「日本は今のうちに領土を取り返しなさい」と助言…

「日本は今のうちに領土を取り返しなさい」と助言…

昨年12月、激戦が続くウクライナ東部ドネツク州に足を踏み入れる機会があった。前線に近い都市クラマトルスクの軍拠点へ物資を運ぶ支援団体の同行取材だった。

現地で宿泊させていただいたお宅で、おばあさんのナディアさん(63)が言う。「この戦争は日本にとってチャンスよ。いまのうちにロシアから領土を取り返しなさい

先の大戦の終戦直後にソ連(当時)が不法占拠した北方領土のことだ。ウクライナが露軍と戦っている間に日本が北方領土を奪還すれば、ロシアを挟み撃ちにできるじゃないの―というわけだ。ギョッとし、ハッとした。

ウクライナ取材で驚いたことの一つが、国民の士気の高さだ。露軍の全面侵攻をはね返すだけでなく、2014年以降の東部紛争で親露派武装勢力が掌握したドネツク、ルガンスク両州の占領地や、ロシアが併合を宣言している南部クリミア半島を含む全土を解放するまでは「絶対に諦めない」との言葉を多くの人から聞いた。

「ね、いい考えでしょ?」というナディアさんに、私はオロオロしつつ「日本は北方領土の返還を諦めていません。でも、憲法で武力による紛争解決を放棄しているんです」というような説明をした。

ナディアさんは納得がいかない様子。慣れない通訳を介してのやりとりだったからだけではあるまい。国土が他国に占領されたままでいることが不思議でならないのだ。

こんなエピソードを紹介したのは、もちろん、ナディアさんのアイデアに賛成しているからではない。ウクライナ戦争ひいては国際情勢について、自分に欠けた視点があることに気付いたからだ。「日本が戦争をするわけがない」ことをあまりにも自明視し、現実問題として考えられていなかった不明を恥じた。

 

露軍の侵攻を受けるウクライナは明確に被害者である。日本が積極的に支援するのは当然だ。ロシアのもくろみ通りにウクライナが独立を失えば、日本がよって立つ現行の国際秩序は大きく揺らぐ。

「ウクライナ人は日本を頼りにしているってことを伝えてほしい」。ナディアさんはそう言って、香草をたっぷり使った郷土料理のボルシチを振る舞ってくれた。

【プロフィル】大内清

2002年入社。静岡支局、カイロ留学、外信部などを経て、10~17年に中東支局長。21年から現職。妻と娘はひげのない顔を見たことがない。

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