「新型コロナウイルスとの戦いは、必ず人類が勝利します」
そう断言するのは、順天堂大学医学部免疫学特任教授の奥村康氏(医学博士)。
奥村氏が考える終息への道筋とは、「集団免疫の獲得」によるものだ。人口のうちの一定割合の人が一度このウイルスに感染して免疫を持つことで、感染拡大が封じ込められていく――という見方だ。
新型コロナ患者の治療にあたる医療現場 ©AFLO
「過去に世界で流行したスペインかぜや香港かぜ、あるいはSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)など、いずれも最終的に収束したのは、人間が集団免疫を持ったから。いまは猛威を振るっている新型コロナウイルスも、最終的には集団免疫によって抑え込まれていくし、それ以外に人間が勝利する道筋はないのです」(奥村氏、以下同)
感染しておくほうが「有利」
人間の免疫は、水際を警備する「自然免疫」と、それで太刀打ちできないときに出撃していく「獲得免疫」に二分できる。自然免疫は加齢などで衰退していくが、獲得免疫は簡単には衰えない。脳や心臓などの臓器さえ劣化しなければ、計算上は200歳まで健康を維持できる強い防御力を備えているという。
「免疫は小さな敵にはとりわけ強い。ウイルスなどはサイズが小さいので、免疫にとっては取るに足らない相手なのです」
新型コロナも、ウイルスの中では多少厄介な程度の存在に過ぎない、と奥村氏。
ただ、免疫にとって「初めて遭遇した外敵」であることが防御能力を下げる要因となる。初戦さえ凌げれば、次からは感染しないか、感染しても大敗を喫することはない。だからこそ、一度このウイルスに感染しておくほうが有利、ということになるのだ。
ワクチンがあればそれも簡単だが、製品化には時間がかかる。早くても来年になるだろう。
新型コロナウイルスには“L型とS型”の2種類がある
そんな状況で奥村氏は、「理論上は」と強く前置きしたうえでこう話す。
「極論を言えば、自粛などしないで普通に生活を送ればいい。そうすることで多くの人が感染し、免疫を持つまでの期間を短縮できる。もちろん本当にそんなことをすれば犠牲者が急激に多くなってしまうので現実的ではないが、なるべく犠牲者を少なくしながら感染経験者を増やしていく戦略を、真剣に考える必要がある」
奥村氏は、「免疫を持つための感染」という点で、日本は欧米よりも優位性がある、と指摘する。
「新型コロナウイルスにはアミノ酸の構造の違いからL型とS型の2種類があることがわかっている。L型は感染した時の悪性度が高く、S型はそれほどでもない。イタリアやスペイン、アメリカなど被害の大きな国で流行っているのはL型で、日本で見られるのは主としてS型。S型に感染して得られる免疫はL型にも通用する。同じ感染するならS型のほうが安全性は高く、有利です」
ならばなぜ、その悪性度の低いS型で重症化したり、死亡したりする人がいるのか。
「新型コロナに限らず、どんなウイルスに対しても“ローレスポンダー”と呼ばれる人がいる。季節性のインフルエンザのワクチンを打っても、効果を示さない人が一定の割合で出てくる。これがローレスポンダー。この人たちは、単に免疫が付きにくいだけでなく、感染した時に悪性化しやすい。新型コロナに感染しても大半の人は無症状か軽症で済んでいます。重症化した人や亡くなった方の多くは、ローレスポンダーの可能性が高い」
現在、ローレスポンダーの人に共通する因子の洗い出し作業も世界中で進んでおり、これが効果的な予防法や治療薬の開発にも役立つはず、と奥村氏は期待を寄せる。
ウイルスと共存しながら免疫を強化する
人間が誕生するより遥か昔から、ウイルスは地球上に存在した。
「あとから出てきた人間が、大先輩のウイルスを完全に排除することなど不可能だ。ウイルスと共存し、利用することで免疫を強化し、健康維持に役立てていくべき」
と、奥村氏は提唱する。
「文藝春秋」6月号および「文藝春秋digital」に掲載の「最後は『集団免疫』しかない」では、奥村氏の解説を元に、人間の生命にとって最後の砦である「免疫」の仕組みと、それを強化し、新型コロナウイルスに打ち克つ防御能力を身に付ける方法を詳報している。
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(長田 昭二/文藝春秋 2020年6月号)
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