これは中東情勢が劇的に変わる前兆かも知れない大事件だ
サルマン国王は高齢、めったに外国へ出ない。
トランプ大統領も、わざわざ外遊の最初の訪問地に選んだのはサウジだった。外交はムハンマド皇太子が担い、二回、モスクワへ飛んでいる。ならば国王がこの時期になぜ、他の国を差し置いてロシア訪問に踏み切ったのか。
サルマン国王は10月4日、モスクワに到着し、7日まで滞在するとした。5日にはクレムリン宮殿でプーチン大統領とも会見した。
サウジは冷戦時代、一貫して旧ソ連を敵視した。
ソ連は無神論を建前としたから、イスラム国家の代表を自覚するサウジが、米国の敵を親しくなる筈はなかった。
冷戦がおわり、中東からソ連の影響力が去ると、サウジは態度を軟化させていた。嘗て犬猿の仲だった両国がそれぞれに接触する必要性が産まれた。
2015年にロシアは100億ドルの共同プロジェクトを謳い、農業や不動産開発のプロジェクトを推進する協定に署名した。サウジはサウジで、すでにロシアへ10億ドルの投資を行い、もっと増やすと約束している。
第一にロシアとサウジアラビア両国で世界の石油生産の25%(四分の一)を占めるという事実を把握しておく必要がある。
ロシアはOPEC加盟国ではなく、サウジが進めた原油増産、減算という石油価格調整政策にパラレルにしたがったことはない。しかし、両国は原油市況が半減したことから、お互いの孤立的な立場の補完を模索し始めた。
第二にサウジアラビアが「脱石油文明」を目指すという「ビジョン2030」に、ロシアは何ほどの関心も示さなかった過去を忘れたかのように、俄然熱心となってプロジェクトへの協力を申し出た。
とくに合弁の石油精製、石油製品生産工場の青写真の実現に向け、ロシアは20億ドル前後の投資の用意があるとした。またアラムコのIPO(株式公開)にも、参加したい旨を表明した。アラムコ株の購入には中国が真っ先に手を挙げている。
モスクワ訪問のサウジ国王に随行したビジネスマンは200名前後という大型旅団で、クレムリンでは両国の経済フォーラムが開催された。ロシアを代表するガスプロム、ロフネフツなどの企業代表が参加したことも注目に値する。
▼ロシアは経済協力を申し出て、アラムコ株の購入も材料に、武器輸出を打診
第三に武器供与の問題である。
サウジは表面的には米国兵器、とりわけ戦闘機、パイロットの訓練などで米国依存だが、ミサイルに関しては中国軍を国内に秘密裏に駐在させている。
トランプはサウジ訪問時に1100億ドルの武器供与をサウジ国王との間に交わした。
この大市場に魅力を感じるロシアは戦車、装甲車、武装ヘリ、各種ミサイルなど総額35億ドルのオファーを提示して、過去数年にわたって交渉を繰り返してきたが成約には至っていない。
しかし、ロシアはサウジアラビアに対してS400(イスカンダルミサイル)の供与を売り込みの突破口として提示したとみられる。
米国はしかしながら不快感を表さず、エジプトもインドも、どこもかしこも米国の兵器とロシアとを天秤にかけて外交の武器としており、これは常套手段という認識である。
むしろ米国がもっとも注目しているのは、サウジとロシアが、石油価格の値決めプロセスにおいて、何らかの密約を結ぶのではないか、と見ている。
サウジ国王のモスクワ訪問は、以後の石油市場へのインパクトが大きいと米国国務省は分析している。