を沸かすのは、日中です。
お湯を使い終わった時を起点に考えますと、先にエコキュートが沸かす番が来て、それから、太陽熱温水器の順になります。
晴れの日は、太陽熱温水器のお湯を使い、曇りや雨の日は、エコキュートが沸かすとしたら、エコキュートは、翌日の天候を予想して、その前に沸かすかどうかを決めなければいけなくなります。将来的には、エコキュートが電力会社から情報をもらって、そういうことが出来るかもしれませんが、それでも、入浴中にお湯が切れたら間に合いませんので、安全側に考えて、多めに沸かすことになるでしょう。
エコキュートと太陽熱温水器とがそれぞれタンクを持っていて、エコキュートのお湯を使うか、太陽熱温水器のお湯を使うかは、使うときに決める事で、解決するように思えるでしょうが、そのすると、何日も晴れの日が続いて、太陽熱温水器のお湯ばかり使っていると、エコキュートのタンクは、冷めてきます。そうして、冷めかけたお湯を沸かし直すというのは、本文中にも書きましたように、エコキュートにとっては、苦手な事なのです。
以下の図は、みんな、斎川路之,橋本克己,"給湯用CO2ヒートポンプサイクルの効率評価-理論効率の評価と特徴把握",日本冷凍空調学会論文集Vol.18,No.3,(2001),pp217-223から拝借したものです。
まず、エアコンの暖房運転について、考えます。
エアコンの場合は、室内の温度を一定に保つのが目的です。一定温度の冷たい外気から、熱媒が沸騰して熱をもらい、凝縮して一定温度の室内に放熱します。ですから、この図のように、逆カルノーサイクルのようになります。
ところが、お湯を沸かすのは、冷たい水を「昇温」して、お湯にしますので、低温熱源の外気温が一定なのは同じですが、高温熱源のほうは、温度が上がっていくことになります。
熱媒のほうから見ると、低温側では、一定温度ですから沸騰する事は同じですが、高温側では、凝縮せずに、放熱するにしたがって冷めていくほうがT-S線図の面積(=動力)が小さくてすみます。そこで、使用する熱媒は、高温側では相変態を伴わない超臨界流体で、低温側では、沸騰するようなものということで、二酸化炭素が選ばれました。
具体的なT-h線図は、こんな感じです。(赤と青の線は、私が書き足しました。)
低温の水を沸かしてお湯にするときは、効率がいいのですが、問題は、お風呂が少し冷めたときに追い焚きする場合です。このときには、お風呂のお湯は、少し冷めているとはいっても、40℃近くあります。普通のヒートポンプでは、高温側から低温側に圧力を下げるのに、膨張弁を使いますから、この図の赤い矢印のように等エンタルピー変化です。そうすると、外気からもらえる熱が急に小さくなってしまいます。
NITEの安井至理事長が「市民のための環境学ガイド」の中で、太陽熱温水器について、「本来は、エコキュートと組み合わせて使うのが良いに決まっているのだけど、電力会社が余り積極的でない。」と、嘆かれていましたが、太陽熱温水器のように、もともと、50℃も沸いてしまいますと、そこからヒートポンプで加熱するのは、苦手で、電気ヒータと同じくらいの効率しか得られなかったりします。もっとも、十分な量が50℃まで沸いていれば、さらに沸かす必要はないのですが。
ひとつの解決策として、膨張弁で減圧せずに、タービンを回して動力を回収するという方法があります。そうしますと、図の青い矢印のように、等エントロピー変化になりますから、外気からもらえる熱量が大きくなります。さすがに、実機では、タービンは無理ですので、可動部分のない、エゼクタをつかって、圧力エネルギーの一部を回収する方法が取られているそうです。
【追記】
太陽熱温水器とエコキュートの相性があまりよくない理由がもうひとつある事を書き忘れていました。それは、時間的な関係です。
日本の家庭の温水需要は、ほとんどがお風呂とシャワーです。大半の人は、入浴を夕方から夜にかけてします。そうして、エコキュート(電気温水器でも同じですが)がお湯を沸かすのは、深夜で、太陽熱温水器がお湯を沸かすのは、日中です。
お湯を使い終わった時を起点に考えますと、先にエコキュートが沸かす番が来て、それから、太陽熱温水器の順になります。
