乾正人 やはり外務省は国を誤らせた

【大手町の片隅から】乾正人 やはり外務省は国を誤らせた

もうすぐクリスマスです。といっても僕は、クリスチャンでないので関係ありません。

といった作文を、小学生のときに書いて担任の先生を鼻白ませた記憶がある。信者でもないのにクリスマスを熱心に祝う日本人の風潮を苦々しく思っていたのだが、親や親戚からのプレゼントは、しっかりもらっていた。書いていることと、やっていることが違うのも昔からである。

恫喝に屈した共同通信

今年は、ひと足早いクリスマス・プレゼントを外務省からもらった。

20日、30年の歳月を経て公開された外交文書である。天皇、皇后両陛下の中国訪問をめぐるメディア工作が、生々しく記録されているのだ。

ときは、宮沢喜一政権だった平成4年。天皇訪中に積極的だった外務省の小和田恒外務次官(以下、肩書はいずれも当時)は、2月13日の幹部会議で「訪中前に国内プレスの報道が否定的な状況になれば、行けなくなることもあり得る」と述べ、メディア対策に本腰をいれるよう檄(げき)を飛ばした。

さっそく同月25日、親中派の谷野作太郎アジア局長が中曽根康弘元首相を訪ね、「読売あたりでもう少し声を出してくれるとありがたいのだが。渡辺(恒雄)社長に働きかけていただけないか」と懇請した。元首相も「今晩会うので話しておこう」と請け負った。渡辺氏と元首相とが「盟友」といえる関係なのを利用した政治的工作が、どれだけ効いたかは不明だが、読売新聞が天皇訪中に前向きな論調だったのは事実だ。

谷野氏はNHK解説委員長にも「NHKも(訪中の)積極的意義を認識し、実現の方向で風を起こしてもらえまいか」と、公共放送の報道内容に〝干渉〟している。

 

最も酷(ひど)いのは共同通信への恫喝(どうかつ)である。橋本恕駐中国大使は、一時帰国中の6月26日に共同通信の犬養康彦社長と面会し、北京支局発の記事をとりあげ「意図的に天皇訪中をぶち壊そうとしているとしか考えられない」と非難。こうした記事が続けば、「中国側は支局閉鎖とか、特派員の国外退去とかの措置に出ると思う。その際、大使館としては助けることはできない」と恫喝した。

これでは、どこの国の大使かわからない。

犬養社長は「本社は天皇訪中に賛成である旨十分徹底させ、ご迷惑をかけることが今後はないよう注意する」と述べ、全面降伏した。

まったくもって情けない。日ごろ、「反自民」的記事が多く、リベラル色が濃いとみられている共同通信の実態がよくわかる。

銭其琛外相の「勝利宣言」

手前味噌(みそ)だが、外務省幹部の説得工作に節を曲げなかったのは、産経新聞の清原武彦編集局長と住田良能外信部長だけだった。

清原氏は「天安門事件で中国は国際的に孤立したが、日本の天皇が訪中されれば中国にとっては大きな救いの手になる」と指摘したが、まったくその通りの展開となった。

 

訪中工作に携わった中国の銭其琛外相は、回顧録で「西側の対中制裁を打破するうえで、積極的な作用を発揮した」と勝利宣言をしている。

中国のその後は言わずもがな。外務省が中国に贈ったプレゼントは、百年の禍根を遺(のこ)したのである。(コラムニスト)

=次回は1月12日掲載予定

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