タジキスタンという謎の国/尖閣を占領し、地下要塞をつくるのが習近平の計画/

「宮崎正弘の国際情勢解題」 
令和三年(2021)7月25日(日曜日)

俄に注目集まるタジキスタン、シルカンバンダル国境
  アフガニスタン政府軍が逃げ込む。難民も700名が避難

 アフガニスタン側のシルカンバンダル峠をタリバンが抑えた。多数の難民が発生し、またアフガニスタン政府軍およそ1000名がタジキスタン側へ逃げ込んだ。
 タリバンは国境の90%を抑えたと豪語した。アフガニスタン政府は、「それは嘘放送の類だ」と否定したが、現実には「半分以上の地域はタリバン支配となっている」(米軍ミラー統幕議長)。

 にわかに世界のメディアが焦点を充てたのは、このタジキスタンという謎の国である。国土のほとんどが2~3000メートル級の山岳地帯、なかには7000メートルを超える山々が連なり、山の中に国があるという印象である。海の出口はない二重の内陸国家で産業は綿花栽培くらいしかない。

この山岳国家に紀元前からオアシスを求めて人々が出入りし、七世紀頃には通商の民=ソグド人がやってきた。東西冷戦中はソ連の一員であり、現在もロシア軍がおよそ7000名、駐在しているとされる。79年のソ連軍のアフガニスタン侵攻は、このタジクから戦車隊が入った。

 タジキスタンは人口970万人余。多数はスンニ派ムスリム。教育無償のため、識字率が高く、ロシア人がほとんど町からは消えたが、徴兵制度を終えると若者が出稼ぎに出るのはロシア、その仕送りがGDPの30%を占めるという。

 現在タジキスタン公用語のタジク語とはペルシャ語の変異したダリ語、もともとはソグド人の言葉とされる。国連派遣で、タジキスタンで活動していた秋野豊・筑波大学準教授が銃殺されたのもタジクで、1998年の事件だった。

 アメリカがアフガニスタンから撤兵し、力の真空が産まれ、タリバンが復活するのは時間の問題といえるが、それだからこそタジキスタン国境なのである。
 アフガン回廊はタジキスタンの南側を東西に貫いて中国に繋がっている。このため1996年頃から、中国軍の秘密基地がタジキスタン側にあると報道したのはワシントンポスト(2019年2月18日号)だった。

 日本の援助は先進国中トップ、有償援助はなくすべてが無償だ。農業指導のほか、留学生五百名を受け入れている。そのわりに親日国家でもないのは、第一外国語がロシア語であり、出稼ぎの必須条件だから日本語を学ぶ機会がないからとも言える。
 また山岳地帯でのダム開発プロジェクトも大方は中国企業が抑えるようになったという情報がある。


 ▲タジキスタンは秘密裏に領土を中国に割譲し、軍の駐留を認めていた

 タジキスタンを治めるのは1994年以来「終身大統領」の印象がつよいエモヌリ・ラフモン大統領で、中国との領土係争は百年以上も続いたが、急転直下、2010年には処理した。

タジキスタンが1158平方キロの山岳地帯を中国に譲渡し、みかえりに一帯一路関連のプロジェクトを貰った。この秘密協定は存在さえ否定されているが、中国軍の駐在説が根強いから、取引条件だったのかも知れない。中国軍は、この回廊の北側でアフガニスタンにおけるウイグル人活動家を監視をしていると見られる

 問題はアフガニスタンからのテロリストの侵入や難民ばかりではなく、このミステリー地帯は麻薬、武器取引の場所でもあり、たいそう治安が悪いのだ。

 ところで筆者は冷戦終了直後にウズベキスタンから国境を越えて、タジキスタンのペンジケント(パンジケントともいう)という町(人口3万人)に行ったことがある。サマルカンドから東へ50キロ、ほとんど国境の町で、それゆえ商売に明るい人が多いという印象を抱いた。

 ペンジケントは紀元前六世紀に古代国家があったといわれ、多くの遺蹟があって考古学者にとっては発掘作業を本格化させたい地域である。

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書評 

尖閣を占領し、地下要塞をつくるのが習近平の計画だ
  米国は世界の警察官に飽きた。アフガンにあと沖縄海兵隊も移動させる?