晴れの日は、太陽熱温水器のお湯を使い、曇りや雨の日は、エコキュートが沸かすとしたら、エコキュートは、翌日の天候を予想して、その前に沸かすかどうかを決めなければいけなくなります。将来的には、エコキュートが電力会社から情報をもらって、そういうことが出来るかもしれませんが、それでも、入浴中にお湯が切れたら間に合いませんので、安全側に考えて、多めに沸かすことになるでしょう。
エコキュートと太陽熱温水器とがそれぞれタンクを持っていて、エコキュートのお湯を使うか、太陽熱温水器のお湯を使うかは、使うときに決める事で、解決するように思えるでしょうが、そのすると、何日も晴れの日が続いて、太陽熱温水器のお湯ばかり使っていると、エコキュートのタンクは、冷めてきます。そうして、冷めかけたお湯を沸かし直すというのは、本文中にも書きましたように、エコキュートにとっては、苦手な事なのです。
それで、初めて見たエントリーがこれだったわけですが、あれ?と思いましたからコメントさせていただきます。
>問題は、お風呂が少し冷めたときに追い焚きする場合です。
お風呂の「追い焚き」の時にはエコキュートはコンプレッサーを運転しません。
誤解があるようです。
既に沸いた最高温部(タンク上部)の熱交換器に風呂水を通して加温します。約40℃の湯を加温する関係上、タンク上部の湯温は60℃以上が求められ、それで追い焚きが苦手という話なら納得できます。追い焚きには「タンクの湯が約60℃に冷めるまで」という限界があるのです。
コンプレッサーを運転する「沸き増し」の時には、加熱部であるタンク最下部はたいてい冷水で満たされています。
なお、エコキュートの燃料費=電気代が非常に安価なため、太陽熱温水器の設置コストをペイできません。設置しても年間数千円浮く程度でしょう。年間5000円として、40年ほどかけてやっと元が取れる程度のメリットしかありません。エコキュートの電気代は、千円あまり/月と言われています。
太陽風呂にはゴミ、水垢という問題もあって、エコキュートに給水(給湯?)できませんし。
既に設置しているお宅には、別途専用給湯栓を付けてもらうくらいの対応でしょう。多くは屋根の傷みを考慮して撤去なさっているようです。
おっしゃるとおり、エコキュートは、お風呂の追い焚きのときに、コンプレッサで、直接お風呂のお湯を加熱するわけではありません。細かくは、メーカによって、何種類か方法があるのですが、深夜に沸かしたタンクの熱湯を冷ましながら、その熱でお風呂のお湯を追い焚きします。
熱湯を冷ますと言いましても、当然、お風呂の温度以下まで冷ますことはできませんから、亜梨沙さんのおっしゃるように、例えば、60℃程度の冷めたお湯になってしまいます。そうして、深夜にタンクの中を元の熱湯で満たそうとすると、その冷めたお湯をヒートポンプで加熱する必要がありますから、冷たい水を沸かすのよりも、効率が低くなるという事が言いたかったのです。
そこの説明を省略してしまいましたので、わかりにくくて、申し訳ありませんでした。
私が太陽熱温水器として、想定していましたのは、屋根の上に大気開放のタンクもある古いタイプではなく、地上に圧力タンクを設置して、屋根の上のパネルとの間をポンプで循環させる、正確には、「ソーラーシステム」と呼ばれるものでした。この方がシャワーの勢いもありますし、効率も高いそうですから、今後の発展を考えると、こちらだろうと思ったのです。
経済性と、省エネ性のどちらを優先させるかは、個人の思想の問題になりますから、一概に決めることは、できないと思います。
低温側熱源に太陽熱温水器の温水を使用するというアイディアは、面白いと思います。
ただ、問題なのは、太陽熱温水器の温水温度は、天候や気温によって、まちまちだということです。もし、熱媒に二酸化炭素を使うとしたら、二酸化炭素の臨界点は、31.1℃ですから、低温側が普通のエバポレータになるT-S線図で直角三角形のようなものから、ガスヒータになるT-S線図でひし形のようなものまで対応できなくてはなりませんので、コンプレッサや熱交換器の設計がすごく難しくなると思います。
温水温度に応じて、熱媒の種類と混合比を変える事が出来ればいいのでしょうが、家庭用に使うには、システムが大掛かりになりすぎると思います。