なんてことない日々…

何気ない日々の出来事や趣味のお話をしてみたいな♪
あと、いつも作ってる簡単手抜きレシピとか(笑)

文学少女と死にたがりの道化(ピエロ)

2009年12月24日 | 本のこと

【著者】 野村 美月

【イラスト】 竹岡 美穂

【内容】 天野遠子・高3、文芸部部長。自称“文学少女”。
     彼女は、実は物語を食べる妖怪だ。
     水を飲みパンを食べる代わりに、本のページを
     引きちぎってむしゃむしゃ食べる。でもいちばんの好物は、
     肉筆で書かれた物語で、彼女の後輩・井上心葉は、
     彼女に振り回され、「おやつ」を書かされる毎日を送っていた。
     そんなある日、文芸部に持ち込まれた恋の相談が、
     思わぬ事件へと繋がって……。

     「どうかあたしの恋を叶えてください!」
     何故か文芸部に持ち込まれた依頼。
     それは、単なる恋文の代筆のはずだったが…。
     物語を食べちゃうくらい深く愛している“文学少女”天野遠子と、
     平穏と平凡を愛する、今はただの男子高校生、井上心葉。
     ふたりの前に紡ぎ出されたのは、人間の心が分からない、
     孤独な“お化け”の嘆きと絶望の物語だった―。
     野村美月が贈る新味、口溶け軽めでちょっぴりビターな、
     ミステリアス学園コメディ、開幕。

 

 

息子に進められたラノベ小説・・・
正直『ラノベなんて』と小ばかにしてた部分大有り
しかし
侮るなかれラノベ
もう、毎巻涙なくしては読めなかった~


本編は今回紹介する『死にたがりの道化(ピエロ)』
『飢え渇く幽霊(ゴースト)』
『繋がれた愚者(フール)』
『穢名の天使(アンジュ)』
『慟哭の巡礼者(パルミエーレ』
『月花を孕く水妖(ウンデーィーネ)』
『神に臨む作家(ロマンシェ)上・下』
の合計8冊。
各章1冊(最終のみ上下2冊)で一つのお話しが完結する短編と、
全8冊通して紡がれる長編の二つのストーリー
現在は番外編の挿話集が2冊と、続編(?)が刊行中。


毎回、有名文学小説を題材としたストーリー展開。
最初の『死にたがりの道化(ピエロ)』のネタ本は
太宰治の『人間失格』が題材でした。


主人公の井上心葉(いのうえこのは)は、中学2年生の時に
気まぐれで応募した小説が史上最年少で大賞を受賞。
ドラマ化や映画化までされ、一大センセーションを巻き起こす
超期待の新人小説家としてデビューするのだけど、
それが元で引きこもり少年となってしまう。

そんな彼の座右の銘は『君子危うきに近寄らず』
しかし、高校に入学してまもなく、
何故かいつの間にか引っ張り込まれてしまった文芸部・・・
そこには、黒髪を腰までの三つ編みにした見るからに大和撫子の
自称『文学少女』の天野遠子(あまのとおこ)先輩が。
彼女は、世界中の本を食べてしまいたいくらいに愛する・・・
というか、本当にパリパリと食べてしまうおかしな先輩。

その文芸部に、ある日「恋をかなえてください」という
なんともおかしな依頼が舞い込みます。

遠子先輩が手書きの甘~い恋愛成就レポートを食べたいがために
設置した恋愛相談ポストに舞い込んだ依頼だった・・・


依頼を持ち込んだのは、1年生の武田千愛(たけだちあ)
彼女はずっと自分が周りに嘘をついて生きていると・・・
その嘘が皆にばれるのが怖くてビクビクと生きていた。

楽しそうに笑う皆の何がそんなに楽しいのか分からない・・・
皆が可哀想だと泣く・・・でも自分は涙が出ない・・・
人が普通に感じている喜びも哀しみも、楽しさも切なさも
自分には何一つ分からない。
だけど、自分が感情を持っていない化け物だと
周りの人に知られるのが怖い・・・
そんなことを皆が知ったら、自分は化け物だと罵られ
誰からも相手をされなくなってしまう・・・
皆を騙し続けなければ・・・

皆が泣いてる・・・分からないけどとにかく一緒に泣かなきゃ。
皆が笑ってる・・・分からないけどとにかく一緒に笑わなきゃ。
皆が喜んでる・・・分からないけどとにかく一緒に喜ばなきゃ。
皆が怒ってる・・・分からないけどとにかく一緒に怒らなきゃ。

そんな彼女が見つけた一つのメッセージ。
同じように悩み、苦しみ、喘ぐ彼の心の叫びに共鳴し
彼の真実を探ろうとする千愛・・・
彼だけが自分の苦しみを本当に理解してくれると信じる千愛・・・

千愛のことを、そして彼女が想いを寄せるメッセージの相手のこと・・・
心葉と遠子が探りたどり着いた結末は・・・


自分は生きている価値はないのだと涙を流す千愛に
生き続ける限り、一生この苦しみからは逃れられないのだと、
だから死にたいのだと号泣する千愛に、
文学少女の天野遠子が人間失格の別側面からの物語と
人間失格の作品からは読み取れないであろう
別の顔の太宰治のことを、優しく読み聞かせていくのだ。


きっとあなたの苦しみを分かってくれる人は
この世にはもしかしたらいないのかもしれない・・・
だけど、本当に苦しみしかなかったの???
これから先も、本当に苦しみしかないの???
もっと沢山のことを経験して、沢山の人と出会って、
自分がついている嘘がばれる時が来るかもしれない。
でも、その時に本当にその人はあなたを罵るの?
あなたの傍を必ず離れていってしまうの???
ずっとずっと傍に居てくれるかもしれない・・・
本当に嬉しいと感じられる時が来るかもしれない。
そんな明るい未来を自分の手で摘み取ってしまってはダメだと・・・
死んではダメなんだと・・・

優しく、でもとても強く、心に響く。

きっと、思春期の彼らには少なからずあるであろう
青春の中でしか感じられない不安や苛立ちや苦しみを
ものすごく優しく、暖かく、柔らかな感情へと変えてくれる。

文中、天野遠子が、いろんな文学を味で例えるのだが
彼女の語るそれは、本当に美味しそうで、
例えばドロドロの愛憎劇たっぷりな小説をも
優しく可愛らしく、暖かで深い愛情の物語に変えてしまう。

この小説を味で例えるなら・・・
焦げた生地がちょっぴりほろ苦くて
でも、ほんのり甘酸っぱいレモンパイ・・・かな?

そんな彼女の魔法に、今までは暗くて重そうだからと
ずっと敬遠していた『人間失格』を買わされてしまった
なんとも単純なみゅうなのでありました~

この本、是非読んでもらいたい!
忘れていた何かをそっと思い出させてくれる。
心の中をホンワカと暖かくしてくれる。
そんな魔法がいっぱい詰まっていますよ