日高義樹『習近平が尖閣を占領する日』(かや書房)

 最初の数行を読み出して、おもわず著者名を見返した。 あれっ。トム・クランシーの遺作でも発見されたのだっけ? 
 ほとんどの米軍の艦艇に乗り込んで豊富な取材経験があり、アメリカの軍事情報に通暁する日高氏のことだから、よほどの確度高いデータの裏打ちがあるに違いない。なにしろ尖閣を占領し、地下要塞をつくるのが習近平の計画だというのだ。
 衝撃の事件は「ネブラスカ州オフワットにある戦略空軍の通信基地が数回にわたって(中国に)ハッキングされ、電波妨害を受けていた。この戦略空軍基地は、アメリカ全土に配備されている大陸間弾道ミサイルICBM、ミニットマンを統括している」重要な拠点である。
このアメリカの地球的規模の戦略にとって枢要な基地がハッキングされた?
 「一歩進めば戦争状態になる。この危険な状況に対処するため、メリカ戦略空軍と地球防衛軍は戦略爆撃機をアメリカ本土からグアム島やフィリピン、沖縄や韓国のオサンに移動させた」
尖閣を狙っていることは明白だが、習近平の意思は、「島の大きな岩山と広い岩盤地帯を利用した地下軍事基地である。もっとも重要となると思われるのは、岩山をくり抜いてつくられる地下の空軍基地である」(22p)。
なぜなら「魚釣島の岩山がスカンジナビア半島のスエェーデンの地下軍事基地と同じような地形を有している」からだと日高氏は指摘する。
駐留させる兵力は一箇師団程度の特殊部隊。中国軍はアメリカと対抗できる軍事力を備えたと習近平が判断しているらしいが、そういう野望が達成できるのか、どうか。一箇師団といえば、一万人である。

しかし、アメリカは世界の警察官に飽き飽きしており、そろりと沖縄海兵隊を豪に移動させた。オバマの声明は曖昧模糊としていた。実際は逃げたのだ。
中国はじっとアメリカの疲れを待っていた。さらに米軍の一箇師団はグアムへ移動したとされたが、どっこい空っぽに近く、ほとんどがアフガニスタンへ出かけており、沖縄にもアジアにも海兵隊は不だったのである。
中国はじっと待っていた。偵察を重ね、尖閣領域を侵犯し続けながら、日米の出方を観測してきたのだ。
つまり、海兵隊など戦闘要員を引き揚げる一方で、基地体制をそのまま維持し続けるとアメリカの対応は、「領土拡大の野心家たちを招き入れる危険な状況である。海兵隊がすべて沖縄をあとにしてしまったから、沖縄とその周辺は、マッチ一本で燃え上がる危険な火薬庫のような状態
だと警告する。
沖縄をアメリカ軍が放棄すれば、中国が抑えるだろう。すなわち「沖縄の基地と装備は中国に横取りされる」のだ。

 バイデンは中国に対抗して軍事強硬派に変身した。
 あのパンダハガーと言われ、たっぷりとチャイナマネーに浸っていたバイデンが、なぜ突然変異的に対中強硬路線に転じたのか?
それは二流の指導者が切羽詰まると、はったりの決断をするようにトルーマンが決断ある指導者としての評価を得たいがために原爆投下を命じたように、パフォーマンスを見せる必要がある。買収されて中国の傀儡といわれることにも、そうではないと示威する必要がある。だからバイデンはくるりと向きを変えてしまったと日高氏は分析する。
呆気にとられているのは、むしろ習近平だろうとも示唆する。
日高情報は米軍関係者へのインタビューから、台湾の動きを伝える
台湾軍幹部は秘かに訪米して国防総省と交渉し、トマホーク・ミサイルの供与を求めた。そしてバイデン政権は、「これまでいっさい外国政府に売り渡さなかったトマホーク・ミサイルを数十発、台湾に売却する決定を行った」。
(この話は本当か?)
射程2500キロ、450キロの高性能爆弾を搭載するトマホークは、地上からも海上艦船からも発射できるシロモノ。
もし、これが実現したら「台湾の中国に対する攻撃能力は飛躍的に高まる」。中台戦争は長期化し、経済は停滞し、中国は海上交通路が封鎖されて貿易も行えず、外貨準備は枯渇するだろう。
そうした計算を商業の民であるシナ人が出来ないはずはないだろうに。。。
ところが北京の独裁皇帝は「裸の王様」であり、不正確な情報と周囲の媚びによって、「台湾海峡で戦闘になれば、簡単に勝てると決めつけている」という。
以上は米軍の動きをウォッチしてきた著者のシミュレーションと捉えることが出来るが、こういう筋書きで話は進む。詳細は本書に当たっていただきたい。  
日高氏が最後にいうのは、日本こそ消滅するか否かの最悪に危機に瀕しているという認識である。
いま日本に必要なのは決断できる強い指導者である、という結論は賛成である。
      ☆●□●▽●☆●□●▽  ☆●□●▽●☆●□●▽  

読者の声1)「世界大学ランキング」で、中国の大学が、アジアの大学で初めて世界トップ20入りを果たした。ところが、東大、京大は30位台といいます。
この日本と中国の大学の差はなにから生まれたのでしょうか?
 (DD生、多摩市)

(宮崎正弘のコメント)簡単ですよ。ハングリー精神の欠如です

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